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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第四章 そして、その時は始まった
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第十一話 心の旅路 その五

 所変わってエミリアの部屋。そこでエミリアは一人、憤然とした思いでベッドの上に寝っ転がっていた。そう、まるで密談するかのようこそこそ話し合っている三人、それに全く納得がいかなくて。それ以外にも、両親を呼んだこと、内緒の話をばらされたこと、全てが理不尽で訳が分からなく、エミリアはどうにもこうにも面白くない気分なのであった。そして、何て、何で、何で! という思いを抱きながら、ベッドの上をゴロゴロ転がり、やがて天井を睨みつけてゆく。すると、


 トントントン、


 不意に部屋の扉をノックしてくる音が聞こえてきた。それに、エミリアは思う。恐らく、これはお師匠様、と。そう、あの中で、自分の部屋の場所を知っている者は彼だけだったから。正直、まだ怒りは収まっていなかった。会ったら、思いっきりその気持ちを態度に表してしまいそうだった。だが、それでも無視するには忍びなく、


「はい」


 取り敢えず、エミリアは返事をする。そう、勿論不機嫌声で。すると扉が開き、


「話がある、居間へ来い」


 どうやら両親との密談が終わったらしい。そして切り出された自分への話。密談と関係があるのかは分からなかったが、何となく嫌な予感して、思わず顔が曇ってゆくエミリアだった。そう、この流れからすると、どうにもいい方向には考えられないような……。


 それでも呼ばれたのだから仕方ないと、魔法使いの促しに従うエミリア。後へ続いて、やがて居間へと着いて、その中に入ってゆく。するとそこには、出て行ったときと同じ両親の姿があり……。そう、どこか引きつったようにも見える笑顔を浮かべて。だが……。


 ああいけない、いけない、


 とエミリアは思う。そう、世を斜めに見てしまっている自分がいて。その捻くれた心が、彼らをそう見せてしまっているのかもしれなくて。


 だが、そうは思っても中々素直になれず、両親達の心を邪推しながら、食卓の椅子へと座ってゆくエミリア。そしてその話とやらを聞こうじゃないかと、まず両親、そして魔法使いへと目を向ける。すると、


「何故ここにご両親を呼んだのか、おまえは多分疑問に思っているだろう。そして、その理由を知りたい、とも思っている」


「はい……」


 聞きたいような、聞きたくないような、恐い気持ちもあった。だが、このままにしてはおけないと、その気持ちの方が勝るからと、エミリアは強い眼差しでそう答えてゆく。するとそれに魔法使いは、その先の話の了承を得るかのようヴェルノとシェリルに目をやると、コクリ頷いてゆき……。


 コクリ


 それに気づいて、両親も魔法使いと同じく頷き返してゆく。それをしかと確認する魔法使い。そして、ゆっくり口を開いてゆくと、


「先程話し合ったんだが……単刀直入に言わせてもらおう。そう、おまえはうちに帰った方がいいと思う。否、帰らせる」


 軽い衝撃。だが、少し予感もしていた言葉。そう、両親がここへきた時から、そして、それを魔法使いがお膳立てしたと知った時から、それはずっとあって……。だが、予感してはいても実際この言葉を耳にし、現実のものとして体感すると、やはりいいようのない悲しみがわき上がってくる。何故、どうしてと、訳の分からなさに混乱する。


「どうしてですか? 何故帰らないといけないんですか? 私はここにおいてもらうことは出来ないんですか?」


 それに小さなため息をつく魔法使い。だが、やはりその言葉も予想していたようで、


「おまえは伯爵家の一人娘だ。おまえをこの森の中にいつまでも縛りつけておく訳にはいかない。私はおまえを、一時の預かり物だと思っている」


 まるで用意していたかのような、よどみない答えが返ってくる。そして、それに続くように、


「そう、国王のことももう心配いらないし、安心して帰ってきていいのよ」


「おまえの家は伯爵家だ。父は私で、母はシェリルだ。親の元へ帰るのが自然ではないかい?」


 そう言ってくるヴェルノとシェリル。その言葉に魔法使いも頷いて、


「おまえの憂いは陛下との結婚だった。その心配がなくなった今、ここにいる理由はない筈だ。戻るべき場所へ戻れ」


 確かに、そうだった。確かに、それは正論だった。だが……違う、何かが違うとエミリアは思っていた。そう、何故だかは分からないが、家よりこの屋敷にいたいと思う自分がいたのだった。そして、


