みのりは心配性
「本当にバイトを始めたの?こはる。」
『おうよ、オトンの知り合いの雀荘でな!
本当は高校生を雇ってへんらしいねんけど、特別や。』
「雀荘…大丈夫なの?
ギャンブラーの巣窟じゃん。
血液を掛けて麻雀したりするんでしょ?」
『何を想像してんのかしらんけど、そんなもん現実には無い。
普通に受付したり、お使い行ったり、掃除したりするだけやで。
コンビニとかと変わらんて。』
「一個変なの挟まってたね。
お使いって何?」
『ん?あぁ、麻雀って時間かかる遊びやろ?
一荘、えーと、二周して一回なんやけども、それだけで一時間以上かかるねん。
せっかく来たんやから一回だけ遊んで帰ろうとは中々ならんやろ?
三時間か四時間か、ずっと打つとな?
まぁ、腹減るし喉乾くやん。
そん時に私らが近くのコンビニまでお使いに行ったるねんな。』
「へぇ。
店の中に売ってるもんじゃないんだ。」
『あるのはあるよ。
コーラとかウーロン茶とかは売ってるけど、厨房あるわけちゃうからフードメニューは冷凍の焼きおにぎりしかないねん。
大の大人が揃って焼きおにぎりはかじらんやろ。
あれは夜中に家族にバレないようにチンして食う食べ物やん?』
「そうなんだ。
…冷凍のおにぎりって美味しいの?」
『…出た!』
「何が?幽霊?」
『辞めろや。
夜まで働いてて帰りは暗くて怖いから、最近はホラー控えてんねん。
幽霊とか気軽に言うなや。
出たってのは、みのりの家と私の家の経済状況の差や。
どうせアレやろ、カップラーメンとかも食った事ないとか言い出すんやろ?』
「いやあるよ。
あるに決まってるじゃん。
学校に自販機あるんだから、カップ麺の。」
『あー、そっか、あるな!
お弁当やから存在を忘れてたわ。
みのりもお弁当やないん?』
「弁当だよ。
だけど入学したての頃、間違って買っちゃったんだよ。
飲み物かと思って。」
『うわ。なんやそれ、もうええわ。
冷凍食品とかも食わんねやろな。』
「食べるって、普通だよ、父さんと爺ちゃんがお金持ちなだけで、僕は普通なんだってば。
送られて来るじゃん、お歳暮で冷凍食品。
スープとかグラタンとかドリアとか。
あ、ドリアもお米か。
ならおにぎりも美味しいのかもね。」
『お歳暮で…ドリア?
やめよ、この話はもう辞めとこ。
自分の家に誇りを持ったままで居たいから。
でも今度食わせてな、そのドリア。
そんでな、コンビニ行くねん。
タバコとかも買い出しに行くらしいねんけど、私がほら、未成年だから買われへんやん?
そういう時は別の人が行くけど、飲み物とか食べ物は私が行くねん。』
「うん。重そうだね。」
『まぁな。
いい運動やで。
んでちゃんとレシート取っておいて、お釣りとか返してお使いは完了なんやけど…麻雀中に財布出したりすんのが面倒なんか、私が可愛すぎるのが悪いんか、結構お釣りをくれる人が多くてな、そこらのバイトより時給が良いねんな。』
「こはるが可愛すぎるからだろうね。」
『その可能性が高いな。
それに私はJKやから。
雀荘にいるJKはツチノコより遭遇率低いから。
たしかにお使いは珍しいかもしれんけど、後は普通よ。
受付と洗牌したり。』
「せんぱい?」
『麻雀牌を綺麗に拭くのよ。』
「そうなんだ。
ゲームでしか麻雀やったことないから、知らなかった。
そうだよね、人が触れば汚れるもんね。」
『そうなんよ。
毎日拭いてるからそんな汚くならんけどな。
それに私は高校生やから、22時までしか働けんのよ、法律で。
店の掃除なんかはお客さんいて出来ないんよなぁ。
結構好きなのに、掃除。
テスト前とかよくやるわ。
掃除。』
「テスト前の掃除は…まぁ、うん。
そうは言っても22時は真っ暗でしょ?
