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6.お仕事帰り


「あ、ああ、あ、あああ、あああの!!」


「ん?どうしたの佐藤さん」


仕事が終わっていざ帰ろうと、ビジネスバッグを持ち上げた山田春を呼び止めた1人の女性。


彼女の名前は佐藤リネさん。


よく見るOLのスーツを身に纏う一般会社員の後輩である。


とは言ったものの、その容姿は一般を明らかに飛び抜けている。


目つきの鋭い美人さんで、とにかく胸がでかい。


その胸のデカさは、テレビ番組でたまに見かける胸のでかい姉妹並にデカい。


つい胸に行きそうな視線を、いつも我慢するのが大変である。


最近はセクハラ問題がよくあるからね、気をつけないと・・・。


「その、一緒に、かか、かかか」


「かかか・・・?」


「・・・帰りませんか?」


最後の方の声は、何とか聞こえるギリギリの声音だった。





ーーーーー






苦節十数年、ようやく憧れの人と帰る事に成功した私は、顔を見るのも恥ずかしながら一緒に帰っていた。


昔から1人だった私に、勇気をくれた人であり、私にとっての勇者、それが山田先輩である。


いつか思いを告げる為、何とか職場を探し出し、ようやく見つけた彼の職場で、何とかクビにならずに働けている。


正直私は、見た目ほど頭が良い訳では無い。


容姿だけは整っているだけに良く勘違いされるため、私は出来るだけ無口を貫き、時には目を細めて誤魔化す日々。


するとどうだろう、見た目だけは綺麗に整っている為か、相手が勝手に勘違いしていつの間にか皆が自分をはやし立ててくれていた。


そんな風に、この職場でも何とか誤魔化して、ギリギリ就職することに成功したが、実際に仕事が始まるとそうはいかない。


初めてこの職場に来た時は何もかも分からず、今でも正直何をしているか分かってはいないが、言われた通りの操作をして今は何とかなっている。


だがこれも全て、教育係になってくれた山田先輩のおかげである。


誰が教育係になるかは運だったが、私はかなり運が良かったのか、山田先輩の下に着くことができ、山田先輩は仕事を丁寧に優しく教えてくれた。


何も分かっていない馬鹿な私に、山田先輩は嫌な顔ひとつせず、笑顔で優しく、分からないことも1から教えてくれるのだ。


山田先輩は覚えていないかもしれないが、私が小さい頃に助けて貰って、大きくなった今でもお世話になっている。


これはもう、私は山田先輩に尽くすしかないと思っている。


あわよくば両思いに・・・、なんて・・・。


と、いつも考えているものの、同じ職場となってもう2年が経っていた。


いい加減にもっと距離を詰めなきゃと思っているが、そういう恋愛に関しても全てが初めてなので、何をどうすればいいかも分からず、悩んだ末に、今一緒に働けるだけでも満足、というどうしようもない状況に陥っていた。


だが、それを許さない人間が1人居た。


それは職場の人間でも、家族の人間でもなく・・・、それはただの同居人、シェアハウスに住んでいる私の友人、佐藤アカネという女性である。


佐藤アカネは漫画家であり、いつも家を出ないで絵を描いている人で、私を拾ってくれた恩人でもある。


今描いている漫画は恋愛もので、子供向けであるものの、内容は割と心にくるものだった。


片思いの少女が主人公という、片思いという部分だけは私と同じであり、とても私と似ている性格をしていた。


というか私を参考にした作品だった。


そして中々進展しない私に、いい加減我慢できなくなったのか、私にもっとアプローチをして早く恋人になれと急かしてきたのである。


無理である。


「そんな可愛い顔して何言っとんじゃワレァ!!!」とキレ出してくる友人。


そんな彼女は、顔を真っ赤にしてオロオロしている私にアドバイスをするようになった。


曰く、もっと話しかけろと。


曰く、一緒に帰れと。


曰く、食事に誘えと。


無理である。


「なぁにが無理じゃ一丁前にそんな可愛い顔してからにィ!!!その顔で断れる男はいねぇっちゅうの!!!!!」とぶちギレられた。


正直なぜこんなに怒られているのか分からない。


分からないが、とにかく食事に誘って、一緒に写真を撮るまで家に帰るなと言われたので、ここ1週間帰ることが出来ていない。


カプセルホテルで寝泊まりしている私に、彼女は電話でまたブチ切れた。


「いい加減手ぇ出さねぇなら、そんないい男私が寝とってやるぞゴルァ!!!!!」と。


それは私も流石に耐えられなかった。


そしてついに今日、私は一緒に帰る所までは成功した。


成功はしたものの、ある後悔をしていた。


(最初の一言目で食事に誘えばよかった・・・)


