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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第二章 信じる者の儚き幻影
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第五話 この上なき秘宝 その十四

 そして、いつもの如くやかましい夕食も終わり、皆も寝静まった頃の深夜。早速エミリアと魔法使いは竜の促しに従って、部屋をこっそり抜け出していった。そう、誰にも見つからないよう周囲に注意を払いながら、人気のなくなった暗い屋敷の廊下を、手にする燭台の灯りだけで。そして、エミリア達を確認するよう、時々後ろを振り返りながら先をゆく竜の後をついていってみれば、やがて到着したのは地下の倉庫であった。堅牢な石造りの中々の広さのあるその場所は、あまり活用されてないのか木箱がいくつか置いてあるだけの殺風景なもので、どこか埃っぽさを感じさせるかび臭い部屋であった。

 その部屋を竜は真っ直ぐ横切ってゆくと、一番奥の壁際まできて立ち止まり、目の前にはだかるそれを前足で引っかいた。


「行き止まり、だな」


「でも、竜はまだ先に進みたがっているみたいです」


「この先にまだ道がある可能性もあるってことか。なら……」


 そう言って魔法使いはおもむろに呪文を唱え始めた。それに、エミリアの胸に嫌な予感が過ってゆく。


「だ、駄目ですよ。無理やり壊したら、屋敷の人に気づかれてしまいます!」


 魔法で扉をぶっ壊そうとしている魔法使いを察して、エミリアは慌てて止める。


「どこかに、スイッチみたいなのがある筈ですよ。それを探しましょう」


 その言葉にどこか不満顔の魔法使いであったが、常識で考えれば確かにそうで、渋々ながらそれに承知する。そして二人は部屋の中にある筈のスイッチを探し始めた。そう、床、壁、はめ込まれている石を一つ一つ手や足で叩いて。そう、動きそうな石、外れそうな石などはないかと丹念に。すると竜はそんな二人の姿をじっと見つめていたが、不意にひらめいたよう歩き出して、とある壁際までやってきた。そして、


「?」


 壁を支えに竜は二本足で立ち上がり、届かない物を一生懸命取るかのようつま先立ちして手を伸ばしてきたのだ。それに気づいた魔法使いはなんだと様子を窺っていたが、もしやと思い、その竜が手を伸ばす方向の壁を押してみたり叩いてみたりを試してみた。すると、一つの石が押すとズズッと奥まで入っていって……。

 そして、


 ズズ、ズズズズ……


 竜が先へ行きたがっていたところの壁が、上へと持ち上がっていったのだった。


「やっぱり……」


 その奥にはまだ部屋があるようだった。なので、もっと詳しく確かめようと、燭台を手に魔法使い達は中に入ってゆくと、更なる灯りを得るべく、部屋の壁に据え付けられている燭台へと火をともしていった。だが……。どうやらこの部屋、かなりの広さを持つもののようで、一つ二つ灯りを増やしただけでは全体を見渡すことは殆ど出来ないのであった。それでもなんとか部屋の様子を探ろうと、少しずつ蝋燭の灯を増やしていって、やっとぼんやり視界が開けてくる。すると、


「お……お師匠様!」


 エミリアは灯りと共に目の前に現れた物体に恐れをなすよう指をさしてそう言った。そう、そこに現れたものとは、金色の鋭い目、尖った爪を持つ四本の足、硬い鱗に覆われた皮膚、鋭い牙……体長三メートルはあろうかという巨竜だったのだ。迫力あるその姿にエミリアは思わず後退りするが、幸運なことに竜は生きてはいなかった。とある一点の方向を見つめたまま、微動だにせずそこに存在しているのがその証拠だった。そう、まるで生きているかのように美しく、今にも動き出してしまいそうだったが、その竜は剥製であったのだ。


「保護種である竜の剥製がこんなところに……」


 それは、ここにあってはならないものであった。まるでそれを分かっているかのように、秘密の部屋に隠され……。


「なるほどね。密猟、か。それもこんなに沢山」


 辺りを見回してみれば、大小さまざまな種類の竜の剥製が飾られていた。


「やっぱり、男爵でしょうか。それにしては、この指輪の竜に関しては、随分紳士的な態度でしたよね。森に返すから生け捕りにって」


「おそらくこいつも剥製にしたかったから、生け捕りにしろと言ったんだろう。へんな風に傷つけられたらたまらないとでも思ったんじゃないか。ったく、紳士ずらして、とんでもない裏をもったおやじだ」


 忌々しげに魔法使いはそう言う。だが、そう決め付けるのはまだ早いのではないかと、エミリアは思った。確かな証拠がなかったせいもあるし、うんざりなおじさんではあったが、そういった悪いことをするような人物には思えなかったからだ。そして、色々知っているだろう竜に向かってエミリアは、


「ねえ、竜さん。教えて、何故あなたはこの場所を知っていたの? 竜の剥製のことを知って、私達に伝えようとしたの?」


「ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、」


「なんて言ってるか分かるか?」


「うーん、流石にこれはわからないです。なにせ、元が勘なので」


 エミリアは困ったような表情を浮かべる。

 すると、竜は伝わらないその気持ちを察したのか、ならばそれをどうしようとでもいうかのよう首を傾げると、不意に二本足で立ち、少し身をくねらせながら、しゃなりしゃなりと歩き出した。


「な……なんでしょう」


「何かを伝えようと、してるんだろうか?」


 竜の言わんとしていることが分からず、二人は頭を悩ます。すると、竜はしゃなりしゃなりと歩きながら、右手の指で輪っかを作り、それを左の指にはめる仕草をした。それは恐らく指輪を示す仕草、それで二人はピンときた。


「男爵夫人!」


 声を揃えて二人はそう言う。すると竜はそれに正解を示すようコクリコクリと頷き、指輪を指差して、その後遠くでも見渡すように手を目の上に持っていった。


「男爵夫人があの指輪をはめている時、その中からこの部屋の様子を見ていたってことでしょうか?」


「ああ……どうやらそうらしいな」


「でも、なんで男爵夫人がこの部屋にいたんでしょう」


 すると、その言葉に答えようとでもするかのよう、竜は何か長いものを指で描くと、それを握って振り下ろす仕草をした。それはまるで何かを突き刺すような仕草にも見え……。


「男爵夫人が、この竜を刺し殺していたってことでしょうか?」


「うーん、分からんな。意外と竜じゃなく、他のもの、人とかだったりしてな。例えば……」


「あの少女!」


 魔法使いが言わんとしていることを察し、エミリアがそう叫ぶ。確かに、そうすれば、少女が誰に殺されたかの答えを、指輪の呪いを解くことに隠されているように言った意味が分かるというものだった。だが、


「え、違うの?」


 二人のそんな会話を否定するように、竜は違う違うと手を振っていた。そして竜は再び四足になって素早い動きで部屋の奥へと歩いてゆくと、まだ蝋燭のともされていない、薄暗い場所で止まって、何かを指し示していた。それにエミリア達も後を追うよう急いでその場所へ行く。すると、


「!」

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