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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第四章 そして、その時は始まった
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第十話 炎火の姫君 その六

 それからレヴィンは用意された姫君の部屋へと引っ張られてゆくと……、


 むす。


 面白くないような表情でソファーに座っていた。不本意ながらイーディスの世話係の責任者となってしまったレヴィン、今日だけならまだしもそれがずっと続くというのだから、そんな表情になってしまうのも当然だろう。勿論一人ですべてはまかないきれないので、イーディスの身の回りの世話をラシェルに、警護をリディアに任せてはいたが、それでも面白くない気分は拭い去れず、レヴィンは嫌々ながらそこに居座っていた。


 そして一方のイーディスは、何もかもが興味深いといった感じで、あちこち歩き回って部屋の中を見ていた。そう、小国の姫であるイーディス、どうやら豪華すぎるともいえるこの異国の客室が物珍しいようで、その表情に驚きすら見え隠れさせながら、部屋の細部にまでわたってまじまじと視線を走らせていたのであった。そして、装飾やら、絵画やら、さんざん見て回って満足すると、イーディスはレヴィンを振り返り、


「だが、おまえがノーランドの王子とは思いもしなかったぞ」


 するとそれにレヴィンは、


「僕だって君がイーディス姫とは思わなかったさ」


 思ってもいない場所での思ってもいない形での遭遇、まあどっちもどっちといった感じであろうが、やはり驚きを隠せないその出来事に二人はつくづくといったようそんな言葉をもらす。そして……レヴィンとは違ってはっきりとした理由があるイーディス、そうなると疑問になってくるのはレヴィンの行動で、イーディスはソファーの方にまでやってくると、探るような眼差しを浮かべながら、


「あんなところをふらふらしていたって事は、おまえはレヴィンか、第二王子の」


 どこか確信的なものを含んだ口調であった。


 それに、どうやらお忍び好きの噂は隣国にまで及んでいたらしいことを察して、レヴィンは思わず苦笑いを浮かべる。そして、どうにも否定できないその内容に言い訳することもできず、


「大正解」


 すると、やはりといった感じでイーディスはニヤリと笑うと、興味深げにレヴィンの顔を覗きこみながら、


「で、何であんなところにいたんだ。女に会いに来ていたのか、それとも女を漁りに来ていたのか?」


「な、何だよ、それ」


 またも探るようなイーディスの眼差しだった。それに、どうしてそこへ話が飛ぶのかと、納得いかない表情でレヴィンはそう言ってゆくと、ここぞとばかりにイーディスが、


「レヴィン王子って言ったら、それで有名じゃないか。お忍び好きで、女好きなプレイボーイ、と」


 これも隣国まで広まってしまっていることにレヴィンは頭を抱えがなら、やれやれといったようにため息をつく。だがこれは……噂にしか過ぎないのだ。どうやら世間ではそう思われているらしいが、それはお忍び癖の為、噂ばかりが先行してしまっている為なのだ。確かにまるっきり清廉潔白とはいわない。浮いたようなこともたまにはある。だがほとんどがデマ、そう認識しているレヴィンは、


「世間で噂されてるほど、僕はそんなに乱れてないと思うよ。確かにお忍び好きは否定しないけど、人とわいわいしたり、美味しいものを食べに行ったりするのが好きなだけだ」


 これこそが真実、だけど何だかいい訳っぽいような気もしながらレヴィンはそう言うと、やはりイーディスの表情はまだ……。そしてイーディスは胡乱げな眼差しで「ふーん」と言うと、


「火のないところに煙は立たないというがな、エロ王子」


「……」


 エロ王子……いくらなんでもあんまりなその言い草に、思わず言葉を無くすレヴィン。そして、そんなイーディスを前にして、レヴィンの胸に過っていったのは……。


 なんか、似たような言葉を昔誰かに言われたような気がするぞ……。


 心に引っかかるその思い、それに更にレヴィンは考えを巡らせてゆくと……。


 そう、確か……えーと、そうそう……色ボケ、色ボケだ。エミリア達を助けにルシェフへと行った時、北の森に住むあの赤茶の髪の男、アシュリーに言われた。


 この一致に、何となく面白くないような気持ちになるレヴィン。そして、一度それに気付いてしまうと、言葉だけじゃなく、どうにも二人には他にも似ているところがあるような気もしてきて……例えば……髪の毛の色とか、この尊大な態度とか、口の悪さとか、そう、まさしくアシュリーだ。根性が百八十度捻じ曲がった、あのアシュリー。もしかして生き別れの兄妹かと、ムッとしながらレヴィンは本気でそう考えたりなんかしていると……。


「で、どうやって歓待してくれるつもりだ? 王宮見学でもさせてくれるのか?」


 さて世話係のお手並み拝見させてもらおうとでもいうよう、どこか挑戦的にイーディスはそう言ってくる。だが……、


「見学したければ勝手にしてくればいいよ。僕には僕の用事がある、子守には付き合ってられないね」


 エロ王子がかなり引きずってしまっているレヴィンだった。その気持ちについ意固地になって、世話なんかもうどうでもいいような、そんなそっけない言葉が彼の口からこぼれる。するとそれにイーディスは憤然としたような表情をして、


「子守とは何だ、世話係。仕事を放棄しようってのか。それともやはり女と……」


「違うよ!」


 しつこい疑りに、もういい加減にしてくれとレヴィンはそう叫ぶ。だがイーディスは懲りない、レヴィンの言葉など歯牙にかけず、なるほどなるほどと一人納得したように頷くと、


