みのりの休日
「あれ、みのりやん、どしたん、気持ちお洒落して。
どこ行くの。」
「こはるじゃん。
僕は映画館に行くよ。」
「へー。なんか見たいのあるん?
今は何やってたっけ。
普段サブスクで観るからさぁ、今現在何やってるかって調べんと分からんよな。」
「そうだねぇ。
ちっちゃい頃はレンタルビデオ屋さんにポスターとか貼られてたから何となく知ってたんだけど、そのビデオ屋さんにすら行かなくなっちゃったからね。」
「なあ?
それで、何観るん?」
「…え?何も観ないけど…?
怖っ、偏見が凄いよこはる。
よくないと思うなぁ、僕は、そういうの。
そこに行ったらこれをすべきみたいな価値観は、心の成長を阻害しちゃうよ。
海に行ったら水に浸からないと、とか言っちゃうタイプ?」
「そんな事ないよ。
貝殻拾ったり、色々あるやんか。
カニ捕まえたりよ。」
「そうでしょ?」
「おぉん。
…いや、映画館は映画観るしかやる事ないやろ。
流石に、流石にな?
なんなん、出てくる親子の満足そうな顔とか見て、映画の架空レビューでも書くん?
…ちょっと楽しそうやな、それ。
書いたら見せてや。」
「勝手に想像して成果物を要求しないでよ。
そんな変なことしに行かないよ。」
「…えぇ?
他にやれる事なんてある?」
「色々あるでしょ。
日本で安定してホットドッグ食べられるのは映画館だけだしさ、妙に種類のあるポップコーンとか食べたくなるでしょ。
あれは別に映画観なくても買っていいんだから。」
「あー!なるほどな!
映画館グルメってやつか!
盲点やったけど腑に落ちたわ。
確かに映画観ながらそんな甘いポップコーンに甘いソース掛けたら喉の渇きで映画どころやないやん、みたいな奴も、食べるだけなら何にも気にせず食べられるもんなぁ。
んじゃあ何食べるん?」
「例に出しただけで、別に何も食べないけど…。」
「は?私の腑に落ちたなんかを拾えや。
映画も観ない、ポップコーン食べる訳でもない。
じゃあ映画館に行く意味あるか?
全然分からん。
はっきり言えや、イライラするなぁ。
女をイライラさせて良いことなんか一つもないよ?
元の機嫌に戻すのに支払う代償は原因の8倍とも言われているからな。」
「あ、何しに行くのかって話?
言ってよー。
てっきり映画館の楽しみ方を知りたいのかと思ったから。
僕は今やってる映画の、原作のファンでさ、劇場限定のガチャガチャがあるからそれを引きに行くんだよ。」
「今度こそ腑に落ちたままでいられそうやわ。
あるな!限定品とかな!
っていうかファンなら映画も観ろや。」
「僕は原作原理主義過激派だから、絶対観ない。
観た自分が許せない。」
「思想強…。
そんな頑なに決めてんねや。
チケットの特典とか豪華なことあるやん?
それでも観ないの?」
「観ない。
原作者以外の意思を1ミリも感じたくない。」
「意思が強いな。
でもさぁ、たまぁに原作に繋がる0巻みたいなのを配る時あるやん。
あれはどうすんの?
我慢するんけ?
あーまぁ、それだけ買う方法も色々あるか。
サイトで出してる人から買えばいいもんな。」
「自分で手にした物以外は認めない。
だからフリマサイトからそういうものを買うことは決して、無い…!」
「ほんまに過激派なんか…。
じゃあ原作者が描いててもそういうのは奴は諦めるんや。」
「その時は観るよ。」
「えぇ!そこはブレんねや!」
「罵ってくれて良い…だけど仕方ないんだ。
本来なら今日引きに行くガチャガチャだって原作者の意思が反映されているとは限らない。
だけど…!」
「欲しいんやな。
分かるよ、私だってダイエット中なのにお菓子食べてまう日もあるもん。
たまに破った時にしか見えない、自分の戒律の良さを理解できる事もあるかもよ。
そうやって人は大人になっていくんやから。」
「ありがとうこはる。学びがあったよ。」
「おぉ、私の方が年上やしな。
半年やけど。
それでなんの作品のやつが欲しいんよ。」
「黒猫のキャラクターが主人公の本なんだけど、アニメ映画になったんだよ。
それの小さいジオラマフィギュアが映画館にしかないんだ。」
「それは可愛らしいなぁ。
あ、なんかお昼の番組で紹介してたわ。
昔からある絵本というか児童書というか、あれやろ?」
「そう!
