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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第一章 ひとひらの花びらに思いを
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第三話 過去という名の鎖 その七

 魔法使いが去って、静寂の屋敷に一人残されたエミリア、亀のようにな歩みの時の中で思うこと、それは……。


 暇だ……。


 あまりにも暇でエミリアは窓の外なんかをボーっと眺めたり、魔法使いから貰った腕輪を見つめたりしながら、なんとか時間を潰そうとしていた。 


 これっていつ作ったんだろう、夕べあの後に作ってくれたのかなあ。


 暇なついでにそんなことも考えながら、心配してくれたことに少し嬉しくなって、思わず顔をほころばせたりなんかもしてみる。  


 だがそんなことだけでは勿論時間は持たない。またすぐに退屈になってしまい、エミリアは椅子にぐてっと体を預けて今度は天井を見遣った。


 久しぶりに感じるゆったりとした時の流れ。 


 この時の流れに、今までどれだけ魔法使い一人に手をかけていたのかが身にしみて分かる。いや、やろうと思えばいくらでも仕事はあるといえばあったのだが、一人という気楽さに、つい怠け心が首をもたげてしまって、うだうだを楽しんでしまっている自分もいたのだった。


 こういう時にこそ宿題かしら。


 これではいかんと気を取り直し、いまだ完成しない魔法を思い出す。


 そう、魔法使いが帰ってくるまでに、宿題を完成させて驚かせてやるのはどうかと思ったのだ。


 そしてこの名案にエミリアは勢いよく椅子から立ち上がると、早速練習すべく、色々な植物が植えられている裏庭に場所を移動した。


 鼻歌交じりに歩む道、そうして向かった先には、魔法に使う薬草から、食卓に上る野菜まで、色とりどりの植物が生え揃う畑があった。アシタバかノコギリソウかシロツメクサか、それらの中からどれで試そうかと色々物色していると、庭の端に植えていたザクロの木がエミリアの目に入った。まだ実はなっていないが、魔法で成長させて実を生らせ、おやつとしていただくのもいいかもしれない。そして食べきれないほどいっぱい実を生らせて、魔法使いにプレゼントしてやるのだ。


 そんな妄想に胸をわくわくさせながら、それに決定とエミリアは呪文を唱え、意識を集中させてゆく。すると、


「ううう……」


 不意にどこからか人のうめく声が聞こえてきたのだ。せっかくのザクロ……いや集中を邪魔されて少々不機嫌にエミリアは辺りを見回すが、特に何も目に入らず、いつもと同じ庭の景色が広がるばかりだった。訝しげに思いながらも気を取り直し、エミリアは再び呪文を唱えて集中し始めると、


「うううう……」


 またも苦しげな声が聞こえてきた。


 こんな森の中を人が通ることは滅多にない、不思議に思いながら今度は歩いてその声の主を探す。すると……結界のすぐ外の木の根元に、男性が一人倒れていたのだ。その人は苦しそうにうめきながら、今にもそのまま死んでしまうんじゃないかと思うほど激しくのた打ち回っていた。


 そんな人の姿を目の当たりにして、エミリアは動揺した。一体どうしたらいいのかとパニックに陥って、頭の中が真っ白になる。するとその者は、「ううう……」とうめきながら不意に顔を上げてきたのだ。そしてエミリアと目が合うと、漸くその存在に気づいたようで、


「せ…背中の袋の……中……の、薬を……飲ませて……くれ……」


 相変わらずの苦しげな表情でそう訴えてきた。


 どうしよう、どうしよう。お師匠様は誰かがこの場所を尋ねてきても無視しろと言っていた。ということは、お師匠様の言いつけを守るなら、私はこのままこの人を見て見ぬ振りをしなければならない訳で……。でもそうなると、もしもこの人が本当に病人なら、私は彼を見殺しにすることに?


 そんなことできない!


 こんなに苦しむ人を目の前にして、ただ師匠の命令に従わねばという理由だけで見捨てることなどできなかった。


 でも、でも、もしこの人が怪しい人物だったら? 確かに胡散臭いといえば胡散臭い……。


 だが、そう逡巡している間にも、その者の苦しみは次第に増してゆくようだった。このまま自分のせいで死んでしまったらと考えると、エミリアはいてもたってもいられなかった。


 ぱぱっとでて、ぱぱっと薬を取り出して、ぱぱっと戻ってくればいいではないか。顔だって昨日の者達とは違うようだし。


 そう自分に言い聞かせ、エミリアは結界からそろそろ出て行った。エミリアや使い魔達など、魔法使いが許した者は結界の中と外を自由に行き来できるようプログラムされていたので、そうすることが可能であったのだ。


 そして素早く男の傍らに寄り、背中の袋に手を突っ込んで薬を探す。だが、色々な物がごちゃごちゃと入っているその中から薬を探し出すことは中々の苦労で、少々焦りながらエミリアは中身をぶちまけていると、不意に背中の袋が消えて無くなった。いや、無くなったのではない、男が立ち上がり袋の位置が移動したのだ。


 男は高い位置からしゃがむエミリアを見下ろしてくる。


 それはまるで今までの苦しみなど嘘のよう、けろりとした表情で……。


「まさかこんな手にひっかかるとは、呆れた娘だ」


 そこで漸くエミリアは気がついた。


 あーん、やっぱり罠だったのね。ごめんなさいお師匠さま……。


 そう思うとすぐに腹部に鈍痛を感じ、エミリアは意識を手放していった。

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