1人で帰ってるの?」
『おにいとかオトンが迎えに来たりはするけど、基本は1人かな。』
「危ないよ。」
『危ない事ないよ。家までチャリで10分とかやもん。』
「危ないって。
僕が迎えに行くよ、バイトの日は。」
『大丈夫やって。
飲屋街やから明るいし。』
「飲屋街…。
コンビニも遅い時間にに行ったりするの?」
『21時過ぎとかは普通にあるな。』
「そうだ、麻雀覚えるね、僕。」
『えぇ、なんで?
知略ゲームは得意そうではあるけどな、みのりは。
おにいもオトンもオカンも打てるし、私も最近覚えて来たから、うち来たらみんなでやれるから楽しそうやな!』
「バイト中にお使い行く時に打ちながら待って、送り迎えしようかなって。」
『過保護!
過保護過ぎるわ。
本当に大丈夫なんよ、バイト先の雀荘の一階がコンビニなんやら。
それにアンタ、未成年が雀荘行ける訳ないやん。
捕まるって。』
「そうなの?」
『そうなの。
風営法で禁止されてんねん、
私はこないだの誕生日で18になったから大丈夫やけども。
みのりはまだ17やん。
なんや、年下やん、敬語使えや。』
「そうなんですね。
私と致しましては、夜間女性の方が1人で出歩くのを心配する性分でして、私に出来ることなら、そう思った次第です。
しかし、帰り道の心配が大きいという事が分かりましたので、帰りに迎えに行こうと、そう考えております。」
『固!固い固い!
いや、冗談やん。
よくある誕生日が先に来た人専用ジョークやん。
普通に喋れや。
迎えに来んでええよ。
なんなんみのり、いっつも帰り道一緒に帰ってるのに、1人になるのが寂しいんか。』
「寂しい。」
『おぉ。
真っ直ぐな目で言うやんか。
11月までやから、半年くらい我慢しろや。
休みの日は遊んだるからな。』
「我慢する。」
『聞き分け良!』
「心配だけどね、やっぱり。」
『ほんまに大丈夫なんやって。
ウチの店長、オトンの知り合いな?
ラグナロクって呼ばれてんねんから、繁華街で。』
「ラグナロク?最終戦争?
物騒過ぎるでしょ。
何したのさ店長さん。
そんな簡単に付く二つ名じゃないよ。
Sランク冒険者ですら疾風とかなのに。」
『怖いねん、顔が。』
「顔が。」
『ほら、強面の俳優さんが顔面凶器とか呼ばれてるやろ?
始めはそんな感じだったらしいねんけど、その俳優より余裕で顔が怖いから、その内に顔面兵器になったそうやねん。
そんで、兵器すら霞むほど顔が怖いから、顔面戦争になって、戦争すら生ぬるい程顔が怖いから、顔面ラグナロクになったって話や。』
「めちゃくちゃ見てみたいんだけど。
やっぱり行ってみようかな…。
あ、法律で入れないのか。」
『そう言うと思いまして、写真撮ってきておりますぅ。
ほら、見てみて。
本人はめちゃくちゃいい人やから、働いてると怖くはないんやけどな、面接の時はチビるかと思ったもん。』
「おぉ…!
仁王像みたいだ。
黒目がデカくて白目が無いのが恐怖を煽るね。
眉が無いのに髪の毛がボーボーなのも根源的な矛盾から生じるクトゥルフ的な恐ろしさがあるよ。
…あ、こはるも写ってる。」
『そらそやろ。
店長だけ撮ったら、顔怖いのをネタにしてるみたいやん。
オトンに店の制服姿見せるから一緒に撮って下さいって言って撮ったんや。
言うたやろ?オトンの知り合いなんやって。
どうした黙って、こはるさんの制服姿、気に入ったんか。』
「うん、可愛いと思うよ。」
『…やめてくれ、そういうのは恥ずかしがって反発してくれな、こっちが恥ずかしくなんねん。
なんか今日、ずっと変に素直やな。
どうした、悪いもんでも食うたんか?』
「朝は普通に冷凍のラザニアを食べた。」
『悪いもんどころか良いもんを食うとるやんけ!
なんなんアンタ、熱でもあるんちゃうん。
…熱ぅ!
熱あるやん、普通に帰って寝ろや。』
「帰って寝る。」
『聞き分けがええなぁ。
風邪の諸症状に素直になるとかあんの?
バファリン飲んだら優しさと素直しか残らん人格者になれるな。
もしもそうなんやったらその風邪、伝染してまわったら世の中平和になるんちゃうん。』
「頑張る。」
『あほ、帰れ。』




