第七話 魍魎の憂鬱 その十三
短いです!
そうして魔法使いはシェーラを抱き、転移魔法を使って屋敷の門の前まで戻ってきた。
それはほんとに、ようやくといった感じの帰還で……。
そして少々ぐったりしながら、魔法使いはよっこらせとシェーラを地に下ろしてゆくと、最後の仕事と、そう、立ちはだかるその鉄製の黒い門を押し開き、ゆっくりそこをくぐっていって……。すると……屋敷の扉の前にあったのは、右に左にウロウロするエミリアとブロウ氏の姿。一体何をやってるんだと魔法使いは呆れるが、近づく彼らに全く気付く様子もなく、二人は相変わらず扉の前をウロウロしている。よっぽど自分らのことが気がかりで仕方がないのかと、魔法使いは「おい!」と声をかけてゆくと、それにようやくブロウ氏とエミリアが二人の存在に気付き、ホッと表情に安堵の色を浮かべてくる。そしてもう待っていられないとばかりに、その側に駆け寄ってくるブロウ氏とエミリア。ブロウ氏はシェーラの下へ、エミリアは魔法使いの下へと。そして現実にいる二人を目の前に、エミリアは感慨深げな表情を浮かべてゆくと、隣にいたブロウ氏が……、
「まったく、心配かけおって……」
目に涙を浮かべながら、堪えきれぬようシェーラをぎゅっと抱きしめていったのだった。
どうやら、想像以上に父親に心配をかけていたらしい、それに本当に心の底から驚いて、シェーラは思わず目を白黒させる。そして、恥ずかしい思いに胸をかき乱されながら、この信じられない行動に何故と焦って体をじたばたさせてゆき……。
そう、親というより、屋敷の主人としての威厳の方を強く感じていた父親だった。とにかく淑女教育に熱心で、家や体面を守ることの方が大事なんじゃないかと、つい思ってしまう程に……。はっきりいって、自分が生きてきた場所とは別種の世界に住む人間。そう、二人の間にはどうにも取り去ることのできない大きな壁が立ちはだかっていて……。それは、父親だけでなく屋敷の誰にも感じていたことで……。だが……もしかして、とシェーラは思う。そう、今感じているこの温もりに。もしかして、壁を作っていたのは自分の方だったのか、と。ただひたすら娘を気遣う、一人の普通の父親に過ぎなかったのか、と。相変わらず父親はこれでもかという程ギュッと自分を抱きしめている。それに、息が詰まりそうな思いになりながら、シェーラは自分自身の変化というものをしみじみ胸に感じていっていて……。そう、もしかしてがきっとに変わってゆく自分を。頑なだった心が次第にほぐれてゆく自分を。そして、やがてシェーラは心と共に体の力も抜き、父親へと身を任せてゆくと、
「父さん……」
心温まる光景だった。じんわり心にしみる親子愛。それに感動すら覚えながら暖かい気持ちでエミリアは見つめていると、不意に脇から、
「おまえは抱きつかんのか?」
このいい場面を邪魔する余計な横槍が。
それにエミリアは剣呑にピクリと眉を上げると、
「誰にですか?」
「冷たいな、せっかく師匠が死地から戻ってきたというのに」
「大げさです! それよりなにより……依頼の方は?」
シェーラが無事戻ってきたのだから、悪い知らせはないと思うが、気になって一応聞いてみる。するとそれに魔法使いは不敵な笑みを浮かべ、
「ふふ、見事完遂だ。私に失敗はないと、言っただろう」
シェーラが連れ去られたことは勿論口には出さず、心で思ってエミリアは少し苦笑いを浮かべる。そして、待っていたその嬉しい言葉にグッと拳を握ると、
「うう、やりましたね……豆スープ回避ですね!」
切実なる言葉がその口からこぼれた。
これで、第七話は終わりです。次から新しい話が始まります!