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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第一章 ひとひらの花びらに思いを
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第二話 人と人との狭間で その四

 こない……。

 

 街は夕焼けで赤く染まっていた。迫りくる夕闇の気配に、人々は追い立てられるよう、行く道を急いでいた。そんな寂寥感を煽られる光景を前に、魔法使いは馬車の停車駅でぼうっと立ち尽くしながら、まだこぬ人を待ちわびていた。


 そろそろ帰宅ラッシュを迎えるのだろう、大道には馬車の波が右に左に慌しく行き交っており、黄昏の時を告げるかのよう、空には烏達が耳障りな鳴き声をあげながら飛んでいる。


 刻々と変わりながらも繰り返されるのは、よく見ると同じような単調な光景だった。しばし見つめていればだんだん慣れて退屈になり、やがていつまでたっても見知ったものの姿を視界に捉えることの出来ない苛立ちが魔法使いの胸に湧き上がってきた。


「ったく、どこで一体何してるんだか!」


 既に乗る予定だった馬車は出発している。とうとうぶちぎれて魔法使いは憎憎しげにそう吐き捨てると、いらだたしさをあらわすように地面を忙しなく足先で叩いた。いや、ここまで辛抱強く待ったことは、彼にとってかなり驚異的なことなのであった。そして、


「くそっ、仕方が無い」


 いつまで待っていても仕方がないと思ったのか、魔法使いはとうとう諦めたかのようにそう呟くと、目を瞑り片方の手を天へと向けようとした。探査の魔法を使ってエミリアを探そうとしたのである……が、


「……」


 ふと魔法使いは気付いたように目を開けると、すっかり失念していたある事に気がついた。目の中に飛び込んできたのは往来する人、人、人の姿。それも美しく着飾った上流の。そう、ここは「アディントン四番街」、高貴な雰囲気を醸し出しながらも、街の中ではそれなりの賑わいをみせる通りであったのだ。しかも、時間帯が時間帯であり……。


 目立ちすぎる……。


 確かに、この国は魔法立国であったから、道端で突然魔法を使う人間がいても別におかしなことではない。今彼は魔法使いの略装であるローブをまとっていたから、なおさらである。だが、この人ごみの中でブツブツ何かを呟きながら一人手を天に上げた格好というのは、やはりかなり悪目立ちした。それも使う魔法は探査の魔法という、かなり地味なものであったから、そのポーズだけが人目にさらされることになり、恥ずかしさはひとしおになる。目立つことを忌避したい理由を持っていた魔法使いでもあったから、人々に奇異の眼差しで見つめられることは嫌悪以外のなにものでもなく、眉間に皺を寄せ、少しばつの悪い表情をしながら手を下ろした。そしてきょろきょろ辺りを見まわし人気のない場所を探すと、目に入った路地へと入り、やがて閑散とした裏道へやってきた。再び右を見て左を見て誰もいないことを確認すると、魔法使いは片手を天に上げ先程と同じポーズを取り、ブツブツと呪文を唱え始める。手の平から気を発し、方々に張りめぐらせ、エミリアの気を捕まえようとしているのだ。


 そう、探査の魔法を使うには相手の気を知っていなければならない。


 深く知れば知るほど、探査はたやすくなる。すっかり馴染みのものになってしまった彼女の気、ふわふわとしてとらえどころのなく、それでいながら澄んだ青空のような気。暫し魔法使いは神経を集中させ、じっとその姿勢のままエミリアの気を探すことだけに集中していた。そして、


「北北西に約五百メートル……」


 エミリアの気を見つけた。この場所から北北西に約五百メートル進んだ場所に。だがそこは……。


「確か……高級住宅街だったはず」


 商店街からは外れた場所にいることへの不可解さに魔法使いは眉をひそめると、指先を唇に当て、指笛を鳴らした。


 すると、空の彼方から一羽のスズメが魔法使いに向かって飛んできた。そのスズメは魔法使いの頭上で一、二度旋回すると、指笛に呼ばれてやってきたことを示すよう彼の腕に止まった。そして次の言葉を待つように小首を傾げて様子を窺っている。


「いいか、ここから北北西に五百メートル向かった先に行って、エミリアを探してこい。そして、彼女がどうしているのか見てくるんだ。エミリアの顔は、分かってるな」


「ピーピーチクチクパーチクチク」


「そうか、分かったならいけ」


 どうやらこのスズメは魔法使いの使い魔の一匹であるらしい、彼の言葉に、スズメは納得したように頷くと、せわしなく翼を羽ばたかせ、北北西の方角へと飛んでいった。

次から少し更新のスピードが遅くなります。多分、二日に一度くらいになるかな?

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