飼い主と離れ離れになった猫が飼い主を探して冒険する話でさぁ、小さい頃から好きだったんだよね。」
「猫が探すん?
犬だけかと思ってたわ、飼い主探してまで会いたいの。」
「言いたいことは分かるけど、そういう話だから仕方がないじゃん。」
「そうやね、ごめんごめん。
その映画も特典あったな、テレビでやってたわ。」
「そうなの?そこまで調べて無かった。
なにが貰えるんだろう。
ちょっと調べてみよ。」
「ほんまに原作原理主義者なんやな。
なんでガチャガチャの設置場所は知ってて、映画の特典は知らんねん。
…何が貰えるって書いてた?」
「こはるさん、本日はお暇でしょうか…。」
「え?」
「特典…本の表紙を映画に併せて新たに書き下ろした新カバーだった。
分かるかな、替えの表紙というか…。」
「偶にあるな、そんなやつ。
作者が新しく描いてんの?そら欲しくもなるわ。
あ、え?
一緒について来いって言ってんのか。
いやぁ、映画は嫌いやないけどやな、知らん話を観る気にはならんよ。」
「そこを何とか。」
「なんでよ、一人で見てきたらええやん。
…ほう、表紙、2種類あんのか。
バージョン違いも用意されてるとは中々の商人やな。
でもなぁ、気は進まんなぁ。」
「そこを何とか。」
「奢り?」
「…そこも何とか。」
「なんで気が進まんもんに自費で付き合わなあかんねん。
奢りなら行ってやらんこともないと少し思ったがな、その態度が気に食わん。
一人で2回見にいけや。」
「そこを何とか。」
「その一点張りやないか。
せめてプレゼンしろや。
ジャパネットでも見習え。
金はみのりが出せ。
それなら考えたる。」
「…呑もう。」
「ちなみに、ポップコーン代も出せよ。
お前はもう、私の機嫌を損ねたからな。」
「そんなぁ!」
「でもよく考えみ?
一人で2回見に行ったら、同じ表紙が被る可能性あるやろ?
みのりは特典被った所で変えて欲しいって店員さんに言わないやろから50%を引かなあかん。
今回二人で行けば確実に揃うで?
同じのを渡さんやろうからな。
一回分得したもんやろ?
ポップコーン代なんて映画一回より安いんやから、それぐらいええやろ。」
「もう一声。」
「おう、任せとき。
さっきグッズを調べた時に見つけたんやけどな、この映画館にはペア割ってもんがあんねん。
各100円引きや、お得やな。
さらに!いまなら男女2人ならカップル割があってやな、各250円引きや!
ポップコーンは480円…つまり。」
「20円の…得!」
「まぁ、私はチョコソースとかバシバシ掛けるタイプやからちょいオーバーするけどな。
その誤差は許せや。」
「奢らせて頂きます。」
「おぉ。じゃあ行くか。」
「待って、その格好で?ジャージじゃん。」
「ええやん別に。
コンビニにお菓子買いに出ただけやからしゃーないやん。」
「僕は襟シャツにチノパン。
こはるは何かよく分からないキャラクターのロンTの上にモコモコのベスト着て、下は芋ジャー。
…そんなカップルいるかな?
彼女の格好が張り切って無さすぎてないかな。
見破られない?
コイツらは偽のカップルだって。」
「そこまでせんやろ。
なら通り道やしうち寄ってけや。」
「そうだね、結構久しぶりかも、こはるんち。」
「オカンもみのりの顔見たら喜ぶわ。
な、そうしよ。
おにいのジャージ貸したるわ。」
「…え?僕がそっちに合わせんの?」
「え?」
「え?」




