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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第四章 そして、その時は始まった
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第十一話 心の旅路 その二十一

 それから、レヴィンとエミリアはキース中将らに監視されるよう転移魔法でフランズカム侯爵邸に戻ると、そのまま馬車でモントアーク伯爵邸へと向かっていった。乗る馬車は勿論別々、更に行きとは一緒でない。そう、レヴィンは自分の馬車、だが、エミリアは一人キース中将と共に彼の馬車に乗っていて……。その目的は勿論監視の為。力を使わせないよう、隔離する為。そしてその周りにはあのルシェフ風の男達……キース中将が用意した魔法兵……が、これでもかという程辺りを取り囲んでいて……。そんな、厳戒警備の息詰まる馬車の中、レヴィンは、


『アシュリー! アシュリー! 緊急事態だ。聞いてくれ!』


 周囲の監視をぬって、魔法使いにそう念を送っていた。すると、しばしの時の後、


『ん? レヴィン……か? ……ったく、仕事で忙しい時に……一体なんなんだ?』


 まだ何も知らないが故の、どこか忌々しげな調子が、魔法使いからレヴィンへと向かって送られてくる。だが……。


 そう、今はそんなことに構っている暇はないレヴィンだった。そう、そんな暇は……。なので、思いっきり切羽詰まった気持ちも露にしてゆくと、


『悪かったけど……それどころじゃないんだよ! やばいことになった!』


 焦りまくりだった。少し混乱もしていた。そう、それは魔法使いにも分かる程に。だが……勿論、それだけで状況なんて呑み込める訳がない。呑み込めないので、魔法使いは一拍置くと、


『? やばい?』


 思わずといったよう疑問の声を発してくる。


『ああ、この前言った魔法軍の奴、覚えてるか?』


『まぁ、覚えているが?』


 確かに、何か大変なことが起こったらしいことは魔法使いにも分かった。レヴィンの様子から、流石にそれを察していった。だが、一体彼は何が言いたいのか、まだその辺は詳しく分かっていない魔法使い。なので、相変わらず疑問げな様子をレヴィンへと向けてゆくと……。


『それが……』


 思わず、言葉に詰まるレヴィンだった。そう、その言い辛さに、つい。しばし流れる気まずい沈黙。それに、一体何だと魔法使いは思っていると……やがて……。


『奴に……全部ばれちまった……』


『はぁっ?!』


 寝耳に水といった様子の魔法使いだった。全く、一気に、心の底から驚いて。そしてすぐに、


『それで、どうなってるんだ! 今の状況は!』


 激しい問いの魔法使いだった。するとそれにレヴィンは深刻な声を出しながら、


『最悪の事態さ。魔法兵達に護送されて、今エミリアと彼女の屋敷に向かっている所だ。この後は、恐らく……』


『家族と別れを惜しんで、研究所行き、か……』


『そう……』


 思いっきりため息を吐いてゆく魔法使い。だがすぐに、何かを探るように、


『今周りに魔法使いは何人ぐらいいる?』


 それに、レヴィンは魔法使いの意図というものを察して、残念とでも言いたげに深いため息を吐いてゆくと……こう言う。そう、


『十人以上はいるよ。それも、トップクラスの能力の者ばかりっぽい。あんまり無茶は出来ない……かな』


『そう……か……』


 恐らく、自分の力で何とか奪還できないかと、そう考えて魔法使いはそんな言葉を言ってきたのだろう。だが、それも難しいという話を聞いて、がっくりとした声をもらしてゆく魔法使いで……。そう、これはつまり……。


『魔法軍にばれた以上、逃亡は難しい。永遠に追われることになるから、永遠に身を隠すことも難しい。つまり、素直に渡すしかないってことか?』


 それにレヴィンは、その通りとありありと無念をにじませ、


『多分……』


 何もできない、どうやらそうらしいことを聞いて魔法使いは『くそっ』っと、苛立ちの声を上げる。そして吠える。そう、


『それで、きさまは一体何をやっていたんだ! 火消しに走るんじゃなかったのか!』


 その言葉にレヴィンは少しの沈黙の後、絞り出すように、また、心から申し訳なさそうに、


『返す言葉もないよ……』


 無念も露わな、しょげ返った声のレヴィンだった。本当に、もう為す術はないといったように。すると、そんな彼を前に、流石にそれ以上責められないと思ったのか、魔法使いは仕方ないようため息を吐き、


『取り敢えず、そっちへ行く。エミリアの屋敷だな』


『ああ』


 互いにゆく場所を確認すると、取り敢えず今はと、念を切ってゆく二人だった。


   ※ ※ ※


 そうしてやがて馬車は屋敷に到着すると、その玄関の前には、既にモントアーク伯爵夫妻、ヴェルノとシェリルと、あと魔法使いがいた。そう、これはしかと目で確認せねばと先回りして、言葉通り魔法使いは屋敷へとやってきていたのである。それが故に、こうして二人に事情を説明することになったのであり、また、この待ち構えるかのような出迎えにもなったのであって……。


 するとそんな彼らを前に、やがて馬車からキース中将、レヴィン、エミリア等々が降りてくる。それは否応なく目に入ってくるもので、その現実に、聞いていたことは本当だったのかと、夢物語ではなかったのかと、呆然としながらひたすらそれを見つめてゆく伯爵夫妻で……。そう、とうとうあれが魔法軍将校に、ばれた……と。後は恐らく……研究所行き、と。