「ふんふん、なるほど、真っ昼間からヤリにいくんだな」


 その言葉を聞いて、レヴィンはタラリと冷や汗が流れるような思いをした。いくら口が悪いって言っても、さすがにこれは……。


「ヤリに……って。一体誰からそんな言葉聞いたの」


「侍女が色々教えてくれるぞ」


 それに、全くなんて侍女なんだと、レヴィンは思わず頭を抱える。まあ確かに、この歳になれば色々知っているのかもしれないが……彼女は一国の姫君である。それも、どう見ても子供にしか見えないような。だから、そんな言葉が彼女の口から平然と出てくるのがレヴィンにはどうしても信じられず……、


「女の子がそんな言葉を平然と口に出しちゃ駄目だよ」


 諭すようにそう言うレヴィン。だがそれにイーディスは納得いかないような表情をして、


「何故? 女だからいけないのか?」


「それもあるけど、君はまだ子供だし……」


 すると、その言葉は彼女の癇に障ったようだった。明らかにムッとしていると分かる表情を浮かべて、またもや挑戦的な態度でレヴィンを見遣る。そして、


「ふん、子供だと? 子供だと思って私を侮っているのか。まったく……おまえもまだまだ甘いな。他にも色んな言葉を知ってるぞ。例えば……」


 嫌な予感がした。そう、非常に非常に非常に嫌な予感が。その後に不穏な言葉が続きそうな、そんな悪い予感が。なのでレヴィンは大慌てでイーディスの手をつかみ、その口を塞ぐと、


「だ、駄目だって!」


「ふがふがふが(何をするんだ~)」


 突如押さえ込まれたことに抵抗するよう、イーディスはじたばた暴れる。するとその時、


 トントントン


 と扉を叩く音がした。そしてそれはすぐに開かれ、


「イーディス姫、ラシェル殿が侍従長から何枚か衣装をいただいてまいりました。試着してみては……」


 入ってきたのはリディアだった。その貰ってきたという衣装を手に、これをどうすべきかと悩むよう、そう言葉をもらしながら。すると……衣装からふと視線を上げた先、その先に広がる光景にリディアは唖然とする。


 そう、それは、手を取られ、口を押さえ込まれ、じたばたともがいているイーディス。そして、


「ふがふがふが(助けてくれ~!)」


 助けを求めるかのような、その様子。


 それに何事と思ってリディアはレヴィンに目をやると、そこにはどこか動揺しているかのようにも見える彼の姿が……そう、この光景は、どう考えても明らかに……、


「で……殿下……いくらなんでも守備範囲が広すぎるのでは……ああ、とうとう幼女にまで手を……」


「ちがーう! 誤解だ! それに彼女は幼女じゃないぞ! 立派な十四歳だ!」


 クラリと眩暈まで起こしているようなリディアに、なんとか誤解を解こうとレヴィンは焦ってそう言う。だが……その言葉も右から左、更にリディアは衣装を置き、懐から手帳とペンを取り出すと、


「殿下の趣味とは……」


「書くなー!」


 そしてそれからもレヴィンはイーディスに振り回される日々が続いていった。広い王宮を案内してあげると、特にレヴィンからしてあげることはなかったから、後はひたすらお姫様に付き合うしかなかったのである。そう、それはもうやりたい放題に。いい加減うんざりして、僕の仕事は終わったから行くよ、と言えば、ほう、ではこのことをおまえの父君に報告しておこうかと脅しが入り、おしゃべりに付き合ってあげたらあげたで、飛び出してくるのは毒舌アンド衝撃発言。


 ああ、ついてない。イーディス姫といいリディアといい、最近僕の女性運は本当についてない。唯一の心の慰め、エミリアとは中々会えないし……。


 心の中で涙涙のレヴィンなのであった。


 そしてこれで何度目だろう、今日もまたお姫様のおしゃべりに付き合ってあげていると、


「それにしても女を孕ませないのは優秀だな。避妊しているのか、実は隠し子なんかいたりするのか。だが、あ……」


 ああ、悲しいかな、何度もこんな目にあっていると、どうにも勘が働いてしまうのだった。絶対絶対これは衝撃発言だと、そう確信して、そしてもういい加減にしてくれの気持ちで、「駄目だよ!」とレヴィンはイーディスの口を押さえてゆくと、


 トントントン


「殿下、今晩の夕食についてなのですが、侍従長が……」


 開かれる扉、そして入ってきたのは、これもまたもやのリディアであり……。そんでもってなお悪いことに、今回はラシェルも一緒で……出くわしてしまったその光景に、唖然とした表情をする二人。そして、


「……やはり……殿下は……」


 リディアの疑りの眼差し。いや、疑りは確信に変わったとでもいうような表情だ。そして当のイーディスは……、


(ククククククッ)


 どうやら必死で笑いを堪えているようであった。


 それを目の前に、もう散々という思いのレヴィン。そう、姫君に振り回され、変態に間違われ……。そしてとうとう、


 もう嫌だ。限界だ。


「イーディス姫の世話の責任は、全てリディアに任せる。女は女同士の方が、いいだろ。という訳で、僕は引く。何が何でも僕は引く」


 自らの限界を感じて、イーディスの世話係を放棄してゆくレヴィンなのであった。

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