40.帰ってこねぇな
遅めの晩飯を食べ終えた2人と1匹。
時間は22時半。
既にこの家の家主であるハルが帰ってきてもおかしくは無い時間だが、未だに帰ってくる気配はなかった。
全員リビングでのんびりと過ごし、ラウィンのグループを開設したり、テレビでバラエティ番組を見ていたりしたが、ふと時計を見たことでおかしいとやっと気づいたリィラ。
「そういえばレド、ハルがまだ帰ってきてないんだけど、連絡とか来てないのか?」
「ん?そういや帰ってこねぇな。ラウィンで電話してみるか」
そう言ってレドは、虚空から取り出したスマホから、通話を試みる。
しばらく待ってみるが、ハルは電話に出ることはなかった。
「でねぇな」
「ちょっと心配だな。なんか探知魔法で探せないのか?」
「ちょい待ち」
そう言って虚空を見上げてぼーっとしだすレド。
おそらく魔法を行使して探しているのだろうが、何もしていないようにも見えるので、本当に探してるのか少し疑問に思えてくる。
「そういえば聞いてなかったけど、リィラちゃんもレドと同じくらい強いのかしら?」
ふと疑問に思ったことをリィラに聞くミヤビコ。
ちなみに今の姿は、小さい魚の妖精?モードである。
「ん?いや、私はこいつ程強くないぞ。まぁアニメに出てくるそこそこ強い主人公ぐらいには強いけどな!」
自慢げに胸を張るリィラだが、胸はなく、その胸に書かれたニートという文字が強調されている。
「それで今はニートね…」
「いいだろ別にー!昔は私だって世界を守ったんだ!ちょっとぐらい休んだってバチは当たらないだろ〜?」
「あら、そこまで凄いことしてたのね?じゃあやっぱり私より強いのかしらね」
「ま、私もそれなりに最強だからな!」
うんうんと腕を組みながら頷き、自信満々のリィラ。
「おかしいな、この次元にいないぜハル」
「ん?」
「なによこの次元に居ないって…」
「言ったまんまだぜ。この世界からハルという存在そのものが居なくなってる。いや、別にハルに関するものが消えたわけじゃねぇが、魂がこの世界にねぇ感じだな」
「んん?それってつまり…」
「死んだってこと…?」
ミヤビコが重い表情で聞く。
「あー、いや、別の次元に拉致された…、いや、召喚された感じか…?とりあえず生きてはいるな」
「なんでそんな事も分かるのよ…」
ジト目で質問するミヤビコ。
「まぁ最強だからな」
「最強最強言ってればいいってもんじゃないと思うのだけれど…。あなた達最強好きね」
「せーの…」
レドがリィラの近くによって小さく合図する。
「「最強だからな!」」
2人で自信満々に、腕を組みながら胸を張る。
「あーはいはい、仲が良いのは分かったから。どうするの?その別次元っていうのにも行けるんでしょ?どうせ。これから向かうの?」
「そうだな。ゲートっていう魔法で直行しても良いが、別にハルは危機感感じてないし、むしろ今の状況楽しんでるような匂いがするから、まぁしばらくは大丈夫だろうが…」
「でもハルって明日も仕事じゃないか?」
「ん?そういやまだ木曜日か。流石にもう寝る時間だし迎えに………お?珍しいな、ハルの奴危機感を感じてやがる」
「おお!ついに私達の出番か!!!むほほ、やってみたかったんだよなぁ味方のピンチに駆けつけるかっこいいヒーローみたいな………、今日やったな」
ワクワクしながら語っていたリィラだが、今日それっぽい事をやっていたのでスン…っと真顔になった。
「んじゃあ今回は俺様がその役をやろうかな。ゲートオープン!解放ッっつってな」
ガチャッ
レドはテレビを消した後、テレビの前に白い扉を顕現させ、躊躇いなくガチャッとドアを開けた。
リィラとミヤビコにも見えるように開けたドアだが、そこには何も無い青空が広がっていた。
下には広大な山や森が見え、どこか高い崖の上に立っているような感覚になる。
そこでリィラが一言。
「これってハル、崖から落ちたとかじゃないのか?」
そういいながらレドリィラミヤビコは、ドアから顔を出し、それぞれ周りを確認しだす。
「おい、これ崖じゃなくて空中じゃん!」
「なんか向こうで爆発してる船の残骸みたいなのあるわよ」
「おっとぉ、ちょっと時間止めるぜ」
レドはなにかに気付いたようで、すぐさま指を鳴らして、レドリィラミヤビコ以外の全ての時間を止めた。
「ん?どうした?なんかあったのか?」
「あそこの光、なんかわかるか?」
レドは空に向けて指をさし、リィラとミヤビコはそれに顔を向ける。
