8.佐藤家と
ガチャっというドアの開閉音と共に、リネが家に帰宅する。
「ただいま〜」
リビングに入ると、佐藤アカネがアニメを見ていた。
真っ赤なセミロングの髪で、いつもカチューシャで前髪を後ろにしているのが特徴で、アカネもリネに負けず劣らず胸がでかい。
そしてだいたい薄着で、大きめの丸メガネをしている。
下着をあまりつけないので、薄着だといつもぽっちが目立っている。
だが今回はタオルを首に巻いており、垂れたタオルでぽっちはちゃんと隠れていた。
「お〜?おかえりぃ〜。今日は遅かったですなぁ〜」
そう言ってニヤニヤとしながらリネに近づき、肩に腕をまわす。
「う、そ、そうね・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
リネの申し訳なさそうな表情で、こちらを見ない姿勢。
(これは失敗したか・・・?)
「・・・で、どうだったの?」
「・・・か・・・・・・」
「か?」
「今日はその、一緒に帰るまでは、成功しました」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・う、そ、それでその・・・」
「い、ええええええええええええい!!!!」
「!?!?!?!!??!?」
アカネはリネの手を取って上に万歳させて喜ぶ。
「よかったねぇ〜リネ!ようやく前に進めたじゃん!!!ほれ、何が食べたい?お姉さんに言ってみな〜ユーバーイーツで3000円までなら奢ってやるゾ〜」
そう言いながらまた肩に腕を回すアカネ。
「え?え?あ、あの!でも、お食事は失敗して・・・」
「なぁに言ってんの!一緒に帰れただけでも進んでる証拠だよ!あ、でもそれで満足しちゃダメだぞ〜?これからは毎日一緒に帰って〜、次はそうだなぁ、1ヶ月以内にはお食事に行ってもらおっかなぁ〜」
そう言って心底嬉しそうに語るアカネ。
「お、怒らないの・・・?」
「リネ〜、私はね、進展が欲しかったのさ!一緒に帰れてどうだった?」
「それは、その、嬉しかったけど・・・」
「ふ、ふふふっ、ふひひきひっ、いいぞその顔!やっぱリネは可愛いなぁ!!」
にやにやとした顔でリネの頬を両手でもちもちとするアカネは、しばらく触った後にリビングを出て自分の部屋へ向かおうとする。
「創作意欲が湧いてきたー!すまんリネ!今度奢る!今日は冷蔵庫の冷凍食かカップ麺か、自分で勝手に出前頼んでくれ!んじゃ!!」
そう言ってアカネはリビングのドアを閉め、自分の部屋へと向かった。
「あ、うん・・・」
リネは冷凍のナポリタンを食べた。
ーーーーー
大きな洋風の屋敷の中、大人数で囲めるリビングテーブルがある大広間。
その部屋で2人の男女が会話していた。
1人は艶めかしい濃い紅色の髪を、長く伸ばした黒いドレスの女性。
女性の名はミレイナ、サキュバスである。
ただ基本は人間に擬態しており、よくあるサキュバスのようには見えず、ただの美しい人間にしか見えない。
「で、あの怪人って一体なんなワケ?うちらが作った悪魔の兵士じゃないよね?」
ワインを片手で揺らしながら、男そう問いかける。
それに応えたのは、白い狼の耳を生やした美青年。
彼の名はシダ、狼人間である。
と言っても特徴的なのは耳だけであり、身体が毛深い訳でも、しっぽがある訳でもない。
たまに猫耳と勘違いされるが、狼耳である。
「知らんな・・・。アルガングラが作った人形やゴーレムとは違うようだし、他の奴らに聞いても知らないの一点張りだ」
狼耳美青年は、小さめのステーキをナイフで丁寧に切り、それを口に運ぶ。
「ふ〜ん。・・・ねぇ、そのステーキ私も欲しい。1切れちょーだい?」
「お前もカルクに作って貰えばいいだろ・・・、俺はまだ昼飯食ってないんだよ」
「え〜、いいじゃんケチ〜。私はお昼食べたから1枚は食えないのよ〜」
そう言ってワイン片手に美青年に近寄り、横に座ってシダをリビングのテーブルに顔を伏せながらじーっと見つめる。
「・・・はぁ、1切れだけだぞ」
そう言って切り分けた1切れのステーキを、ミレイナの口へと持っていく。
「あ〜ん!んん〜おいし〜」
ミレイナは幸せそうに両手を頬に当てる。
「・・・お父様なら、なにか知ってるだろうか」
「お父様最近寝てばっかだし、知らないんじゃないの〜?ていうかうちらにマホリアの輝石を奪えって言っておいて、自分だけ寝てばっかりなのズルくな〜い?」
「しょうがないだろ。お父様だって忙しいんだ」
「忙しいって何よ〜。いっつもパソコンと睨めっこしてるばっかじゃない!」
「アレは株取引をやってるんだよ株を。あの怪人がところどころで急に暴れ回ってるせいで、株の変動が大変らしいんだよ」
「何それよく分かんない・・・。てか暴れてるのはうちらも同じじゃない?」
「俺達は魔法少女しか狙ってないからまだマシだろ」
「マシって言うけどさぁ〜、お姉さん的にはまだ子供の女の子襲うの、ちょっと抵抗あるんだよねぇ〜」
「俺だって命は取らないように頑張ってるつもりだが、いかんせんマホリアの輝石の力が強すぎる。加減し過ぎればこちらが死にかねん」
「難しいわよね〜。うち【悪魔の兵士】使うだけで精一杯やわ。怖いし。せめてかっこいい男とか可愛い男の子になら、やられてもいいかもだけどぉ〜」
そう言ってくねくねするミレイナ。
シダは少しだけ顔を引きつる。
「まぁ誰かが死ねば俺達も本気を出すしかあるまいが・・・」
「それはあんまり考えたくないなぁ〜。ていうか皆で一緒に行って脅せばもらえないかしら?」
「逃げられるだけだろう。こういうのは1人ずつ戦って、これなら勝てそうって位の相手じゃないと。全力で逃げられたら追いつけなさそうだしな」
「それもそうかしら・・・。勝てそうな時もあのうさぎが邪魔して来るしねぇ」
「今度二人で行くか?こう、戦闘終わりに疲れた所をもう1回襲撃みたいな」
「可哀想〜。プライドとか無いわけ?子供相手によってたかって・・・」
「うぐっ。お、俺だって別にやりたい訳じゃない!だがだらだら戦い続けるぐらいなら、さっさと終わらせてやる方がいいだろ!ていうかお前の案も似たようなもんだろ!」
「私は脅すだけです〜」
「くれなかったらどうするんだ」
「・・・そりゃあ、みんなで囲って・・・」
「同じじゃねぇか!」
「はぁ、もういっそお父様が諦めてくれたら良いんだけど・・・」
「奥さんを復活させてやれるかもしれないんだ。諦められないんだろ」
「でもホマリアの輝石使っちゃったら、妖精の国が滅んじゃうんでしょ?流石に可哀想じゃない?」
「こっちの世界で俺達みたいに肩寄せあって生きりゃあいいだろ。それでも無理だったら、それが運命だよ。俺達の一族みたいにな」
ふん、と鼻息を鳴らして頬杖をつくシダ。
「・・・それもそうね」
ミレイナは、残り少ないワインを飲み干し、高い位置の窓から見える月を眺めた。
「あ、そういえば最近アルちゃん見なくない?旅行にでも行ったの?」
「知らん。あいつの事だ、おおかたゴーレムか人形を細かく作り込んでいるんだろう」
「あぁ〜、あの子造形にうるさいものね・・・」