みのり探偵
「なぁ、みのり、これ食べて。
この飴何味か分かる?
おにいが旅に出てたんやけど、そこのお土産やねん。」
「分かるよ、食べたら何味かくらいは。」
「なぁ、私もそう思ってん。
やけどそれは日本のお菓子ならって気がついてん。
外国のいちご味と、日本のいちご味って全然ちゃうねん。」
「そうなんだ。
でも食べたら分かるよ。
いちご味はいちごの味なんだから。」
「な、そう思うよな。
けどさ、いちご味って、いちご味味じゃない?」
「そうかも…!
いちご味っていう味だよね。
それに国際基準がないって話ね。」
「そう!それやねんな!
だからおにいの持って来た飴が何味かさっぱり分からへんねん。」
「パッケージは…それ?
あんまり上手じゃないイラストの女の子が描いてあるだけで味の想像がつかないね。」
「そう、あんまり上手じゃない女の子が描かれてるだけで分からんし、見た事のない文字だから余計に分からんのよ。」
「字も子供が描いたみたいな、そういうフォントデザインのせいで分かりにくいね。」
「な、きっかけがないよな。
あのさ、そろそろいいかな。」
「ん?」
「一粒取り出したままの手から、受け取って貰って良いかな。
溶け始めてんねん。
はよ受け取れや。」
「人が触った食べ物はちょっと…。」
「最初に言えや。
しばらく持ったままでおんねんこっちは。
我慢して食え。
そして何味か答えろ。
幼稚園からの幼馴染なんやから平気やろ。
こんなに一緒におったら私とみのりの中身に差異はそんなないわ。
ポケモンの赤緑の差程度のもんや。
ほら、食え。」
「それもうこはる味になってない?」
「キモい発想やなぁ、なってへんわ。
気を遣って人差し指と親指の先っぽで持ってんねん。
全体から見たら1%も接触しとらんから、移らんわ。
謎のフルーツかなんかの味や。
あ、美味しくないから食べさせようとしてると邪推してるんやろ。
そんなことしないよ。
単純に変わった味を共有して、きゃっきゃっしたいだけや。
エンタメやで。」
「じゃあ、じゃんけんで決めない?
負けたら素直に食べるから。」
「ふざけんな。
こっちに出せる手は一つもないわ。
右手に飴、左手に飴の袋持ってんねんから曖昧なグーくらいしか出せる候補がないよ。
そんな不利なじゃんけんあるかい。」
「いや、井戸が出せるじゃん。」
「…井戸?」
「井戸。
グーとチョキに勝てるけど、パーにだけ負ける手があるんだよ。
フランス式にね。」
「つっよ!
3分の2に勝てる手やん。
そんなん様子見でそれ出すに決まってるやんか。」
「でしょ?僕はハンデで日本式なグー、チョキ、パーしか出さないから、じゃんけんで決めようよ。」
「分かったわ、こっちは井戸とグーを出せる。
これで5分の勝負にな…らん!
危な!ならんやんけ!
パーで負ける手だけいくら増やした所で、私に勝機はないやんけ!
丸め込ませようとしたってダメやで。
ご機嫌斜めやわー。
このご機嫌を真っ直ぐにする為には、飴を食べて貰うしかないわー。」
「なんでそんなに食べさせたいの。
僕だって不信感で一杯だよ。
美味しい飴なら、何となくの味と結びつけて、それだけでいいじゃん。
僕が食べる理由がないじゃん。」
「女の子は1人で楽しむより、共有して楽しむ生き物やねん。」
「こはるは違うじゃん。
人の苦しむ様を喜ぶって聞いたよ、僕は。」
「誰が言うてんそんなこと。
怒りより悲しみが勝つわ。」
「おにいさん。」
「悲しみに押されていた怒りが、最後の最後に刺して追い抜いたわ。
あのアホが。
まっずい土産だけては飽き足らずに、みのりにいらんこと吹き込みやがって、絶対泣かすからな。」
「…。」
「なんやその暗い目は。
おにいの行く末を悲しむ必要はないで、自業自得やからな。」
「そうじゃなくてさ、言ったよね。
まっずい土産ってさ。
やっぱマズいんじゃん。」
「…そんなこと言ってないよ。」
「言ったよ。」
「証拠がないやろ…?
