5.動画と怪人
「今日の俺様は海鮮料理作りの為に、港の朝市に来ております。今日はそうだな、やっぱでかい魚がいいよな。切りごたえがあると動画映えもするしな」
そんな事を言いながら、レドは市場を歩いていく。
カメラは自撮り棒を片手で扱いながら、器用に撮っていた。
たまぁに知らない陽キャが絡んでくるのだが、今日も陽キャが絡んできた。
「おお、すげぇコスプレ!おっさん撮影か?うぇ〜い!」
昔なら俺様の姿を見るだけで阿鼻叫喚だった時もあるが、この世界は割とフレンドリーな輩も多い。
「おう、撮影中だぜ!俺様の動画に出てえのか?」
「俺様だって!かっくい〜!俺も動画に出れんの?」
「まぁ、面白かったら出すかもな!なんか面白いこと出来るか?」
「めっちゃ無無茶振りしてくるじゃん!ははは!!俺変顔得意だから見せてやろうか?」
「お〜、面白くなさそうなの来たな。それじゃああんちゃんの変顔まで3、2、1!」
「うぇーい!!!」
ここでアンちゃんの顔面ドアップ画面にモザイクを入れる。
ピーーーーー。
ピー音入れてここでカットかな。
「よし、それじゃありがとな!あんちゃん」
「あざしたー!またね〜!!」
俺様は陽キャと握手した後、魚の目利きに移った。
ーーーーー
うん。いい感じにでかい魚が手に入ったので、それを撮りながら買って家で捌こうと思った矢先、なんか海沿いが騒がしい事に気づいた。
「怪人だああああああああ!!!怪人が出たぞぉぉおおおおお!!!」
頭にハチマキを巻いた、The魚屋のおっさんみたいなやつが、叫びながら人を追い出す。
ドカンという大きな物音と共に、おっさんの後ろでは魚の入った箱が飛び散っていた。
慌てておっさんも逃げていく。
なんて勿体ねぇ・・・。
「見ろよ、本物の怪人様らしいぜ」
俺様は、止めようとしてまだ止めていなかった動画撮影を再開し、怪人がいた方向へ足を向ける。
「オラァ!!!シネェ!!!」
「う、うわああああああああああああああああ!!!」
怪人が、スーパーとかで食品を冷やすよくある棚のような大きな機械を、誰かに投げつける。
「ん?あれさっきのあんちゃんじゃねぇか?」
あんちゃんは、怪人の投げた機械にビビって、足をもつれさせてしまいコケていた。
このままでは当たってしまうという所で、俺様は素早くあんちゃんの前まで走って、その大きな機械を誰もいない場所へ、片手で弾き飛ばす。
「危なかったなあんちゃん。怪我はねぇか?」
「あんたはさっきの・・・」
驚いたような表情でこちらを見る陽キャ。
「あ、そうだ丁度いい。俺様の勇姿を、これで撮っといてくれねぇか?」
そう言ってスマホをあんちゃんに渡す。
撮りやすいように自撮り棒からは外しておき、自撮り棒は横の地面に置いておく。
「すぐに終わらせるからよ」
そう言って片目でウィンクした。
「お、おう!かっこいいとこ見せてくれよ!」
陽キャは先程の恐怖も忘れて、ノリノリで俺様にカメラを向けた。
さすが陽キャと褒めてやりたいところだ。
「任せとけ」
そう言ってレドは陽キャに大きな背中を見せ、ゆっくりと怪人の方へ歩きだす。
目の前にいる怪人は、鮫の様な頭に、鎧のような外皮を纏った化け物だった。
「オレサマヲサカナガオトイッタヤツ、オマエ、オマエハオレガコロシテヤル!!!」
そう言って怪人は、陽キャを指さし、明らかに狙っている様子だった。
「ん?おいおいあんちゃん、人の顔をバカにしちゃアカンぜ?親から貰った大事な顔なんだからよ」
そう言って陽キャに説教をしようと思ったレドだが。
「オマエエエエエエッ!!!オマエッ!オマエモオレノオヤヲバカニシヤガッタナアアアアアアアアアアア!!!」
怪人はレドに対してもブチ切れた。
「エッッ!?いや俺様はそんなつもりじゃ!?」
