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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第四章 そして、その時は始まった
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第十一話 心の旅路 その二

 そして再び居間。やはり魔法使いは難しい顔で腕組みをして、食卓の席に座っていた。いや、眉間の皺は先程より更に深くなっているかもしれない。ちなみに、今エミリアは屋敷にはいない。そう、練習前の言葉通り買い物に行ってしまってエミリアは今屋敷にはいないのだった。そんな空間にて、エミリアのいない空間にて、一人留守番をする魔法使い。そして、その一人きりの空間で魔法使いは唯ひたすら考えに耽っており……。そう、


 やはり……やはり……、と。


 実は魔法使い、迎賓館でエミリアが示した力に全く納得がいってないのであった。


 どう考えてもあれは高等な魔法、教えてもいないのに出来るはずがない、と。そう、どう考えてもありえないのだ。なのに現実は、それを否定するかのよう、見事な修羅場を繰り広げていたのだから……。


 そうして魔法使いはひたすら考えた。何故あのような現実が起こってしまったのかを。そう、納得いかないなら納得いかないなりの理由があるはずだ、と。なので、それを突き止めるべく魔法使いは脳みそをフル回転させて考えゆくと、やがてたどり着いたのは……。


 古代魔法。


 そう、もしかして彼女は古代魔法の使い手なのではないか、とそう思ったのである。だが、古代魔法使いに当たる確率は数十万人に一人とも数百万人に一人とも言われている。そんな確率の中で彼女がそれにあてはまるとは到底信じられないことであるのだが……そうでもないとあの現象の意味が説明できない。そして、試しにやってみた先程の実験、その結果は……。そう、あれは防御魔法の練習ではなく、古代魔法の実験だったのだ。


 古代魔法は、一般には一つの能力に特化したものといわれている。万能だったといわれている建国記に書かれた王の左の魔法使いは別だが、それ以外は全て。それで魔法使いは思ったのだ、あの初心者とは思えないパワー……。そう、エミリアは攻撃魔法に特化した古代魔法使いなのではないか、と、


 そしてその古代魔法、発動方法は、発動させる、という強い気持ちによるところが大きいと言われている。近代魔法のように、呪文を唱える必要もないし、想像も必要ではあるが、そんなに厳密なものでなくともいい。つまり、曖昧なイメージに、その自分に特化した魔法を使ってやるという強い気持ちさえあれば、それは発動されるということなのである。そう、とても手におえない巨大な力が……。


 そして、思う。あの時、エミリアが自分の前で再生魔法として力を披露しようとしたあの時、思いっきりそれに失敗していたことを。全くピクリとも動かず、結局出来たのは普通の再生魔法だったことを。なのにその後、あの迎賓館では成功していたのであって……。それは何故だろうと、その謎を突き詰めてゆくと……そう、恐らく彼女は、どれも再生魔法と思ってあの魔法を使用したのだろう。知らず、何らかの違いをこの二つに隠して。そしてそれは……そう、気持ち。やはりその時持っていた気持ちに違いがあったとしか思えないのであった。最初はただひたすら、その巨大食虫植物を再現しようとして再生魔法を使っていたのだろう。そして失敗。だがあの迎賓館の時は、きっと気持ちに違いがあったに違いない。巨大食虫植物よ、この敵どもを食らってしまえ! かなにか、そんなような気持ちが、きっと……。


 そう、そんな仮定をして、エミリアは攻撃魔法に特化した古代魔法使いなのではないか……と、そういった結論にたどり着いた魔法使いなのであった。そしてその疑惑故に行った今回の実験。それは、その仮説を決定付けるような結果に終わっていて……。となるとやはり……。


