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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第四章 そして、その時は始まった
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第十一話 心の旅路 その一

新しいお話の始まりです。今回はエミリア中心のお話になります。男性陣は前半はアシュリー、後半はレヴィンといった感じでしょうか。

どちらかといったらシリアスです。結構長いです。

で、とうとうネタ切れの時が近づいてきてしまいました(涙)多分、この第十一話の終了で、この小説は一旦最終回にさせていただくことになると思います。中断です。申し訳ないです!

ほんと、先の話が全く出てこない……やばいです……(滝涙)

 その日は、清々しい程の秋晴れだった。強すぎない太陽の光がさんさんと魔法使いの屋敷にも降り注いでいて、その光を浴びながら、台所に立つエミリアも何となく爽やかな気分になっていた。そして、その気分のまま、せっせとエミリアは台所仕事へと励んでいたのだが……。そう、


 カチャカチャカチャ。


 と音を立てながら、洗い物を。


 フンフンフーン。


 と鼻歌なんぞも歌いながら、ゴシゴシ食器を擦って。


 だが、手を動かしつつも、実は注意は背後に向けられていた。そう、台所と続きになっている居間へと。


 そこでは、食卓の椅子に座って、魔法使いが腕組みをして何やら難しい顔をして考え込むような様子を見せていたのだ。そう、全く微動だにせず、唯ひたすら眉間に皺を寄せ。まるで何かに怒っているかのようにも見えるその姿だが……。そう、この爽やかな天気に全く相応しからず。それに、一体どうしたんだろう、と、そのおかしさに気付いて思わず気になってしまうエミリア。それは、洗い物の合間を縫って、ちらちらとそちらの方を覗いてしまう程に。そして、しばしその厳つい雰囲気が流れた後、またエミリアはチラリ後ろを振り返ると、


「!」


 なんと、魔法使いもこちらを見ていた。こっそり窺っていたつもりだったエミリア、その行動がばれて少し動揺する。そして、慌てて目を逸らして洗い物に集中しようとすると、


 ガタン。


 何者かが椅子を引く音がする。否、何者かといっても、ここには自分以外魔法使いしかいなかったので、彼しか考えられないのであったが。そう、つまり、不意に魔法使いが椅子から立ち上がったのであって……。


 その音に驚いてエミリアは振り返って見れば、やはりその通りで、そこからズンズンと魔法使いが彼女へと向かって歩いてくる。それに何だとエミリアはおののいていると、その近くまで来て、ドン! と壁に手を置き、


「これから魔法の練習をする」


 突然そんなことを言ってくる。だが、それは寝耳に水の話だった。エミリアは思いっきり驚いて、


「魔法の練習って、私のですか?」


「そうだ。防御魔法の宿題が出ていただろう。今から見てやる」


 確かに、今防御魔法の勉強をしていたエミリアだった。そして、宿題も出ていて、現在、一生懸命それをマスターしようと奮闘していた所のエミリアであって……。


「でも、期日ってまだ先……」


「今日に変更」


「え、え~」


 エミリアは慌てる。何せ、まだ期限は先と、のんびり練習していたエミリア、実はあまり出来に自信がなかったからだ。なのでこれは困ったと、何とか逃れられないかと、


「ま、まだ洗い物が」


「さっさと終わらせろ」


「その後も……買い物とか」


「後回しだ」


 いい訳も通じず、何故か今にこだわる魔法使い。それに困惑しながらも、ここまで言うならもうこれは逃れられないかと、エミリアは仕方なく観念する。そして、


「はい……」


 と言って、水場に体を向けると、少し憂鬱な気持ちを抱えながら、再び洗い物の続きをやってゆくのであった。


   ※ ※ ※


 そうしてそれからエミリアは急いで洗い物を片付け、数十分が経った後……魔法使いの促しで、相変わらず太陽の光がさんさんと降り注ぐ、屋敷の前庭へとやってきていた。それは、色々な植物が植えられている裏庭とは全く違う、唯ひたすらの野原が広がる場所。そう、本当に広々とした。そしてそこでエミリアは、忘れてなるものかと、教えてもらった防御魔法の手順を何度も頭の中で反芻しながら、緊張と共にそこにたたずんでいた。だが、そんなエミリアなど歯牙にも掛けず、魔法使いは、


