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みのりへの手紙

『なんそれ、なに読んでるん?』



「朝ね、下駄箱に入ってた手紙。」



『ラブレターやん。

今時そういう古風なコンタクトをしてくる奥ゆかしい娘もおるんやねぇ。』



「ね。」



『内容は聞かんけど、手書きの手紙って文字だけでなんか色々想像するやん?

可愛らしい字だったり、丁寧に書こうとしてたりとかさぁ。


やっぱ本気を出す時は手書きなんやと思うわ。』



「…印刷されてたよ、これ。」



『うっそ。

…それラブレターか?

ラブレターいうたら、お前、一世一代やん、多分。

推敲に推敲を重ねて、自分で7回は読み返して粗が無いか見返すもんやん、多分。


犯行声明文みたいになってしまうやろ、打ち込んだ文字やと。』



「字に自信がないんだって書いてあるよ。

…んー、ちょっと嫌だな。」



『なにが?

そう言ってやんなや。

貰うだけで光栄な事やん。』



「それはそうだよ。

いや、貰ったこととか、内容が嫌なんじゃなくって、僕はラブレターが怖いんだ。」



『なんでよ、一方的な想いが怖いって、そう言う事か?

そんなもん受け取ってやれよ、男なんだから。』



「僕だってそうしたいと思って生きてるんだ。

だけど、ラブレターを貰うってことが怖いんだ。」



『なんでやねん。

昔なんかあったん?』



「僕には何もないんだけど…。


あのさ、うちの父さんってさ、イケメンじゃん。」



『うん。

ちっちゃい頃初めてみのりんち行った時、この家はでっかい人形が動いてんねやと思ったくらいや。


イケメンなんて汎用性のある言葉で片付けて欲しくないくらいの衝撃やったわ。』



「多分さ、僕よりもこういうの沢山貰ってるでしょ?」



『そうやろなぁ。


モテモテやったろ、人当たりもいいしなぁ。

ウチのオカンもみのりパパのファンやねん。

人妻すら首っ丈にする威力やからそれはそれはモテたはずやろ。』



「それはこはる家の平和的に大丈夫なの?」



『何が?』



「こはるパパが嫌な気持ちにならない?」



『ならんよ、オトンの方が誠也さんのファンやもん。

オトン曰くやな、本当にイケメンが好きなのは男の方やって。

女なんか、遺伝子に騙されて良い男と思い込んでいるだけの偽物だけど、男がきゅんとしたら、それはもう本物やって。』



「きっしょ…。」



『あんまオトンの乙女心悪く言わんといてや。

別に悪さするわけではないんやし。』



「あ、擁護派なんだ。

でもさ、自分の肉親をそういう目で見られるのはちょっと…。」



『仕方ないねん。

自分を騙して生きていくのは辛いことやからな。』



「そっか…。」



『家の神棚にはみのりパパから貰ったサイン入りのCDが飾ってある。』



「そんなにも…!

いや、聴いてあげてよ。

そっちが本業で、顔はオマケなんだから。」



『豪華なオマケやなぁ。』



「結構大変だったらしいよ。

ヴァイオリニストなのに、若い頃、日本に帰って来たらヴァイオリニストとしての仕事が全然来なかったって。」



『モデル需要とかの方が高かったん?』



「それもあるけど、なんていうかな。

こはるってサッカー詳しくないよね。」



『おん?メッシとロナウド…あと誰や。

ズラタンしか分からん。

あ、ベッカム!ベッカムは分かる!』



「ズラタン?何でイブラヒモビッチだけズラタン?

まぁいいか。


その4人が冒険者だとしたらどんな職業だと思う?」



『私でも知ってる有名人なんだから全員勇者と違うの?』



「偏見もあるけど、メッシ、ロナウドは間違いなく勇者。

イブラヒモビッチは…まぁ、分けるなら勇者か戦士になるのかな。


そんでベッカムはね、まぁ、シーフかなぁって感じなんだよ。」



『おぉ、地味やな。』



「そ!れ!

それを言いたかったのさ!


ベッカムはとびっきりの飛び道具と運動量が武器なんだけど、1人で突破するわけでもないから、地味なプレースタイルなんだよ。


だけど顔がかっこいいから、なんだか余計に地味に感じられちゃうんだ。」



『なんなん、大きい声出して。

つまりあれか?みのりパパは過小評価されてるって言いたいんか?

このファザコン。』



「ちょっと違うよ。

あんまり知らない人からは過大評価を受けて、ちょこっとだけ知ってる人からは過小評価を受けやすいって話をしてんの。」



『ほう、看板である顔が豪華なせいなんかな。』



「華やかな曲をスマートに弾きそうなんだろうね。


だけど父さんが得意なのは情念渦巻くというか、エモーショナルな感じなんだよ。


だから来る依頼と得意とするジャンルが違いすぎて、上手いんだけどなんかなぁってなってたらしいんだ。」



『はー、難しいもんやなぁ。

でもさ、顔が良いから仕事がバンバン来てた部分もある訳やんか。

練習したらそういう曲を上手く弾ける様にはならんもんなん?

ヴァイオリンよく分からんけどさ。』



「こはる家の幻想を壊しちゃいけないから、あんまり言いたく無いんだけど、父さんはね、ホント、とんでもなく不器用なんだ。」



『そんな訳ないやん。

コーヒーを飲む姿すら優雅やったで。

肉親だから悪いところばかり見えてるんちゃうん。』



「そのコーヒーすら自分で淹れられないんだ。」



『まぁ、誰かがやってくれたんやろなぁ、カッコ良すぎるから。』



「…こはる、それなんだ。

父さんが困ると、どこからか誰かやって来て助けてくれちゃうんだ。

本人に自覚はないけど、小さい頃からずっとそうだったらしい。

だから、生活力が何一つ育ってないんだよ。


実家から師匠の家へ居候して、プロの音楽家になってマネージャーが付いた。


ずっと誰かにお世話になり続けて生きて来た、現代のプリンセスなのさ。」



『まぁ、凄いな、そら。

え?別にええやん。』



「母さんもそう言うんだよ。

誠也くんだからって。」



『夫婦仲も良好やん。

オトンがそんな調子なら、オカンがしばき回してるけどな、ウチなら。』



「ね?」



『何が?』



「いや、だから、そんな人にクライアントの要望を叶えられる訳ないじゃん。

気が付かないんだよ、こう望まれているなって。

でもクライアントは苦情を言わないんだ。

いや、言えないんだ。」



『あの顔で弾き切った感出されたら言えんかもなぁ。』



「でも実際に表に出るときは名前だけでしょ?

だから評価がバグり散らかしてたんだって。


現場ではご令嬢、世に出たらおてんば、でも顔を知られたらもうお姫様。」



『凄いなぁ。』



「だから、僕はラブレターが怖いんだ。

この手の手紙を受け取れば受け取るほど、僕は、父さんみたいに何も出来ない男になっていくんじゃ無いかって、得体の知れない恐怖があるのさ。」



『そんなんみのり次第やん。

生活力はあんねやろ?みのりは。


料理とか出来る?』



「うち、お手伝いさんいるから…。」



『家事全滅?』



「家事全滅。」



『そういえば冷食をチンした、くらいしかみのりから家事関係の話題聞いたことないかも…。』



「ラブレターが……憎い……。」



『いや、それはアンタの努力不足やろ。』


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