 魔法使いは頭が痛いように額に手をあて、大きなため息をついた。


 古代魔法は巨大な力だ。否応なしに周りを巻き込む程の。そして制御できないとあってはなお始末に悪い。エミリアがあの程度の力の発揮の仕方で済んでいたのは、恐らく彼女が再生魔法、もしくは防御魔法と思って魔法を使っていたからであろう。それ故力が抑えられていたと、推察することが出来る。だが、もし彼女がこのことを、自分自身が古代魔法使いで攻撃魔法に特化した能力の持ち主だということを知った途端、恐らく……。その力は本来あるべき力を示すようになってしまうに違いない。そう、否応なしにその巨大な力を……。


 魔法使いの背にゾクリとしたものが走る。


 そう、今までは運がよかったのだ。何せ古代魔法使いはその力の大きさ故、魔法の発現時に自分がその魔法に巻き込まれ命を落としてしまうことも多いのだから。


 だが……。


 魔法使いは更に考え込む。


 これをどうすればいいのか、と。


 正直言って、自分には古代魔法の知識はあまり無い。彼女を良い方向へと導いてゆくなど、大それたことは出来ないのであって……。いや、今の研究レベルでは誰もそうすることは出来ないだろう。そして厄介なことに、古代魔法使いはその存在が知れた瞬間から、名ばかりの研究所……正直言って収容所と言ってもいいところに入所することが法で義務づけられていたのだから。そう、王の求婚から逃げ出しても罪にはならないが、この義務から逃れようとすれば、立派な罪になってしまうのであった。


 勿論、彼女をそんな所にやるつもりはない魔法使いだった。まぁ確かに、自分のような古代魔法の素人が接するより、専門の研究者がいる研究所に預けた方がいいのかもしれないが、一度入ったら彼女は一生そこから出られない……と噂では聞いていたのだから。あまり良くない風評も聞くし、出来る限りその存在を隠す方向で何とかしてゆきたいと思う彼であった。否、しかとそう思っていた。


 だが……。


 私に、出来るだろうか……。


 これは、いつ爆発するか分からない爆弾を抱えているようなものであった。周囲にこの力を隠すこともそうだが、エミリア自身にもこの力の存在を隠さねばならないのだから。そう、誤って魔法を発動させない為にも、彼女を守る為にも。それなのに……既に三度もエミリアにその魔法を発動させてしまっている自分で……。この先もまた使ってしまうということもありえない話ではなくて……。そう、そうする中で気付いてしまうことも十分ありえない訳ではなく……。攻撃の心を持てば強い力を発揮する、と。


 ああ、こんなことなら魔法を教えなければ良かったと、今更ながらに思う魔法使い。そう、古代魔法使いの中には、潜在的にその力を持ってはいても、発動する機会がなく、本人それを知らぬまま一生を終える者も多数いると言われているのだから。エミリアも魔法を習うなんてことがなければ、一生その力に気づかず終わっていたかもしれず……。


 はぁ、とでるのは深いため息ばかり。


 だが、とにかく自分に出来る限りのことをせねばならなかった。そう、一体何がと、思いっきり頭を捻って。すると、すぐに浮かんできたのはあれ、取り敢えずはあれだろうと、魔法使いは地下室へと降りてゆく。それは、あの古代魔法の本、そう、それを持ってくる為、地下へといったのである。早速金庫の封印の魔法を解いて鍵を開け、あの本とクリフォードが訳したノートを取り出す魔法使い。そして、再び居間へと戻り、ノートを開くと、隅から隅まで読んでゆく。そのまま最後まで読んでゆく。そしてその後、ひたすら頭を悩ませてゆく魔法使いだったが……中々いい考えは浮かばず、仕方ないよう、今度は原本の方を開いてみる。


 そう、何より一番なのは、制御方法を探すことなのだ。それさえ見つけることが出来れば、万事解決となるのだから。なので、あの白紙のページに何かを見出せないかと思って魔法使いは開けたのだが……白紙は白紙のまま、どう見ても何かが書かれている様子はなく……。かといってかけられているかもしれない魔法を解くような案も出ず……。