「じゃあ、今やっている炎の防御魔法だ。手順は、分かってるな」


 それに、まさか「いや……」とは言えず、どこか不安な面持ちで頷くエミリア。そしてエミリアは魔法使いがこの場から離れていったのを見て取ると、


「じゃあ、やってみろ」


 その言葉に従うよう、その防御魔法の呪文を唱えていった。


「アタドヲ・オヲソヲト・ヘネエネ・ホヘイ・ベイギュ」


 そうして想像するのは、自分の周りを炎が取り囲んでゆく過程。そう、まず反応させる物質、メタンと酸素を発生させて。それから、そのメタンに酸素の量を調節して火花を散らし、完全燃焼の青い炎を作ってゆく。そう、出来るだけ高温になるように。そんなエミリアを囲む炎は球体。その球体の炎の中に自分自身が閉じ込められるような感じで。勿論、出来るだけ自分の方に炎がこないようにしなくてはならないから、透明の薄い膜を張り、更にそこに無数の穴をあけ、外へと向かってガスを発生させ炎を出して。だが、これはごくごく初歩的な防御魔法。物を弾く力はあまりなく、炎を恐れる獣達から主に身を守る為にあるものであった。


 だが……。


 青い炎を通してその向こう側に魔法使いの姿がぼんやり見える。そのぼんやりとした青いベールの向こうから、恐らくエミリアの準備が整ったのを察したのだろう、魔法使いが、


「これを弾くんだ。いいか、投げるぞ」


 そう言って、用意してきたらしい何らかの物体をエミリアに示してくる。だが、炎が邪魔して何が何だかさっぱり分からないエミリア、思わず首を傾げると、そんな彼女を置いて、早速魔法使いはそれをその炎へと向かって投げてくるのであって……。放物線を描いて近づいてくるそれ、やがてそれは炎の中に身を躍らせると、そのまま、


「げ、ひぇ~!!」


 炎を突きぬけ、火が移って炎の塊と化して、エミリアの方へと向かってきたのであった。どんどん近づいてくるその火の玉。嗚呼、このままではエミリアは火の玉の直撃を受けてしまう。なので、エミリアは「ひぇ~、ひぇ~」と大声を上げると、背を向け急いでその場から脱兎のごとく駆けだしてゆくのだった。そして、どのくらい走っただろうが、やがて背後で、ボテッという恐らくあの火の玉の落ちる音が聞こえてきて……。


 過る嫌な予感に、恐る恐る後ろを振り返ってゆくエミリア。すると……やはり音の正体はあの火の玉で、落ちたその場所から更に地の草に燃え移り、その炎を広げようとしていた。そう、じりじりと芝生は燃え広がっていて……。やばかった。どう見ても、これはやばかった。なので、慌ててエミリアはそこに駆け寄ると、足で踏みつけてその炎を消す。すると、


「ったく、なんで紙切れ丸めた物体如き、防げないでいるんだ」


 忌々しげにそういいながら魔法使いが近づいてくる。


 そう、防御魔法の方は、力のなさからか、エミリアの集中が切れてしまった時点で解けてしまっていたので、そのまま真っ直ぐスタスタと。


 そして、そこから分かる、魔法使いがエミリアへと投げたモノが。そう、それは紙を固く固く丸めたもの。このぐらいのものならば、炎の根本に張ってある薄い膜で弾き返すことが出来るはずだったのだが……この体たらく。そう、防御魔法を習い始めてからかなりの時間が経っているのだが、センスがないんだかなんだか分からないが、一向に進歩せず、こんな初歩的な魔法で躓いてしまっているエミリアなのであった。それにエミリアは所在無げにうつむきながら、「だって……」と、納得いかないように呟いている。


 そう、宿題とはいっても期限前のこの披露、完成とは言い難い状態でこれを迎えたのだから、この結果も致し方なかろうと。まぁ、確かに中々マスターできない自分に焦りも感じてはいたが。期限日であっても完成できたか分からない程、才能のなさも実感していたが……だが、それでもエミリアは、


「心の準備もなしじゃ、上手くいくものもいかないですよ……。もう少し時間があれば……」


 時間さえあればと、思わずいい訳めいた言葉がその口からこぼれてしまう。


 すると、それに魔法使いはまるで何も聞こえていなかったかのようエミリアを無視して踵を返していって……。そして、


「もう一回やるぞ。今度はいいか、いつもの想像にプラス、『このやろう、くるならこい。丸焦げにして迎え撃ってやる!』ってな気持ちを持ってやれ。攻めだ、攻めの気持ちだ」