「昼にしては随分輝いてる星ね」
「おー。…んんー?んんんー?あれ、うすーく船のシルエットが見えるような…」
「うっそ。あれなんかすんごいエネルギー溜めてるじゃない。あれがこの星に落ちたら、持たないんじゃないかしら」
「ハナっちの言う通りだぜ。アレだなハルの感じてた危機感の正体」
「んで肝心のハルどこ行ったんだよ。てかここどこ…?なんで空中?」
「まさかあの船の中だったんじゃ…」
ミヤビコは地上に落ちている残骸に目を向け、リィラもそれに目を向けるが、レドはあっさりと否定する。
「んー?いや、この世界にハルはもう…、あん?いや居るな。んん?いや、あ?これは、ああ、なるほど、この世界のハルは居るが、俺達が知ってるハルはもうこの世界に居ねぇな」
「なんかややこしいな。この世界にもハルがいるのか」
「そうみたいだぜ」
「んじゃあとりあえずこの世界のハルに会いに行ってみるか?」
「そうだなぁ、その前にあのエネルギーどうにかしねぇと、この星終わりだぜ」
「あれかぁ」
「レドはどうにか出来るでしょうけど、リィラちゃんは出来るの?」
「お?でき…できるが?たぶんできるが??まぁ、ちょっと魔力足りないかもだけど、魔力があればできるが?」
少し挙動不審になったが、できるにはできるようだ。
「ふぅん?魔力があれば余裕で星も破壊できるのね」
「魔力は万能だからなぁ。そりゃみんな魔力あればどうにかできるだろ。ハナっちでも俺様並に魔力あれば余裕だろうぜ」
「うぅ、せめて後倍ぐらい魔力あれば自信あるんだけどなぁ」
「んじゃあ今度俺様が魔力鍛えてやるか」
「えぇ〜、絶対だるいじゃん。どうせ魔力空まで使って、吐くまでやる奴だろ?しんどいって…」
「まぁ別に今の生活でも満足できるしめんどくせぇか。んじゃあまぁ俺様とリィラの仲だ、今回は特別に、リィラの魔力が倍になるぐらいの魔力を貸してやろう」
「うおおぉぉ!!マジ!?やったぁ!!!…てか別に無制限でも良くね?」
「あれ跳ね返すとかならそこまで要らないんじゃねぇか?」
「んー、まぁそれもそうか。倍ぐらいあればまぁあれぐらい跳ね返せるか」
「リィラちゃんの実力もみたいけど、私はレドがどういう攻撃をするかも見てみたいわね」
「あー!確かに!私もこいつ攻撃してるの軽く殴ってるのしか見たことないからちょっと気になる!なんかすげぇの見せてくれよ!」
「うん?魔力貸さなくていいのか?」
「それはまぁ今回じゃなくてもいいし。レドが本気で攻撃するのも見てみたいしなぁ」
「そうか?んじゃあ今回は俺様がやるか」
「おお〜」
「楽しみだけれど、ちょっと怖いわね」
「俺様は最強だから、別に余波でこの次元が消え去っても元に戻せるぜ」
「その余波で次元が消え去るの意味がわからないのだけれど、もうちょっと威力抑えてもいいんじゃないかしら」
「うーん、でもそのレベルなら魔力貸したリィラとハナっちにも同程度の事出来ると思うぜ」
「どのレベルかわかんないけど星破壊するのは流石の私も…できるかなぁ。いや魔力いっぱい貰ったら出来るのか」
「…確かに、どれだけの魔力を想定してるか分からないけれど、それくらい派手なのは魔力を込めればいけそうね。流石に次元破壊は想像つかないけど」
レドは両手を胸の辺りでボールを掴むような形にし、魔法を発動する準備をする。
まぁとりあえずかっこいいようなポーズをとって、魔法を分かりやすく発動しようとしているだけで、そのポーズをする必要は無いのであるが。
「という訳で見せてやろう!俺様とっておきの最強破壊魔法【 】!」
その言葉は、よく聞こえなかった。
聞こえなかったが、その魔法を使った瞬間、周りが無になった。
というより真っ暗である。
まるでテレビの電源が切れたかのように、プツンと一瞬で全てが黒く染った。
「…あの、なにも見えなくなったのだけれど」
「くらーい!」
「おっとすまねぇ灯りつけるぜ」
そういうとレドは指先に小さい光球を生み出した。
それだけでもだいぶ照らされるようで、リィラとミヤビコとレドが互いに見えるようになった。
ただ妙なのは、まるで海の中にいるような、宇宙で無重力になっているような感じで、全員ふわふわしている。
「これってどういう状況なのかしら」
「あれだろ?全部消えたからなにも見えなくなったみたいな…。あれ?でも空気はあるな」
「そりゃ俺様が空気出してるからな」
「なるほど」
「なるほどじゃないわよ」
「てか地味だなやっぱ。これ次元ごと破壊してるから発動したら虚無なんだよな。まぁ元に戻せるからどうでもいいんだけどよ」