「コロシテヤルウウウウウウウアアアアアアアアアアア」
ブチ切れた怪人はダッシュでレドへと殴りかかって来た。
「…まぁでも殺しはいけねぇぜ?世の中やり過ぎていい事なんざ、殆どねぇんだから・・・なっ!!!!」
レドは、走ってきた怪人に向かって、カウンター気味に腹部へ強烈なパンチを当てた。
\パァンッ!!!/
怪人は爆裂四散した。
「えっ!?」
「えっ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
爆裂四散した怪人は、内蔵は飛び散ることなく、灰となって消えるため、爆裂四散した灰が風に流され消えた。
「こ、これって正当防衛だよな?」
「・・・まぁ、正当防衛じゃないっすかね」
思ったより呆気なく終わり、なんだかいたたまれない空気となった。
ーーーーー
「という訳で今回は、クエの刺身に煮付け、鍋も作った訳だが、どれも最高に美味かったぜ!お前らも市場でクエを見つけたら、まぁ、うん、高いが美味いし、一度は捌いてみるのもありかもな!途中でちょっとしたトラブルもあったが、無事に食えてよかったぜ!それじゃあまた次回も見てくれよな!バイビ!!!」
テッテッテッテ〜レ〜♪
と軽快な音楽が流れ、別の動画をおすすめして乄られた。
それをリィラとハルは眺めていた。
「いやいやいや!!お前これちょっとしたトラブル超えてるだろ!単品で出せよ!何お魚捌くついでみたいなおまけになってんだよ!!!」
リィラが動画を見せてきたレドへとツッコむ。
ちなみに動画はテレビで再生しており、今はそのクエの料理をみんなで楽しんでいる最中だ。
今日はクエ料理だぜ〜と気軽に言ったレドは、そういえば市場で探してる途中で面白い事あってさ〜と言って、動画を見せてきたのが事のあらまし。
因みに今食べているクエ料理は、動画で作っていた昼食のメニューを、わざわざ自分にも食べさせる為に、夕食にも作ってくれていたものである。
ただ、リィラは昼にも食べたらしいので、夕食はちょっとだけ追加の料理もしていた。
「にしても動画作るのも早いね。今日撮って僕が帰ってくるまでに編集した訳でしょ?」
「まぁ俺様分身も出来るからな。料理してる間に市場パート編集して、後は料理が終わり次第そこも追加編集して終わりだ」
「おい、ハルも怪人のシーン別で出した方がいいと思わないのか!?」
「ま、まぁ怪人倒すの一瞬だったし、しょうがないよ。単品で出すには短すぎるだろうしね・・・。あ、ショート動画とかにしたらいいんじゃないかな」
「ああ、確かにショート動画でいいな!後で出しとくか」
「にしても美味しいね、このクエってお魚・・・。初めて食べたよ」
割と大事の怪人騒ぎなのだが、こと異世界人の明らかに怪人より凄い人物が2人もいるため、どちらかと言えば今食べている食材の方が、ハルは心に残った。
「私はどっかで食ったことある気がする・・・。いやまぁ別世界の魚だけど。名前なんだったかなぁ」
「リグァプィールじゃねぇか」
異世界の魚だからだろうか、独特の発音の魚の名前が聞こえて、ちょっと興味をそそられる。
「ああ!それだそれ!無駄に高かったんだよなぁ」
「言っとくがこの魚も普通に高ぇからな」
レドとリィラは、たまに異世界の話を混ぜながら会話をしている。
怪人よりどちらかと言えば異世界の方が気になるなぁと、ハルは思った。
「そういえばリィラって、昔は旅をしてたんだっけ」
「ああ!色んな所を飛んで回って駆け抜けて、悪党をやっつけたりダンジョンを攻略したり!この世界のアニメみたいな無双をしながら、そりゃあ楽しかったもんだったぞ!なんせ私、最強だったからな!」
そういえば、前に勇者だ何だと聞いたことあったっけ。と思い出すハル。
