こはるの点数
「みのりん、テストどうやった?
私な?過去最高に良かってん。
頑張った甲斐あるわぁ。」
「おめでと。
点数よかったの?」
「ごめんけどもうちょいテンション合わせてもらっていい?」
「なんだいこはるん、ご機嫌じゃあないかぁ、もしかして、500点満点でも取っちまったのかい?」
「海渡った先のテンションはちょっと違うわ。
言ったのは私やけど、普段通りの方がいいかも、ごめん。
伝わる誠意が薄っぺらいわ。」
「ごめんね、やれるだけはやったんだけど。
でも本当、良かったね。
いつもログインしてるゲームも全然やってなかったもんね。」
「そう!禁断症状を抑えるために毎日シルベーヌを食べざるを得なかったけど、ちゃんと耐えて勉強したわ!
っていうか、みのり〜、私のログイン状況知ってたってことはアンタはやってたって事やないかい。
あかんで、ちゃんとせな。」
「やってるよ。」
「どうかなぁ。
昨今はプライバシーの問題やらなんやらで、誰が何点でどの順位か発表されへんやん。
だから低い点数を取っても、自分で見せなきゃバレへんからな。
それに甘えた甘ちゃん共を今回豪快に抜き去ってやったわ。
見てみて順位のところ。
200人中52番目やで?
上位30%以上って、もうこれは出来る側へと入ったと言っていいよな?
みのりん、勉強教えたろか?
な、な、数学のラス2の問題なんて応用やったから難しかったやろ?
なんと私は正解です!
出来る側はちゃうわ!
今回に限っては順位発表してくれても良かったわ!」
「おめでとう。
順位の発表しなくなったのって、プライバシーの問題なんだ。
勘違いしてた。」
「いや、私のも想像やけど…。
でもそれ以外あんまり理由なくない?」
「普通に吾唯知足の精神を養うとか、独立独歩の精神を鍛えるとか、そういう教育的観点からの是正だと思ってた。」
「われただ?誰?歴史上の人物?」
「我、唯足るを知る。
人と比べることなく自分の現状を知って、その成長や営みを喜びましょうって意味だよ。」
「…耳が痛いわ。
愚地独歩の方は?」
「基準を他人に委ねず比べず、自身がどうなりたいかを尺度で努力して自分を成長させましょうって。」
「調子に乗る前に知りたい言葉やったわ。
でもなぁ、その精神はカッコいいけどやなぁ、比べたっていいやん、自分が頑張って人より良かったことを喜ぶのは健全と違うの?」
「健全だと思うけど、それは大人になって社会に出てからの方が良いよ。
ヤンボ分かる?同じクラスの。」
「分かるよそら。
野球部の、背が180越えとる矢野くんやろ?
矢野とジャンボが合わさってヤンボのヤンボやろ?」
「うん。
例えば僕とヤンボが運動で対決したら、僕が負けるよね。
でもヤンボが今のまま止まって僕だけ半年成長したなら、野球は無理にしても勝てる競技はあると思わない?」
「まぁ、そらな。
今は身体能力で太刀打ちできんくても、半年腹を括ればそこそこにはなるかもしれんな。
向こうが素人同然のままなら可能性あるとは思う。」
「学生時代ってそういう事の連続なんだよ。
だってさ、僕は11月生まれでヤンボは4月生まれ。
何だったら一学年下の4月生まれとの方が誕生日近いんだよ、僕は。
それなのに7ヶ月も先に生まれた奴らと、期間で乱暴に区切られて競争させられるんだから、後に生まれれば生まれるほど不利じゃない。
運動は分かりやすいけど、脳だって先に成長する方が有利に決まってる。
大人になって頭も身体も完成して、それからは記録とか結果で比べられるのは分かるけど、学生だとあんまり意味ないと思うんだよね。
さっきの話で言うとね、ヤンボと自分を比べるより、半年前の自分と今を比べて成長しているかどうかの方が大切なんじゃないかな。」
「理屈は分かるけども。
なんなん急に。
…みのりん、もしかしてテスト悪かったん?
えへへ、お姉さんに見してみぃや。
教えたるから、手取り足取り教えたるから。」
「やめてよ。」
「ええやんええやん。
テスト期間無視して、ゲーム三昧のみのりくんの点数を見て、ちゃんとやった自分へのご褒美としたいんじゃ。」
「下衆ぅ…まだ好奇心とかの方がマシだった。
知りたい理由が下衆いよ。
恥ずかしいんだよ、見られるのは。」
「私も曝け出したるから。
あんまないで、JKのセンシティブなところを合法で見れる事なんて。
大人になってから後悔してもあかんくなってんねんで。」
「テストの点は大人でも見れる、と言うか大人こそ見るでしょ。」
「ええやんええやん、減るもんやなしにぃ。」
「しつこ…。
まぁ、良いよ、はい。」
「どれどれ…?