 すると、


「伯爵……すみません……」


 馬車から降りてきて、伯爵夫妻を見つけたレヴィン、悲しげな表情でそんな言葉をもらしてくる。そう、思いっきり伯爵夫妻に申し訳ないよう。だがそれは、彼らにとってとどめを刺されるような、どうにも目の逸らせない現実で……。なので、それでとうとう確信したとでもいうよう、


「エミリア!」


「エミリア!」


 エミリアの下へと駆け寄ってゆく。そう、悲しみでか、その目を涙で潤ませながら。そう、胸いっぱいの親の愛を示しながら……。


 それは、エミリアにとって意外ともいえる親の姿。その姿に、思わず泣きそうな気持ちになっていると、


 あ……。


「お師匠様……」


 思ってもいなかった者の姿を見つけ、エミリアは更に泣きたい気持ちになる。


 そう、もう記憶は戻っていたエミリアだった。どうして、あの時魔法使いがあんな酷い態度に出たのか、エミリアを拒否するような態度に出たのかの理由も分かった……。


 なので、あの時の自分の態度を反省しながら、そして、もう二度と会えないかもしれないと思っていた彼に会えたことに嬉しくなりながら、エミリアは魔法使いの姿を見つめ続ける。そう、少しの寂しさと共に。そう、確かに彼は今、ここにいるが、だが本当に今だけなのだと、そんな思いと共に……。


 こぼれそうになる涙だった。だが、それをぬぐって、エミリアは強がるように魔法使いに向かって微笑みを浮かべると、


「私は、大丈夫です。自分の運命を受け入れます」


 健気だった。その健気さに、思わず魔法使いはエミリアに近づくと、その頭を掻き抱いていった。それと共に、堪えきれず泣き出すエミリア。そんな彼女を感じながら、そのまま魔法使いは頭を掻き抱いて撫で続けていると……、


「おや、これはエミリア嬢の旦那様ではありませんか? 死んだと聞いていましたが……これは驚きですねぇ」


 キース中将がびっくりしたような顔で近づいてくる。それを見て、思わず魔法使いはキース中将を睨みつけてゆくと、


「はは、そんなに怖い顔をしないでくださいよ。あなたは知らないかもしれないが、私はあなたの顔を知っているのですよ。あの迎賓館で見ているのでね……。だがそれにしても、早い。殿下、彼に知らせたのですか? 馬車の中で? どうやら事情も皆さん知っているようだし」


 最初は魔法使いへの言い訳、途中からはレヴィンへの、中将からの問いかけであった。なので、それにレヴィンは途端にムッとしたような顔をすると、そのままの顔で、


「そうだけど……悪い?」


「いえ、悪くはありません。無駄なあがきさえしなければ。こうやって、旦那が死んだとか工作しようとしなければ……ね」


 どうやら、エミリアの能力を隠すべく、ついていたこの嘘も読み取っていたようで、意味ありげにキース中将はそう言ってくる。そして、


「とにかく、お嬢さんは我々が預かります。三十分時間を与えますので、準備を」


 すると、それにヴェルノとシェリルは驚く。そう、


「さ、三十分? それだけか?」


「そうよ。それだけで、エミリアは連れてゆかれてしまうの?」と。


 それは、本当に無茶な申し出で、思わずといったよう伯爵夫妻はキース中将へと向かって非難の眼差しを投げ掛けてゆく。そう、なんて非情なのかという思いを込めて。それだけでさよならなんて、悲し過ぎるという思いも込めて。だが……それでも、キース中将の心に揺るぎはないようで、


「伯爵、三十分の時間を与えられるだけでも幸運と思っていただきたい。別に、着の身着のまま、今すぐ連れていっても構わないのですからね」


「そんな……」


 言葉を無くすヴェルノ。すると、それにエミリアはこれ以上彼を刺激してはとでも思ったのか、そうでないとこの三十分さえ取られてしまうとでも思ったのか、ニコリと笑い、


「お父様、お母様、心配しないで、私、元気でやってゆきますから。大丈夫ですから……」


 相変わらず健気な、そう、こんな状態になっても、乱れず、黙って運命を受け入れようとする健気な態度のエミリアであった。それは、本当に不憫というもので、そんな彼女を目の前に、再び涙を流していってしまう伯爵夫妻であって……。そう、それが当然とでもいうように……。胸が詰まった。だが、いつまでもそれに構ってはいられないエミリアであった。なぜなら、あのキース中将が早くと促してきたからで……。なので、エミリアはコクリと頷くと、準備をすべく、早速自室へと向かってゆくのであって……。

次回で、とうとうネタ切れ最終回となってしまいます(汗)

アンケートも、引き続き行っています。皆さんがどんなお話を望んでいるのか、今後の作品作りの為に知りたいので、ご協力、どうぞよろしくお願いします。

では、下記URLよりどうぞ!(WEBボタンを作ろうとしましたが、駄目でした!面倒ですが、Google等で下記URLへ飛んでアンケート画面に進んでいただけると嬉しいです!)


※2014年12月11日、アンケートは終了しました。皆様、ご協力ありがとうございました!

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