リネは無口ゆえ、あまり喋ることに慣れていない。


よって一緒に帰って数分経った今なお、何も会話出来ていなかった。


(どうやって食事に誘えばいいのぉ・・・)


と、目の中を一生ぐるぐるさせたまま、隣を歩くことしかできていない。


そんな中、ついに山田先輩から話しかけてきてくれた。


「えっと、僕こっちだから・・・」


分かれ道である。


もう最後の瞬間であった。


「そ、それじゃ・・・」


最後に軽く手を上げて挨拶して、その道をゆっくり歩いていく先輩。


思考停止した脳は、何を言えばいいかも分からず、少し手を伸ばして、私はフリーズしてしまう。


ゆっくりと歩いていく先輩。


フリーズしている私。


距離だけが少しづつ離れていく私達。


辺りはもう夕暮れで、もうすぐ日が落ちてしまう。


沈んでいく日と同じように、私の頭も少しづつ沈んでいく。


このままでは。


このままでは山田先輩が、彼女に・・・。


「・・・佐藤さん、もしかして、なにか悩み事でもあった?」


いつの間にか、山田先輩は私の前に立っていた。


「・・・・・・・・・へ?」


私は呆然と彼を見つめてしまう。


「最近よく悩んだ顔してるからさ・・・。もし言いづらい事だったら僕じゃなくても、佐藤さんの同期とかに相談するのもいいと思うけど・・・」


「わ、私・・・、わたし・・・」


私はもう、何を言えばいいのか分からなかった。


「・・・うーん、あ、そうだ!じゃあこれからちょっと、飲みに行くってのはどう?ほら、お酒とか飲んだら、少しは話しやすくなるかも」


気づいた時には、山田先輩から食事に誘われていた。


まぁ食事というより、飲みにという方が正しいのかな。


「あ、あの、是非!ご一緒に!!!」


返事は決まっていた。


「それじゃあ行こうか」


山田先輩は微笑みながら、そう言ってくれた。





ーーーーー





そうして飲み屋に向かっている最中、大通りで事件が起こった。


前方からは逃げ惑う人々が、私達の横を走り去っていく。


道の先では、爆発事件でも起きたのか黒煙が上がっており、またドカンという爆発音が鳴り響いた。


「怪人だああああああああぁぁぁ!怪人が出たぞぉぉおおおおおお!!」


1人の男性が、そう叫びながら走り去っていく。


「ま、まじか、この前も動画で見たけど、最近多いのかな」


「か、怪人?怪人ってなんですか?」


「え?佐藤さん知らない?なんか最近テレビでもニュースになってるらしいけど・・・」


「う、あ、あんまりテレビを見ないものでして・・・」


「へぇ〜、僕と一緒だね。・・・とりあえず一緒に逃げようか」


そう言って山田先輩は、私の手を取った。


「は、はひ!」


私はぎゅっと彼の手をつかみ返した。





ーーーーー





しばらく走った後、周りの人の居なくなった所で足を止めた。


「ふぅ、結構離れたし、ここら辺ならもう安全でしょ・・・」


そう言って山田先輩の手が緩められた。


が、私は離さなかった。


山田先輩はチラッと私の手を見て、私の顔を見た。


思わず顔を背けてしまった。


だって離したくない。


でも言えない。


恥ずかしい。


するとどうだろう、山田先輩は再び握り返してくれた。


この時山田は(怖かったのかな)と、勝手に思い違いをしていた。


山田先輩と手を繋いで歩きたいだけである。


(まるで恋人)


(フフフ、まさに恋人・・・フフフ・・・)