ほう、国語96点。
な、なかなかやるやないか。
確かにみのりは本をたくさん読んでるもんなぁ。
普段の習慣が結果に結びつく。
これも努力の成果や、ようやった。」
「ありがとう、ありがとう。」
「観客もおらんのに手を振るなとは思うけど、調子に乗って良い点数や。
咎めるのは野暮やな。
数学は98点。
すごぉ…こわぁ…。
答案の返却の時に、先生言ってたやん、今回は難しかったから全体的に低めだったぞって。
ほぼ満点やん。
いや、国語もやけども。
逆になんで2点下げられてんの?」
「ケアレ・スミス。」
「変な所で区切んなや、スミスが邪魔して来たんかと思ったわ。
…あのさ、点数の横に星印ついてるのはなんなん?
私のにはついてないんやけど。」
「星?あぁ、確か全体一位の教科についてるんじゃなかったっけな。」
「…これが…あの幻の…。」
「確かね、確か。
覚えてないよ今更。
一番最初のテストでしか説明されてなかったし。
それに同率1位も沢山居るだろうからね、僕だけじゃないと思うよ。」
「それでも凄いわ。
理科科目、社会科目も90点越え。
英語に至っては100点満点や。
ふん、なるほどな。
とりあえず謝ってもらって良いかな。」
「なんでさ、謝るような事なんて何もしてないよ。」
「調子こいてんなコイツ、大した点数でも無いくせにって心の中で嘲笑っとった分や。」
「そんな事ないから。
苦手な勉強を頑張ったんでしょ?
学年一位様はそこを評価している。」
「へぇ!私の様な物に過分な評価を!
それにしてもすっごいなぁ…カシ子やとは思っとったけど、想像以上やわ。
どうやって勉強してるの?」
「授業をきちんと聞いているよ。」
「うん、基本やな、偉いわみのりは。
先生も嫌な気持ちにならへんしな。
それで?
他には?」
「教科書を貰った日に、一通り読むよ。
読み物として楽しいしね。」
「読書家やなぁ、お母さんも鼻が高いと思うわ。
それで?
家では?」
「…家?」
「そうや。
何で疑問系やねんな。
こっちはテスト前ともなればカリカリカリカリとノートに書き取りを夜通しやってんねん。
吐けや、秘訣を、100点を取る。」
「いや、僕は家では何もしないから分からないよ。」
「天から与えられたアレか。
なんやねん、幼稚園からずっと同じ学校やのにどこで差がついた!」
「だって僕は日常的に歴史の本も、科学の本も読むし、その過程で国語も学んでいるんだもん。
それを教科書と繋ぎ合わせてテスト範囲の分を明るくしていくのが勉強でしょ。
逆に一夜漬けと同じにして欲しくないね。」
「普段が学び…ぐうの音も…。
いや!待てや!
英語と数学はなんでや!」
「言語は自分の意思で覚えたいと思ったから。
英語分かるだけで楽しめるゲームとか映画なんて山ほどあるし。」
「数学は言語ちゃうやんか!
尻尾を見せたな。
教えるのが面倒くさいだけやろがい!」
「こはるは馬鹿だな。
数学は言語だよ。
英語よりも世界で普及してる、数字限定の言語だ。
アメリカ人にもフランス人にも、ドイツ人にも中国人にも計算だけなら通用する立派な言語だ。
それに生きていく上で必要な考え方の基礎は数学という学問にもパッケージングされてるからね。
楽しまないと損でしょ。」
「はぁ…そう言う考え方もあるんや。
大人やなぁ、みのりは。
感心し通しやで、今日は。
…だがな、貴様はその高得点だらけの答案を引っ提げながら今、大きな間違いを犯した。」
「え?」
「関西人に馬鹿っていうのは、戦いのゴングや。
せめてもの情けや、構えるまで待っといたるわ。」
「え?」
「最期の言葉が、え?でええんか?
斬新やな、さすがは学年一位様や。」
「ヘルプ、ヘルプ。」
「残念やったな、私の英語は56点や。
英語は、な、よく分からんのや。
おらおら、その溢れんばかりの知性で対処してみろや。」
「こはる、笑って。」
「お?感情に訴える気か。
やっぱり人間最後は知識より感情やな。
良かったなぁみのり、それを思い出せて。」
「…人間は、こぶしを固く握りながら笑えるものでは無いのである。」
「名文感すごいな。」
「太宰。」
「…だざい?」
「治。」
「おさむ。」