「嫌です。嫌です。私は魔法使いになるんです。弟子にしてくれるって、いってくれましたよね? 一生懸命勉強して、一人前の魔法使いになって、そして……」


 そして、どうしたかったのだろうか……。そこまで言って、エミリアは言葉を止める。そう、師匠のお手伝いをして、師匠の力になって、自立した女性として、師匠と共にお仕事をして……。そう、ずっとずっと側にいて、一緒に暮らしていきたかったのだ。その気持ちに気がついて、エミリアはそう口に出そうとすると、


「はっきり言おう、余程の才能がない限り、今の年齢から魔法使いの資格を得るのはほぼ無理だ。魔法の勉強をしてもせいぜい助手どまり。自立するめどが立たないなら、私は伯爵家の令嬢に戻ることをすすめる」


 突き刺さるような魔法使いの言葉。そう、情け容赦ない。それに、エミリアは傷つきながらも、打ちのめさらながらも、ここにいるべき理由を何とか探そうとする。そして、


「でも、でも、殿下だって……」


 普通科から魔法大学へ進んだレヴィンのことを引き合いに出すエミリア。そう、そうやって、魔法使いを説得しようとしたのだ。説得して、その言葉に何とか望みを繋ごうとしたのだ。だが……。


「あいつは小さい頃から独学で魔法を学んでいる。十八で初めて魔法に触れたお前とは訳が違う」


 エミリアの思いを察してそう言う魔法使い。辛かった。悲しかった。だが不思議なことに、魔法使いになれないということにではなかった。側にいる、その理由がなくなってしまったことに悲しみを感じていた。


「助手でもいいんです! お師匠様の力になりたいんです! 側にいちゃいけないですか! 駄目ですか!!」


 悲痛なるエミリアの問い。だがそれに、魔法使いは困惑した表情をしていて……。


 それは、傍らにいたヴェルノとシェリルも同じだった。そう、困ったような表情をして顔を見合わせており……。


 そして少しの間の後、魔法使いは決意したかのよう瞳に冷たい色を浮かべると、


「私には私の研究がある。お前がいると、足手まといだ」


 きつい一言だった。


 そう、ここまで言わせなければ分からないのか、とでもいうかのように。そして、それを言わせたのは、自分。決して本心とは思いたくなかったが……だが……。


 ここにはいられない、いや、いさせてもらえないのだということをこれでもかという程示されて、打ちひしがれるエミリア。自然涙があふれ、頬を伝って流れてゆく。そう、いく筋も、いく筋も。だが……そんな彼女を前にしても、魔法使いは変わらぬ淡々とした態度をしていた。何を以てしても心は動かないとでもいうよう、頑なな態度をしていた。そして、そんな態度で魔法使いは、


「出発は明日だ。ご両親には今日はここに泊まってもらう。それまでに出る準備をしておけ」


 心に突き刺さる言葉だった。それにエミリアはとうとういたたまれず、その場から立ち上がると、


「お師匠様の、ばかやろうです!」


 そう言葉を投げつけ、今の気持ちを表すよう荒々しくこの居間から立ち去っていった。


 後に残されたのは三人、重く沈鬱な空気が辺りを覆う。そう、何か口に出すことすら躊躇われるかのように、何かに触れることすらも躊躇われるかのように……。そして……しばしの時の後、とうとう堪え切れぬよう、シェリルが、


「あの娘、もしかして……」


 すると、それにヴェルノは人差し指を口元に当て、シッと、シェリルの言葉を制止する。


 そう、今はそれを言っちゃいけない、と。


 全てがまださだかでない今、それを言っちゃいけない……と。


 そうしてしばし続くのは、いつ果てるともしれない気まずい沈黙であった。

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