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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第二章 信じる者の儚き幻影
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第五話 この上なき秘宝 その九

「それで、結局依頼内容はなんだったんです?」


 男爵夫人が去った後、早速話の続きが聞きたくて、エミリアは再びそう促す。するとそれに魔法使いは一つ頷くと、


「バートラム三世の呪いの指輪の話を知っているか?」


「ええ、有名な話ですよね。魔法使い狩りの猛威が吹き荒れている時、古代魔法使いから応酬した指輪です。それをはめた王は悪夢にうなされるようになり、外そうにも外れなくて、結局気が触れて自殺したって。それで、古代魔法使いの呪いのかかった指輪だと……」


 そこまで話して、エミリアはもしやと言葉をとめる。はめると外れなくなる同じ呪いの指輪同士、それをわざわざ魔法使いが振ってくる理由とは……。


「……まさか、これが……」


「男爵の言によれば、その指輪ということだ。結局外れなかったからなのかなんなのかは知らないが、王の遺体と共に墓に埋葬されていたらしい。それを何者かが盗掘し、闇に流していたと」


「それで闇ルートがどうのって言っていたんですね。で、その闇ルートを使って男爵が手に入れた……と。確かに、やばい指輪ですね……」


「ああ、その話が真実ならな。だが、確かに伝説と符号が一致する部分も多い……」


「でも、何の為に男爵はそんな呪いの指輪なんて手に入れたんです? はめられない指輪なんて、持っていても仕方がないと思うんですけど」


「それなんだが……男爵は過去のノーランドの歴史が刻まれている、フォラーニの年代記という古書の写しを出して私に見せてきた。本にはバートラム三世が手に入れた指輪のことが書かれており、更にその指輪には失われし過去の秘宝が眠るということも書いてあった。恐らくそれがこの指輪を示しているのだろうと男爵は言っている。だが、フォラーニの年代記は王の庇護を受けていた学者が王から命を受けて書いたものだ。王家賛辞に寄った内容となっていて、また噂の類も含まれているといわれている、その信憑性には大きな疑問が残るんだが……まあ、男爵はそれを信じていて、それで指輪の中に眠ってるだろうと考えられる、その失われし過去の秘宝とやらを取り出して欲しいと言ってきたんだ。それが今回の依頼だ」


 まさか王家の墓の盗掘品が出てくるとは思わなかったエミリア、その話の内容から魔法使いがやばいと言っていた意味を知って、思わず言葉を無くして唖然とする。そして、


「失われし過去の秘宝……じゃあ、私の見た竜は一体なんなんでしょう?」


「推測だが、その宝を守るために一緒に封じられていたと考えられる。それによって、呪いの指輪となった訳だ」


「なるほど……宝を守る守護獣、という訳ですね。でも、これで一度引き受けたら最後までやり遂げるか、他に公言しないかしきりに確認していた理由が分かりましたね」


「ああ、これが公になれば男爵家の名に傷がつくからな。何せ盗品だ、それも王家の墓の。さっきもしきりに公言しないか、最後までやり遂げるかを確認していた。まず私一人に話を持ち出したのもそういった理由からだろう」


「結局私に喋っちゃってますけどね……あはは」


 度重なる無礼に苛立ちを感じている為か、先程の怒りを引きずっている為か、どっちの理由の為かは分からないが、どうやらそんな約束などもうどうでもいいと魔法使いは考えているようだった。確かにその気持ちも分からないではないが、まあとりあえず、自分は自分の胸だけにしまっておこうとエミリアは思っていると、


「いやー、どうやら依頼を引き受けてくれるようだね。妻から聞いた、嬉しい限りだよ」


 ノックもせずに突然勢いよく部屋の扉が開き、明るい表情で男爵が入ってきた。


「話をしていた感じじゃ、なんか乗り気じゃないような雰囲気だったから、ちょっと心配していたんだが」


 それに魔法使いはとりあえず依頼人には依頼人に対する態度を、と思ったのか、再び取ってつけたような紳士な態度を男爵に向けると、


「早速これから仕事に入りたいと思います」


「そうか、そうか。だが……くれぐれもお願いしたいことがある」


「はい?」


「夢に出てくるというあの竜だが……もし、竜も指輪から解き放たれたとしても、殺してはいけないよ。例え獰猛だったとしても、竜は保護種だ。生け捕りにして森に返してやるのがいいと、私は思っているからね」


 意外に優しい心配りを見せる男爵だった。

 だが、それに魔法使いは胡散臭いような眼差しを浮かべると、少し考えた風を見せた。そう、攻撃することになるのなら、生かす殺す考えずに思うままやれたほうが楽であるのだ。そこに生け捕りという注文がついたのだから、攻撃にも色々気を使わなくてはならなくなる。となると……、


 厄介なことだな。


 そう魔法使いは胸で呟きながら、だが表面上は納得したように頷いて、


「……分かりました」


「では、よろしくお願いするよ」

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