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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第三章 始まりの予感
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第七話 魍魎の憂鬱 その一

ここから、新しい話に入ってゆきます。アシュリー&エミリア中心のお話です。ですが、これは前にも書きましたが、前作に続きあまり出来がよくありません!そうですね……コテコテのコメディーにしようとして見事滑ったといった感じでしょうか……。正直寒いです……。ですが、前作ほど長くはないので、我慢して読んでいただけると嬉しいです!

で、前回までは三話で一つの大きな話になっていましたが、今回の第三章はそうなっていません。独立した小粒な話が三話ほど続きます!

(第八話から少し持ち直す予定です!)

 カサコソ、カサコソ。


 カサカサカサ、コソコソ。


 それは、町からの帰り道だった。木立が映える森の中の土の道。タラッタラッタと足を軽やかに弾ませて、エミリアは屋敷へと続く道をたどっていた。それは、胸までをもウキウキと弾ませるもので、散歩道の子犬の如く、その道行きを楽しんでいた。


 周囲にはいつもの景色。だが、何となく今日は木々や小鳥たちまでもがにっこり微笑んでいるように感じられて、吹く風すらも軽やかに感じられて、ひたすら浮かれ調子でエミリアは道を行く。そう、なんともご機嫌といった感じであったが、そんな風にしてエミリアが心と体を弾ませる理由とは、それは……、


 カサコソ、カサコソ。


 この手にある小さな箱だった。実は、日ごろの感謝の気持ちをこめてと、今日思い切ってエミリアは師匠へのプレゼントを買って来たのである。勿論、少しずつ貯めていた自分のお小遣いを使って。


 師匠はどういう反応を示すだろうか、喜んでくれるだろうか。


 これを渡した時の魔法使いの表情を想像して、エミリアの胸は思わず期待に膨らんでゆくのであった。


 そして段々と細くなってゆく道を通り、やがてエミリアは屋敷に到着すると、その軽やかな足取りのまま玄関の扉をくぐっていった。更に玄関ホールから続く廊下を行って、最初の部屋の入り口……居間の扉から顔を出してキョロキョロと中を覗くと……。


 いない……。


 そう、そこに魔法使いはいないかと姿を探して覗き込んだのである。だが、残念ながらそこには誰もおらず……。

 予想が外れたことに、エミリアはうーんと眉間に皺を寄せる。そしてすぐに表情を元に戻すと、ならばと新たな答えを出し、


 次に考えられるのは書斎、きっとそうに違いない。


 切り替え早くエミリアはそう見当をつけると、鼻歌交じりにその部屋へと続く階段を上がっていった。そして箱を後ろ手に持ち、緊張する気持ちに深呼吸を一つつくと、魔法使いの書斎の扉の前に立って、


 トントントン。


 エミリアは気持ちもそのまま軽やかに扉をノックしていった。すると、


「なんだ」


 やはりここにいたらしい、いつもの如くどこか不機嫌な様子の魔法使いの声が返ってくる。だがいつも以上に上機嫌のエミリアは、既に慣れっこになってしまったその声に臆することなく、


「エミリアです。買い物から戻ってきました」


 そう明るい調子で返事をする。すると、少しの沈黙の後やがて扉の向こうから聞こえてきたのは、「……何の用事だ」という魔法使いの面倒くさそうな声。まったくもって、相手にするのも鬱陶しいとでもいうように。それに、返事いかんでは門前払いを食らう可能性もありそうだなと、それは絶対に避けねばなとエミリアは思うと、


「入りますよ~」


 こうなったら強行突破だと、そう言って扉を開け部屋の中へと入っていった。勿論、あの箱は背に隠したまま。そして早速、


「あの……実は、お師匠様に渡したいものがあるんですけど……」


 それは実に可愛らしいもじもじとした態度。

 だがそれに、魔法使いはいかにも不審といったような表情をすると、どこか険しい眼差しでエミリアの方を見据え、そして、


「なんだ、領収書ならお断りだぞ」


 とりあえず買い物があるからとだけ言って出かけていたエミリア、なので立て替えたお金の請求でもされるのかと思ったのだろう、跳ね除けるよう魔法使いはそうぴしゃりと言葉を放つ。

 すると、それにエミリアはぷっと頬を膨らませながら、


「違いますよ、お師匠様にプレゼントです」


「プレゼント?」


 おかしなことを聞いたとでもいったように、魔法使いは困惑の表情をする。


「別に誕生日でもなんでもないが……」


「そうですけど、いつもお世話になっているので、お礼の気持ちで。はい、これ……」


 そう言ってエミリアは背に持っていた箱を魔法使いの目の前に差し出していった。


「お小遣いを貯めて買って来たんです」


「……」


 相変わらず怪訝な表情をしている魔法使い。そう、そんなことされる覚えが全くない彼だったから、それもそうなるのだろう。そしてその怪訝な表情のまま、


「開けたらわら人形とか……」


「だから、違いますって!」


 性格上か、どうにも素直に人の好意が受け取れないようだった、あくまで悪意と受け取ろうとする魔法使いに、頭が痛くなるのを感じながらエミリアは思いっきりそう突っ込んでゆく。そして、