なんだかんだで沢山会話し、2人の情報はある程度掴んでいるが、詳しくはまだそんなに知らない。
最初は教えることが沢山あったし、覚えた後の最近は、レドの料理が美味すぎて、料理の話題ばかりになってしまうからだ。
「強いっつっても俺様よりは弱えけどな」
「お前が規格外なんだよ!お前、見てくれはそんなんだが、前に言ってた話から考えるに、神の類じゃないのか?」
「そういえば、レドって見た目通りの悪魔って訳ではないんだっけ」
「そうだな…、神っつうより、神が産まれるより前に産まれた【始祖】の生き物と言うのが正しいな」
「神様が最初じゃないの?」
「卵が先か鶏が先かみたいな話だな」
「昔の生き物は大体なんでも出来た。過去改変もそうだが、未来に行くのだって出来る。世界は生まれた時点で、最初も最後も終わりなく続いている。俺様は無から産まれた特異点。空間が産まれ形ある物が産まれ、未来が出来、未来から過去が産まれ、それは無限に広がる輪となり、世界が産まれた」
ハルとリィラは黙ってレドの話を聞いている。
ほぼ神と言っても過言では無い存在の語る話は、壮大であり、・・・長かった。
レドは最初からその姿だった訳ではなく、昔はただの球体だったらしい。
神が誕生し、質量のあるものが姿を変えた時、レドも少しだけ姿を変え、最終的に今の形になったらしい。
それにしても話は長く、流石のハルも眠気がピークに達し、テーブルに顔を突っ伏して寝てしまった。
覚えているのはレドが姿を変えたというところまでだった。
「そういえば、お前はこの世界に来たら帰って来れないとか言ってたが、お前程の力があるなら、戻る手段も確立できるんじゃないのか?」
「まぁ正直出来なくはないが、世界を新たに作る神の力はかなり強い。俺様も強いが、もし世界のルールを破ったせいでそんな神と喧嘩にでもなった時、お前さんみたいなちっぽけな存在は、その余波で魂すら残さず消えちまう可能性もある。この世界の神はどうやら緩いから、この世界に存在する事をお目こぼししてもらっているがな。まぁ正直負けることは無いし、全てを元に戻すことも出来るが・・・、魂の再構築は流石の俺様も難しいからなァ」
レドが話を少し置いて、コップから水を飲んでいると、リィラはなにか思い詰めた表情をして、少しだけ視線を下げてレドに話しかける。
「・・・・・・なんでお前、私みたいなやつにも優しいんだ?・・・自分で言うのもなんだが、私結構ワガママだし、言いたい放題だし・・・、なんというか、無礼だったんじゃないか?お前に対して・・・」
なんとなくレドがとんでもない人物と悟ったリィラは、少し反省したのかしおらしい態度になる。
レドは一瞬呆気に取られたが、すぐに笑いだした。
「ハッハッハッハ!!気にすんな!!俺様はんなちっぽけな器じゃねぇんだよ!俺様はおもしれぇもんが好きで、お前におもしれぇもんを教えて貰って感謝してるぐらいだぜ!だから俺様は、お前も幸せにしてやるぜ!まぁ人並みにだがな!ガッハッハッハッハ!!」
リィラは元魔法使いである。
魔法使いとは、魔法という膨大な知識の塊によって、初めて会得出来る力の結晶である。
その果てなき知識への渇望によって、リィラは魔法使いとなれたのだ。
そんな魔法使いのリィラがもし求める幸せがあるとすればそれは・・・。
「そ、そうか?じゃあ、もっと色々教えてほしいことがあるんだが・・・!」
果てなき知識への探求である。
会話は、リィラが眠るまで続いた。
夜飯を食べてから、約10時間程経過した後の話である。
途中でハルは起きたものの、流石に眠いのか自分でベッドへと歩いて行った。
ハルと同じようにリビングのテーブルに突っ伏して寝たリィラは、レドが優しく抱き抱えて、リィラの部屋のベッドまで運んで行った。