 まだ完全にマスターしていないこの魔法、何度やっても同じだと思うのだが……どう考えてもそうだと思うのだが……それでも魔法使いはまだ続けようとしてきて、思わず、何故? と首を傾げてしまうエミリア。そして、一つため息をつくと、


「分かりました」


 そう言って、気持ちを落ち着けるべく、もう一度復習するよう想像の過程を反芻する。そう、今度は想像だけでは済まないのだから、集中、集中、と言い聞かせ。だが、正直これで一体何が違ってくるのかさっぱり分からなかった。というか、これで何か違ってくることがあるのだろうか……それすらも疑問だった。まぁ、今まで想像だけで精一杯だった自分だから、これはかなり厄介な注文だということだけは分かったが。そう、両方を同時にやるのはきっと大変に違いない、と。そうして、そんな風にうだうだ考えながら、やがて何とか心構えが出来ると、攻めの気持ちへの準備も何とか出来上がってゆくエミリア。するとその間、魔法使いは再び丸めた紙を投げる為だろう、その場から離れてゆき……そう、スタスタ、スタスタ、と。先程魔法使いがいた場所を通り過ぎ、更に先へ。どんどん、どんどん、まだまだ先へ。ええっ、どこまで行っちゃうの? ってぐらいまで離れるとエミリアの方を向き、


「よーし、いいぞ! 呪文を唱えろ!」


 いくらなんでも離れすぎなんじゃないかって所から、大声を上げて魔法使いはエミリアにそう言ってくる。


 それに、なんだかおちょくられているような気もしてエミリアはヒクついた笑みを片頬に浮かべると、何とか心を落ち着け、まあいいかと開き直って再び呪文を唱える。


「アタドヲ・オヲソヲト・ヘネエネ・ホヘイ・ベイギュ」


 そして想像する。自分の周りに、青い炎が発生するさまを。そしてそれにプラスして、その炎が向かってくる物体を迎え撃ち、それを包んで真っ黒黒焦げにして侵入を防ぐさまを。そう、防御壁で弾こうなんて甘っちょろい防ぎ方じゃない。攻めて、攻めて、攻めて防いでやる! そう思いながら。


 すると、炎の向こうで魔法使いがまたあの丸めた紙だろう、それを投げるポーズをする。そう、今度は距離があるので、渾身の力を込めての超ロングスローで。だが、エミリアは思う。そう、こんなに距離があってまともに投げられるのだろうか、と。否、多分無理だろうと、エミリアは思っていると……これも魔法なのか何なのか、予想に反して、紙玉は見事なコントロールでこちらへと向かってやってきて……。ならばとそれに、思いを込めてその紙を見つめるエミリア。そう、先程の念を更に強くさせて。するとその時、


 ボッ!


 不意に大きな火柱が上がった。そしてその火柱は、向かってくる紙の球を迎撃するかのよう包み込み、更にその先をいって、なんと魔法使いのいる場所にまでその手を伸ばしていったのだった。慌ててそれを避ける魔法使い。


 そして、当然のことのよう、紙の球は防護壁にたどり着く前に炭化してその姿を消し去ってゆき……。


「……」


 それを呆然と見つめるエミリア。なんで、どうして、という不思議な気持ちを胸に抱きながら。そう、違いといったら、心の持ち方だけ。ただそれだけなのに……。


 もしかして、意外な素質が秘められてる、とか? いや、でも……。


 うだうだと、そんなことを思っていると魔法使いが近づいてきて、


「今回は思ったか。『このやろう、くるならこい。丸焦げにして迎え撃ってやる!』って」


 それにコクリと頷くエミリア。すると、魔法使いはどこか憂いを含んだ表情をして、


「やはり、な……」


 何がやはり、なのだろうか、全くさっぱり訳が分からなかった。そして、成功したのだからもう少しこれに焦点を当てて練習するのかと思いきや、


「分かった、もういい。買い物があるんだろ、仕事に戻れ」


 そんなことを言ってくる。更に訳が分からないエミリアだった。なので、


「もう、いいんですか?」


 そう問いかけると、それに魔法使いは、


「ああ、行っていい」


 だが、そう言いつつも、ため息なんかついてしまっている魔法使いで……。それに相変わらず不可思議に思うエミリアだったが、そう言うならと、ちょこんとお辞儀をしてその場から立ち去ってゆくのだった。

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