「うーん、どうしようか、もう大分暗くなってきたし、一旦かえ・・・」


そこまで山田先輩が言った所で、ドシンと何かが目の前に降ってきた。


「・・・チカラヲカンジル」


目の前に降ってきたのは、怪人だった。






ーーーーー





「できた!これでどうだ!!?」


リビングのテーブルの上で、小さい魔法陣を作り出したリィラ。


完成させたその魔法陣をレドに確認してもらうために、無邪気な笑みで振り返ると、後ろに立っていたレドは、どこか上の空で天井を見上げていた。


「ハルがピンチだ・・・」


「ピンチ・・・?腹痛か?」


「んなギャグ漫画みてぇなピンチじゃねぇよ。命の危機だ命の」


レドはリィラの頭に軽くチョップした。


「え!?やばいじゃん!すぐ助けに行かないと!」


そう言ってリィラは椅子を引いて立ち上がろうとするが、それをレドがリィラの頭にのせた手を、掌で押さえるように変えて、リィラを座らせたままにする。


「まぁ待て、そこまで急ぐ事はねぇ」


「え?でも命のピンチなんだろ?早く行かないとじゃ?」


「たぶん大丈夫だ。近くになんかいるし」


「なんか・・・?なんかってなんだ・・・?」


レドの手を両手で持ち上げて、どけながら聞く。


「うぅん、なんだろうな・・・。お前と似た匂いがする」


レドが指を顎に当てて、考えるように呟いた。


「匂いってなんだよ・・・。てかお前、なんでハルのピンチが分かったんだ?それも魔法か?」


「ああ、念の為ハルの危機感知の共有みたいな魔法をかけててな。命の危機を感じたら、俺様にも共有されるようになってる」


「そんな魔法もあるのか」


「そもそも魔法ってのは、ルールの構築だ。世界の構築に対して自分の理想を創り描く神秘の理、だから俺様ぐらい魔力があれば、なんでも出来るんだよ」


「ずるいなぁ〜。私にも分けてくれよ」


「・・・まぁ別に出来なくはないが、持て余すだろお前。知識も中途半端だから、俺様みたいになんでも出来るわけじゃねぇし」


「むぅーん。だからこうやってたまにお前に教えて貰ってるだろ。それに、魔力はあればあるだけ連発出来るんだからさぁ」


リィラは口を尖らせながらそう言う。


「魔力を譲渡するのはちょっと、昔のやらかしを思い出してなぁ〜…。昔俺様を崇拝してた信者に気軽にホイホイ渡してたら、世界の半分くらい支配しだしてたから危ねぇんだ…。ハルみたいな無害で力の無いやつに保険として渡すなら良いんだが…。あいつら結局俺様が処理したし」


「完全に悪役じゃん・・・。てかお前、崇拝とかされてたんだな」


「そりゃまぁ神より強えし。まぁどっちかってぇと見た目の問題で、邪神みたいな崇拝されてたが」


「アハッ!邪神ッ!あはは!可哀そっ!あははは」


「俺様みたいな見た目の奴を崇拝する奴なんて、だいたい悪人か、誰かを恨み殺そうと俺様に頼るどうしようもねぇ奴ばっかだったから大変だったぜ?まぁなんだかんだ邪神プレイも楽しかったがな」


「良いなぁ。私もこう、女神様みたいに崇められたりしないかな。この世界ならいけそう。みんな魔法使えないし」


「お前ぐらいの容姿なら、ユートゥーバーになればすぐにでも女神みたいに信仰集められるぜ?いっちょなってみるか?」


「えっ…そうかな…?あぁ〜…、でも、うぅ〜ん、ユートゥーバーって定期的に動画出さなきゃだろぉ?」


一瞬照れたような顔をするも、すぐに面倒くさそうな顔をするリィラ。


「別に、たまに配信するとかでもいいんじゃねぇか?ほら、ブイトゥーバーみたいな感じにすりゃあ動画の編集も要らねぇし」


「編集・・・。あ!じゃあレドが編集してくれるなら・・・!」


「くれるなら・・・?」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「や、やろうかな・・・?」


「その言葉を待ってたぜ」


レドはリィラの肩をポンと優しく叩いた。


リィラがユートゥーバーになる事が決まった瞬間である。


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