「とにかく、開けてみてください」


 無理やり押し付けるよう、エミリアは魔法使いの手にその箱を渡す。

 それに戸惑いながら恐る恐る箱を開けてゆく魔法使い。すると中から出てきたのは……。


「……」


 やはり、魔法使いの困惑の表情は変わらなかった。いや、先程より更に困惑は深くなっているかもしれない。なぜならそれは、


「……ネズミ?」


 そう、中に入っていたのは二匹のハツカネズミだったのだ。愛らしい姿で、箱の中をカサコソと忙しなく動き回っている。


「はい、せっかく再生魔法の研究をしているっていうのに、いつまでも植物から離れられずにいるようだったから……ならば、もしかしたらこれはいいプレゼントになるんじゃないかと思って」


 人や動物の組織や医学関係の書物は山のようにあるのだった。すべて目は通してあるようにも思えるのに、何故か植物ばかりを扱い、動物を使った再生魔法の実験には中々入らない魔法使い。理由は何だか分からないが、もしその一歩が踏み出せずにいるのなら、自分が背を押してやるのもいいだろうと、そう思って、エミリアは実験動物をプレゼントすることを思い立ったのである。


 そう、きっと喜んでくれるであろうと思って買って来たプレゼント。なので、相変わらずニコニコしながら、エミリアはその反応を心待ちにしてゆくと、


「実験用、という訳か?」


「はい!」


 魔法使いの問いかけに何の疑問も持たないよう、エミリアは心底から明るく返事をする。すると、それに魔法使いは頭が痛いように額を押さえ、


「これは……喜ぶべきなのだろうか……」


「??」


 何故か困惑顔の魔法使い。思いがけない反応を目の前にして、エミリアは訳が分からず、キョトンとした表情をする。


「何か不都合でも……」


「いや、ありがたくいただいておくが……一つ聞かせてもらいたい、再生魔法の習得に、おまえはどれほどの植物を犠牲にしたかを分かっていて、私にこのプレゼントをしようと思ったのか」


 不意にしてきたその質問。だが、何故魔法使いがそう問うてきたのかが分からず、エミリアは「はあ、まあ一応……」と、曖昧な返事をして、小首を傾げる。するとエミリアのその様子に、魔法使いは困ったモノでも見るようため息をつくと、


「おまえは……何も分かってないな。植物を動物に置き換えろ。習得する為じゃなく、それが今ある技術から先へ進もうと、仮説を元に実験していった場合にも、そういうことが起こる可能性があるだろう。つまり……失敗が」


 それにエミリアは再びキョトンとする。そして、植物を動物に置き換え? 植物を動物に置き換えて実験、そして失敗……と、考えを巡らせてゆくと……。


 あっ!


 そこでようやく、エミリアは魔法使いの言いたいことを理解する。湧き上がる嫌な予感に、エミリアの顔が青ざめる。すると、エミリアのその様子から心の中を察したのか、魔法使いは不意に意地悪くニヤリと笑うと、


「道を切り開くとは、そういうことだ。失敗と隣り合わせにある。とある仮説の下にある再生魔法の実験の為、ねずみにメスを入れて傷をつけ、そして更に魔法でいじくりまわす。そうやって実験が成功すればいいが、失敗すれば……」


 そこで十字を切る魔法使い。すると、その仕草に何となく、背中に羽をつけ天に召されてゆくネズミの姿が見えるような気がして、エミリアはショックで愕然とする。そして、自分がやったことの意味を今更ながら悟ると、慌てて魔法使いの手にある箱へと歩み寄り、


「リリーちゃん、ジョン君、ごめんね~」


 そう言って涙目でその中を覗き込むのだった。

 やっぱり……と、何も分かっていなかったらしいエミリアに、呆れる魔法使い。だが、彼を更に呆れさせたのは、


「……おまえは名前までつけてたのか。それもつがいか? 名前からして」


「はい……」


 ショックから立ち直れず、どこかしょんぼりしながらエミリアは答える。それに魔法使いは再び呆れたようにため息をつくと、


「ったくおまえは……いいか、よーく聞いておけよ。ねずみの妊娠期間は二十日間だ。一年に五回から十回出産するんだ。この子が更に子を産み、またその子が子を産み……そうして一年後には一体何匹になっていると思う」


 またもや振ってきた不意の質問。エミリアは頭を悩ませるが、こうやって振ってきたということはきっと半端な数じゃないのだろう。なので、


「うーん、数百匹?」


「ちがーう、何千匹だ! とんでもなく増えるんだぞ。それともおまえは私に大量虐殺を望んでいるのか?」


 な……何千匹……何千匹のネズミが我が家にうじゃうじゃと……。


「ひ、ひえ~! お師匠様、箱、もう一個箱。早く二匹を離さないと!」


「やっとわかったか、ばかめ」


 そうして慌てて箱を探し出し、何とか二匹を別々にすると、エミリアはようやくホッとしたように胸をなで下ろした。そして、


「でも、このままじゃいつまで経っても植物から先にいけないですよね……動物を犠牲にしたくない気持ちも分かるんですけど……」


 それに魔法使いはうーんとうなりながら、


「知識は頭の中に入っている。イメージトレーニングもしている。大きくない傷ぐらいなら、実際もうまくやれそうな気はするんだが……」


 目標を目指すなら、このままじゃいけないことは魔法使いにも分かっていた。やればそれなりの成果をあげることが出来る気も、何となくだがしていた。だが……。

 動物実験、再生魔法に携わるものなら誰でもやっていること。そうすることに躊躇いはどこにもないはずなのだが……だがしかし……。


 中々その一歩を踏み出すことができない魔法使いなのであった。

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