コカトリス様、現代日本でシロハラインコになる〜転生したら人気鳥チューバーになっていた〜
伝説の怪獣、コカトリス。
その名は神話の世界において災厄の象徴として知られ、空を裂き、山を穿ち、悪意と傲慢を己の証のようにふりまわしてきた存在だった。
かつては魔物の王を名乗り、天に口答えすることを喜びとしていた。だが、さすがに神々の忍耐も限界というものがある。
ついに厳罰が下された。
「おまえの驕慢、そのままにしておくのも芸がない。ならば──人に甘やかされる弱き鳥として、やり直してこい」
そうして彼女は現代日本に転生させられた。
目覚めたとき、彼女は自分の身体を覆うカラフルな羽根に気づく。短く丸みを帯びた、鋭い先端のくちばしに困惑し、脳裏に走る鳥独特の感覚に思わず叫んだ。
……いや、叫んだつもりだった。
実際に出たのは甲高い、
「ピィィッ!!」
という鳴き声だけだった。
──シロハラインコ。
それが、彼女に与えられた新たな姿だった。
そんな彼女を飼っているのは、ごく普通の青年、慎ましく働く一人暮らしの会社員だった。
彼は小鳥をはじめて迎え入れた初心者で、まさか中身が神罰を受けた怪獣だとは思いもしない。
「よしよし、かわいいな。名前、どうしようかな……」
青年は優しく手を伸ばした。その瞬間、彼女の誇りが爆ぜた。
「ピィィィッ!!(誰が! 誰が触れていいと言った! 私はコカトリスだぞ!)」
翼を最大限に広げ、威圧的にふくらみ、くちばしを鋭く突きつける。
ガチィン!
これでもかという勢いで攻撃。青年の指先は見事にはじかれ、彼は条件反射で「痛っ!」と顔を歪めた。
それで済めば、ただの「気の強い飼い鳥の話」だった。だが、彼には“動画投稿”という趣味があった。
「……これ、逆に面白いんじゃないか?」
軽い気持ちで動画を撮影し、SNSに投稿。タイトルはこうだ。
『新しく迎えたインコがめちゃくちゃ強気なんだけど』
数時間後、青年は腰を抜かした。通知が止まらない。再生され続ける動画。コメント欄には爆笑の嵐。
「この鳥、完全に王様の態度じゃん!」
「顔近づけた瞬間のキレ方クセになる」
「絶対中身人間どころじゃないw」
いつの間にか彼女は“鳥チューバー”と呼ばれ、フォロワーは気づけば五千万を超えていた。
だが肝心の本人は、そんなこと露ほども知らない。
(ふん、ようやく解ったか。私に逆らわぬ態度を取るのが当然だろう)
青年は攻撃を受けつつも、なぜか笑顔だ。むしろ嬉しそうだ。それどころか。
「お詫びに豪華シード(餌)を買ってきたからな……」
翌日には餌が高級ブレンドに変わった。止まり木は木製の上等品、ケージは大きくなり、おやつも豪勢に。
(……ほう。やっと貢ぐ気になったか。最初からそうしていればいいものを)
コカトリス、すこぶる満足。そして勘違いは続く。
彼女が翼を広げ威嚇すればするほど再生数は伸び、青年は喜び、さらに設備は豪華になっていく。
リビングはもはや鳥の王宮と化し、照明は柔らかく、空調は最適温度が常に維持される。
彼女にとって、これほど心地いい日々は怪獣時代にもなかった。
(……転生も悪くないな。人間世界も、私を正しく恐れ敬うのなら、存外悪くない)
そんなある日。青年は彼女を見つめ、ぽつりと呟いた。
「ありがとうな。お前のおかげで人生変わったよ」
その目は本気だった。感謝と愛情に満ちていた。
彼女は一瞬、心臓が跳ねた。知らぬうちに、胸の奥に薄い温もりが灯っていた。
「ピッ、ピィ……(……まあ、よい。感謝するがいい。私は偉大なる存在だ。それくらいの価値はある)」
けれどプライドが邪魔をして、素直に受け取れない。
代わりに、いつもより少しだけ優しいくちばしで青年の指を突いた。
ピシッ。
「いって……でも今日はいつもより優しい?」
「ピィ」
ほんの少しだけ、甘さをにじませた鳴き声。カメラはそれを逃さない。
──その動画は歴代最高再生数を叩き出した。
そして今日も、彼女は翼を広げて威嚇し、くちばしを突き出す。誇り高い怪獣として。
同時に、ただ一人の飼い主に甘えられる小さな鳥として。
彼女はまだ知らない。世界中が自分を見て笑い、癒やされ、救われていることを。
ただ一つだけ分かっているのは──今の暮らしは、悪くない。むしろ最高だ、ということだけだった。
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