私がみのりんにマズい物食べさせるわけないやん。」
「証拠は、あるよ。
犯人の手の中に、ね。
こはる、その飴、食べてみてよ。」
「なっ…!」
「犯人はそう、こう考えたんだ。
マズい飴と言って渡しても、被害者は口にしてくれないとね。
だから知的好奇心を刺激するクイズとして食べさせて、悶絶する様をあざ笑おうとね。」
「はっ!そんなのは探偵さん、あんたの推測やないかい。
私は食べられるわ。
この手の熱で溶け始めた海外製の飴をね!」
「もういいんだ。
自分を苦しめるんじゃない。
こはるさん、貴女、こう言いましたね。
その飴は、お兄さんから貰った物だと。」
「そうだとしたらなんや。
まさかっ…!」
「そう、実は昨日のうちにね、おにいさんから連絡を頂いていましてね。
ほら、見えますか、この文章が。」
「こはるに渡した飴?
あれゲボ出そうな味がするから食べない方がいいよ〜。
みのり用にはナッツチョコ買ってるから今度持ってくわ。
チョコ好きだったよね?
やと?」
「そう、彼は分かっていたんです。
自分の妹の悪意を。
それが自分のせいで他人に向けられるとね。」
「…くっ。」
「…なんで、そんなことしたんだい、こはるさん。」
「始めは…好奇心やったんです。
彼は余りこういうのに引っ掛からへんから、あんまり見ないものなら口にしてくれるかなって。
でもあかんかった。
私はみのりにそんな事は出来んかったんや。」
「いや、僕が頑張って証明しなきゃ食べさせられてたけど…。」
「出来んかったんや。」
「あ、はい。」
「探偵さん、これから私は自主します。
ただ、出頭する前に少し時間を頂けますか?」
「…こはるさん、早まってはいけない。」
「探偵さん、後戻りは出来ないんや。
私はおにいにこれを食わさんと気が済まん。
……みのり、手伝えや。」
「出来ないよ、おにいさんと仲良いもん、僕は。」
「知ってるよ、たまに2人で動物園行ったり、水族館行ったりしてるのも聞いてるし。
去年の冬にはイルミネーションも見に行ってたなぁ、そういえば。
…もしかして付き合ってる?」
「男同士だよ、そんな訳ないじゃん。」
「なぁ、そうよな。
そういえばおにいが旅に出る前にも遊びに行ってたな。
どこに行ってたん?」
「科学館だよ。
見たいものがあるから付き合えって。
僕も興味あったし。」
「ほえー、確かに私を誘っても行かへんやろなぁ、科学館。
何見に行ったん?
なんか特別展的なもんでもあったん?」
「ううん、常設のプラネタリウム。」
「デートか。
なんでデートコースの定番みたいなところばっかり行ってんねん。」
「そんな事ないよ。
来月も遊ぶ約束してるけど、別にデートっぽくないし。」
「ちなみにどこ行くん?」
「花火大会。」
「デートど真ん中やん。
aikoの歌か。」
「そうかなぁ。
趣味が合うだけじゃない?」
「そうか…。
みのりは可愛らしい感じやからな…。
もしかしたらあのカス、モテへんから近所の可愛らしい男の子とデートスポットへ行くことで自分を慰めてるのかもしらん。
なんもしらん無垢なみのりを騙くらかしてな。」
「いや…そんな事は…。
ないよ。
…無いよね?」
「もう一度聞くよ、みのり、おにいを呼び出してくれるな。」
「……はい……!」
「いい子や。
飴の件についても、ワザとマズいのを妹に渡した裏が取れとる。
それだけでも有罪や。
みのりの件についても尋問したるわ。」
「刑事さん、よろしくお願いします。」
「おう、任せとけや。」
「…文面どうしようかなぁ。
不自然になりそうで、こういう時って難しいね。」
「簡単な話や。
あのカスはみのりをファンタジー彼女にしとる。
可愛らしいお願いなら飛んでくるわ。
むしろそれで来たなら更に疑いが深まるな。
桜が綺麗だから並木道を見に公園に行かないかって連絡してみ。」
「うん。」
「お、連絡来たな。
早っ。
私が連絡してもスルーが普通やで。
…なんて?」
「すぐ来るって。」
「残念や。」