 悩み悩んで時間ばかりが過ぎてゆく。そう、どうやら袋小路に入ってしまったようで……。そして、しばらくそうしていると、


「何難しい顔して本とにらめっこしてるんですか?」


 不意に脇からエミリアの声が聞こえてきた。そう、本に集中していて気がつかなかったが、いつの間にやらエミリアが買い物から帰ってきていたらしい。


 突然の声に驚いてエミリアを見遣る魔法使い。それに、古代魔法の本を見ていたのを知られて、少しばつの悪い思いをする。そして、なんでこの本を見ていたのか問われたらどうしようかと、そう思ってドキドキしたりもするが……それは杞憂、どうやらエミリアは気にした風もないようで、どっこいしょと買い物籠をテーブルの上へと置いてゆく。


 取り敢えず、深く突っ込まれないことにホッとする魔法使い。だがその時、ふととある考えが浮かんで……。早速これは試さねばと、浮かんだ通り、魔法使いはその本の白紙のページを再び開けてゆくと、


「エミリア、なんて書いてあるか読めるか?」


 その白紙のページをエミリアのほうに向けて、そう尋ねる。だが、白紙は白紙であってやはりエミリアにも読むことは出来ず……。


「いえ、別に何にも書いてないですけど」


 魔法使いの問いに不思議そうな顔をしてそう言う。


 まあ、以前見たときにもエミリアは白紙とこのページを認識していたのだから、やはりといった答えではあったのだが、もしや、と思ったのである。もしや、古代魔法使いだけに読めるとか、そういった細工でもしてあるのかと。


 だが、何度も言うが、結果は思った通り。それに、魔法使いは思わずうーんと唸って考え込んでしまって……。


 すると、それにおかしなものでも見るようエミリアは笑いながら、


「また突然この本なんか取り出して、どうしたんですか? 何か気になることでも?」


 やばい話の方向だった。それに少し冷や汗が流れるような思いをしながら、


「いや別に……」


 と曖昧な言葉をもらして、魔法使いは本を手に立ち上がる。そう、取り敢えずこの件はいったん終わりにしよう、と。そして再び地下に戻って本をしまうと、居間に戻り頭から離れないこのことについてまた考えを巡らしてゆく。そう、グルグル、グルグルと。すると、買ってきた食材を棚などにしまいこんでいたエミリア、不意に思いついたよう魔法使いを振り返り、


「私、思ったんですけど、もしかして防御魔法より、攻撃魔法の方が向いてるんじゃないでしょうか? なんか、今日の練習でそう感じて……」


 恐れていた言葉。当然それに魔法使いは、


「却下」


「でも……」


「前にも言っただろう。攻撃魔法は使い方を誤れば人をも傷つけかねない魔法だ、未熟な者に教える魔法じゃない、と」


 それでもうーんと納得がいかないように唸っているエミリア。


「でも、どうも私は防御魔法には向いてないような気がして……。なら、得意そうな分野を集中してやった方が……」


「駄目といったら、駄目だ! 魔法の使用もしばらく禁止」


 声を荒げて魔法使いは言う。


 それにやっぱり納得がいかず、「えー」と言葉をもらしているエミリアであり……。


 本当に困った事態だった。だが、きっとこれからもこういったことは度々あるのだろう。きっと、色々対応していかねばならないことが……。そう、なるべく攻撃魔法に近づいていかないよう、注意を払って。全く、こうなってくると、唯今はひたすら攻撃魔法を教えていなかったことにホッとするばかりで……。そう、もし教えていたら今頃どんな状態になっていたか、考えるだけでも恐ろしく……。だが、魔法という記憶がある限りついてくるだろうこの危険。そう、記憶がある限り……。


 するとその時、魔法使いの脳裏にとある思いが過っていった。


 記憶。そう、記憶……。だが……。


 それは、思わず考え込んでしまうような内容。なので、再び憂いを帯びたような眼差しを浮かべると、うーんと唸っていってしまう魔法使いであり……。

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