「まぁ、何も感じる余地も無かったし、ちょっと地味かしら」
「ここまでの規模いくと、やっぱ微妙だな。宇宙破壊できるキャラが叩かれるのもわかるわ」
「アレと同レベルかぁ」
「強すぎると議論の余地ないし。お前は強すぎたんだ…。弱くなって生まれ変われよ…」
「俺様を生まれ変わらせようとしてる?」
「とりあえずそんな事どうでもいいから、さっきのシーンに戻しなさいよ。とりあえずもっと分かりやすく派手なのでアレやっつけときなさいな」
「それもそうだな。んじゃあちょっと戻すぜ」
そう言ってレドが指をパチンと鳴らすと、先程の時間が止まったシーンまで戻ってきた。
「おお、重力を感じる」
「てかさっきのってドアも消えてたけど、元の世界も消えてたんじゃない?」
「まぁ戻せるからいいじゃねぇか。そもそもなんも感じなかったんだから、お前らにとっちゃ幻覚で周りを無重力で暗いだけの空間にしたのと同レベルだろう」
「まぁ、それもそうかしら。アンタが悪役じゃなくて良かったわよほんと」
「そもそもやろうと思えばなんでも出来るし、それでそこまでの悪に落ちた奴なら、自分の好きな世界でも作ってるだろうさ。んじゃあとりあえずあの宇宙のデカブツぶっ倒す技でも撃つか」
「頑張れ〜」
リィラが応援したと同時に、レドは両手をパンとならして、時間停止をやめた。
外の空気が動いてドア越しに風が送られてくるのを感じる。
「と言ってもかっこいい技とかってだいたいなにか犠牲にして放つやつだからなぁ。どうっすっか…、まぁ普通に派手なエフェクトかけたビームでも撃つか」
顎に手をかけ悩んだレドは、とりあえず右の掌を前に出した。
丁度右手だけがドアの外に出ている。
「名前はそうだな…【宇宙の始まり《ビックバン》】とか」
「ドラ〇ボかーい」
ぺちっ
ドンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
リィラがやる気のないような声でレドをはたいてツっこむと、レドの向けていた右手から眩い閃光が弾けた。
白と黒の激しい光と爆風爆音に、思わずレドの足に抱きつくリィラ。
だが爆風等の衝撃は、こちら側には極限までに抑えてあり、リィラの髪がなびく程度に納まっている。
ただし普通に音はでかかった。
でかかったが、最初のでかい音以降はだいぶ小さい音になっている。
「び、びっくりしたわ…、急に驚かさないでよ」
「み、耳が壊れるかと思った!!!!!ちゃんとそういう技はエネルギー溜めてから放てよな!!!ゼロフレームで爆音出すのやめろ!!!てか今ちっちゃくできるなら最初から小さくできただろ!!!」
「いやだって叩かれた衝撃でちょっと出ちゃって…。音は忘れてた」
「びっくりして屁出す感覚で馬鹿みたいなビーム出すんじゃないやい!!!」
「だってお前らが見たいって言ったんじゃねぇか、必殺技」
「今考えた技だろ!」
「必殺技は必殺技だろ。これ防げるか?」
「………無理だけど!!」
少しビームを眺めた後、すぐに無理だと返事をする。
少し見ただけでも頭のおかしい魔力が目の前で渦巻いているので、無理なものは無理である。
そもそもの魔力量が違いすぎる。
「これは分かりやすくヤバいわね。さっきの技の方がやばいんでしょうけど」
「たしかになー…」
そうしてしばらく眺める2人と1匹。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「なぁこれいつまで撃ってんだ?」
「まぁ宇宙までは遠いし、届くまで結構かかるのかしら」
「いやもう消し炭にしたぜ」
「じゃあいつまで撃ってんだよ!」
ぺちっとレドを叩くリィラ。
それでレドも素直にビームを止めた。
「すぐ止めるのも必殺技っぽくねぇかなって…」
「まぁそうだけども!」
「ていうか思ったより外には反動みたいなのあるのね。森が更地になってるわ」
「そうだなぁ…お?あそこ穴があるぞ?」
「地下施設みたいなのがありそうだな」
「そういえば誰か探してたんじゃなかったかしら…」
「あっ!!!おいレドお前ハル巻き込んでないよな!?」
「ああ、この近くじゃなかったしな…。あ?いや近い方か。だいぶ地下だけど」
「地下ってことは、あそこの奥か」
「それじゃあ早速行ってみる?」
「そうだな」
レドはそう言って、ゲートのドアから飛び降りた。
続いてリィラも飛び降り、それにミヤビコもついて行った。




