みのりの失恋
「なぁ、こはる、僕、失恋したからさ、今日はナイーブな話をしないで欲しいんだけど。」
「え、みのり失恋したん?
確かに辛いなぁ、それは。
分かった、明るい話だけにしよか。
えーと、どうしよ。
…春らしく温かい天気でええなぁ、今日は。」
「…春はあの子の好きな季節だった。」
「ホンマごめん。
そんなつもりやなかってん。
あ、いつも行くクレープ屋さんさぁ、5のつく日はイチゴのクレープだけ半額やねん。
食べに行かへん?」
「…イチゴはあの子の好きな果物だった。」
「めんどくさっ。
辛いかもしれんけど、なんでもかんでも繋げたらしんどいのは自分やで。
別のこと考えよ。
どうする?クレープ、食べ行く?」
「いや、辞めとく。5のつく日にイチゴを半額にする神経が気に入らない。」
「なんでよ、ええやん、安くなって。」
「イチゴの事を考えたらさ、1のつく日も半額にするべきだと思わない?
イチゴのゴの所だけピックアップして、イチを蔑ろにしてるじゃん。
可哀想、イチ。
失恋した僕と同じくらい可哀想。」
「大分ナイーブやな。
1のつく日も入れてもうたら、10日から19日まで半額やし、月の半分近くになるからな、仕方ないんちゃう。
なら私はイチゴ食べるからさ、みのりはちゃうのん食べればええやん。
なんならこはるさんが奢ったるわ。
珍しいで?
私が奢るのなんて。」
「嫌だ。半額の日にわざわざ別の物頼むなんて、斜に構えてると思われるから恥ずかしい。
それに半額を食べる女の子に奢らせて、男の僕が定価のデラックスを頼むなんて、ヤバい男だと思われるじゃん。」
「なんなんアンタ、デラックス行こうとしてたん?
奢られる立場で?
恥ずかしがる所がズレとるやろ。
クレープ屋にどんな神経してんのって言うてたけど、アンタがどんな神経してんねん。
やっすいキャラメルソースオンリーのやつとか行けや。」
「そんなんだから失恋したのかって言いたいのね。
そうかもしれない…。
僕は、こんなんだから…。」
「あぁああ、ちゃうねん。
売り言葉に買い言葉と言うか…。
ほんま面倒やな、ナイーブ過ぎるやろ。
クレープは辞めや。
幸せ一杯、カロリーの爆弾なんやなぁ、コレ。
みたいなんを気にせずに欲望のまま貪るもんやん。
苦い顔して食べるもんとちゃうわ。
そういえばさ、みのり、スニーカー欲しい言うてたやん。
靴見に行こか?
新しい靴にしたら気分も一新!
新しい自分で生きていこうや!」
「あの子はスニーカーを履いていた。」
「…はぁ?そら履くやろ!
日本人の何パーが履き物スニーカーにしとると思ってんの?
老若男女、指定がなければ皆スニーカーや。
楽やからな!
そんなん気にしてたらなんも出来へんやん。
何?アンタ、あの子が服を着てたなぁって気にして、裸で彷徨くん?」
「裸では彷徨かないよ。
そこまでヤケになってないって、辞めてよ。」
「そうやろな!
現に服着てるしな!
…って言うかみのり、スニーカーやん!
今日スニーカー履いてるやん!」
「履くよ、楽だもん。」
「履くな!お前みたいなもんは!
スニーカー嫌なんちゃうん?
なんでそんな心持ちの時にわざわざスニーカー履くのん。」
「朝起きるのがギリギリになって走る可能性があったからね。
嫌な感情はあったけどね、仕方なく選んだんだよ。
戦略的選択だね。」
「起きろや!そんなに嫌なら。」
「失恋の悲しみで眠れなかったんだよ。」
「それについてはゴメン。
そうよな、眠れへんよな。
分かるわぁ。」
「こはるには分からないよ、この悲しみは。
安易に同調したら慰めになると思うなよ。」
「分かるわぁ。
共感が音を立てて走り回ってるわ。」
「なんか僕が想像する共感と違う。
それで?どんな悲しい事で眠れなくなったの?」
「それは…色々やん。」
「例えば?」
「例えば…?
いるかな、具体的な例え。
いらんやろ。」
「僕はこはるには悲しいことが起こっても眠れる派閥に属しているから、反論するなら例を出して貰わないと。」
「何やねんコイツ。
まぁ、ええわ。
乙女にゃ色々あんねん、例えば、家出る時前髪が決まらんとかな!
ほら、あるやん!」
「それはおかしい。」
「何でやねん。
乙女の前髪は侍の刀や!
魂やねんで?
研ぎ澄まされた可愛さが必要なんよ。
それが決まらん悲しみはみのりには分からんかもしれんけどもやな。」
「それは確かに分からないけど、違うって言ってるのは、出す例が悪いって話だよ。
前髪を整えるのは大体朝でしょ?
僕は悲しみで眠れなくなる例を欲しいんだよ。
夜の話をしてるの。」
「アホか。
その悲しみは深く、月明かりで思い出すもんやねん。
あぁ、今日の前髪は決まらんかったなぁって。
知らんやん、そんな悲しみを湛えているだなんて。
安易に否定すんなや。」
「汚いな、じゃあ。」
「なにがやねん。」
「リセットされてるでしょ、布団に入る前にお風呂に入ったら。」
「入っても、決まらなかった事実は覆らんやん。
辞め辞め!
不毛や、こんな会話!
…それで、みのりん、その、好きな子ってどんな子だったん?
吐き出しやぁ、楽になるでぇ。
聞いたるから、誠心誠意、好奇心ゼロで聞いたるから。」
「好奇心100じゃん。
その子はね、大体朝出てすぐのところで出会うんだけど。」
「ふんふん、家が近いんかな、ええやん。」
「いつもは僕だけが見てて、可愛いなぁって、そう思うんだけどね?」
「いじらしいなぁ、向こうはみのりのあっつい視線には気がついて無いわけか。
それでそれで?」
「でもさ、せめて知り合いくらいにはなりたいから声を掛けてみることにしたんだよ。
変な事は言わないよ?挨拶をしてみようかなって思ったんだよね。」
「ええやん。
人間関係はまず挨拶からって言うもんな。
そんでどうなったん。
返してくれたん?」
「逃げられた。走って。」
「そら冷たいなぁ、向こうも。
変な挨拶だったんちゃうん?」
「変じゃ無いよ!
普通に挨拶したって!」
「普通ったって色々あるやん。
おはようございますーとか、良い天気ですねーとか。
なんて言うたん?
女子目線で変じゃなかったか判定したらぁ!」
「にゃー。」
「にゃー?」
「にゃー。」
「…それはあかんやん。
変人過ぎるて。
友達の私だってみのりに朝イチでにゃーなんて言われたら走って逃げるわ。」
「仕方ないんだよ。」
「仕方ないことないよ、なんなんその子、猫かなんかなん?」
「そうだよ。」
「そうなんかい!
…え?その猫スニーカー履いてたん?
童話か。」
「ニャイキ。」
「もうええわ。」




