第三話 過去という名の鎖 その十二
ノーランド暦二一四六年五月十五日午前十時00分
実験開始時刻。
実験の内容は荷車四台分、約三トンの小麦を遠隔操作によって転移させるというもの。空間に切れ目を入れ亜空に入り、更に目的地の空間に切れ目を入れ、物資を遠隔操作で移動させる。遠隔操作の為の魔具なしで行うこと、後方からの魔力注入人員を減らすことが実験の大きな目的であった。
「では、実験に入る前に役割の確認をする」
研究員達を前に、実験の開始を宣言するよう魔法使いは厳しい表情でそう言う。
するとそれに研究員達は、その言葉に答えるかのよう皆力強く、
「はい!」
「物資の遠隔操作は私がやる。空間に切れ目を入れるのは、ハーヴェイだ。大役だぞ、へまするなよ」
「は……はい!」
彼も一流の魔法使いであった。だがこれは魔法使いのやる物資の遠隔操作に次いで重要かつ慎重な仕事を要求されるもの、この日のためにしっかりトレーニングを積んではいたが、やはり大役にプレッシャーを感じているのか、緊張で強張っているのがありありと分かる表情で彼はそう返事をする。
すると、それに隣にいたフィラーナが気づいて、
「リラックス、リラックス。あなたならきっと大丈夫よ、頑張ってね」
少しでも緊張を和らげてあげようと、小さくハーヴェイに声をかける。
「後方からの魔力の補充はリュー、サディアス、フィラーナの三人だ、圧に注意して魔力を注入しろ」
「はい!」
「記録と監視はセーファスだ。少しの異常も見逃すな」
「はい!」
「転移終了確認はレヴィンとヴァルだ、聞こえてるか?」
『聞こえてるよ~』
『聞こえてる、聞こえてる』
転移目的地からこちらに念を飛ばして、レヴィンとヴァルがそう言葉を返してくる。彼らの声に緊張感がないというか、どこか余裕が感じられるのは、仕事は確認が主というところからくるものであろう。それに魔法使いは困ったものだというようにため息をつくと、
「随分と余裕そうだが、そっちの魔方陣は大丈夫か?」
それは転移の目印となる移動先の魔方陣の仕上がり具合を尋ねるものであった。するとその問いかけに彼らは、
『大丈ー夫! ばっちり見事な魔方陣を描いたよ』
『いつ何がきてもオッケーだよ』
皆準備は万端ということだった。それに魔法使いは納得したように頷くと、
「では、それぞれの仕事を忠実にこなすことを考えて実験に望んでくれ。まずは魔力注入班からだ、少しずつ慎重に魔力を注入してゆけ」
いよいよ開始だった。その言葉に魔力注入班の三人は、大きく息を吸い込んで心を落ち着けると、呪文を唱え、目の前にあるその転移目的物、巨大な魔法陣の中にでんと居座る四台の荷車に魔力を注いでいった。