39.魚vs天使
顕現した鎌を構えた直後、リリシアは突進しながら鎌の刃を下段から振り上げる。
ミヤビコはすぐさま空中へ空高くジャンプしそれを回避。
それに追従するようにリリシアは翼を動かし天を駈ける。
「空中じゃあ避けられませんよぉ!!!!」
そう言って鎌を振り上げると、ミヤビコは言い返す。
「馬鹿ね!魚は泳ぐものよ!鍛えれば空中だって泳げるもんなの、よ!!!」
ミヤビコは空中で足を曲げると、そのまま空を蹴って空を舞い、鎌を悠々と回避した。
「んな!?空中でジャンプした!?」
回避したミヤビコは、まるで空中の見えない壁に張り付くように止まっていた。
「あんたは翼で飛んでいるようだけれど、私は空中で足場を作って移動する。トップスピードは負けるかもしれないけど、初速ならアンタよりもぉ、速い!!!!!!!」
ドンッとまるで空気が破裂したかのような豪速で飛んでくるミヤビコ。
そのままの勢いで繰り出されるかかと落としを、咄嗟に鎌で防ぐも、勢いは殺しきれずにそのまま地面へと垂直落下し、轟音と巨大な土煙が舞う。
ミヤビコはリリシアを叩き落とし、その反動で少し浮いた後、空中に留まるように足場を作ってしゃがんだようなポーズで地面を眺める
「あら、舐めた口を叩く割にその程度なのかしら?」
その言葉に反応したのか、土煙を鎌と翼でで振り払うリリシア。
「チィッ!なんであんな化け物が強いのよ!これが悪魔の力だっていうの?許せない!許せない許せない許せないッッッッッ!!!!くたばれ化け物!!!【断頭】アイテール!!!!!」
鎌を斜め下後ろに構え、鎌に輝かしい魔力を迸らせたと同時に、そのまま振り上げ光の斬撃を飛ばした。
「フンッ!そんな遠距離攻撃、当たらなければいいのよ!!!!!【四天轟流】参ノ手・朱転鳳凰!!!」
ミヤビコは先程同様、空中の足場からリリシアに向かって飛び降りる。
それと同時に技を行使し、その姿を燃え盛る紅蓮の鳳凰に変えた。
「んな!?焼き魚!!!?」
「だァレが焼き魚じゃくたばれやあああああああああああぁぁぁ!!!!!!!」
ドスの効いた声でそのままリリシアへと突っ込み、直後爆発した。
先程の土煙より大きな爆発。
「あ、あの、私の残り2点って、何が足りないんですか?」
「お、気になるか?まぁたぶん一生埋められねぇ奴だぜ」
目の前の戦闘を気の抜けた表情で眺めながら、カミアと呼ばれた少女とレドはのんびり会話していた。
「足りねぇのは範囲だ。だがあの威力を維持するにはあの大きさが限界なんだろう。無理して大きくしても、今度は威力が下がるだけだ。魔力量を伸ばせば範囲は拡げられるが、体内魔力量を上げるには時間かかるからな。お前さんの技はあのままでいいと思うぜ。あのレベルでもそこらの神じゃ防げねぇだろうしな」
「そうかも、です。上の神様には絶対に自分に撃たないでねって言ってたから、たぶん…」
「お前さんは自慢していいぜ。俺様に穴開けれたんだからな」
「…あ、あの、貴方は本当に悪魔なんですかね…?それとも…もしかして異界の神様だったり…」
穴を開けていた胴体は、いつの間にか何事も無かったかのように塞がっている。
「うーん…、まぁ異界の神に近いっちゃ近いか?あー、あれだ、TRPGの神話の神に近いな」
そう言われると、確かに底知れぬ言い表せない異質を感じる。
胴体どころか貫通していた家も、気づいた時には何事も無かったように修復されているが、なんの力の動きも感じなかった。
それはつまり、私には認識出来ない何かの力が働いたという事だ。
現実の改変か、事象の上書きか…、ともかくそうした隔絶した力をこの存在は持ち合わせているという事である。
つまり…、ごめんなさいをした方がいい。
「…えっと、えー、先程は失礼しました。その、悪魔であれば問答無用で殺すのが私達の仕事でして…」
カミアは申し訳なさそうに腰を曲げて謝る。
「ああ、そこまで気にしなくていいぜ。俺様は神より寛容だからな」
「それは…、ありがとうございます。今後は勘違いしないよう、他の仲間や神様にも周知しておきます」
「おお、そりゃ助かる。わざわざ出向いて挨拶するのも面倒だから放置してたんだよな」
「もし何か困り事があれば、私にご連絡ください。微力ながら、手助け致します」
「ん?いやぁいらねぇぜ?さっきのお詫びだろうが、俺様が困る事なんてあんまねぇからな。基本なんでもできるし」
「そうですか…」
そうして会話が一段落した辺りで黒煙が晴れると、そこには手刀で魚マッチョの心臓部あたりを串刺しにしているリリシアが立っていた。
ズボッと血の滴る腕を引き抜くと、ミヤビコはそのまま倒れた。
「カミア様!魚の化け物は倒しました!次はそこの悪魔を2人がかりで仕留めましょう!!!」
真面目な顔で駆け寄るリリシアに、カミアはジト目で迎える。
「リリシアさん…、あの、そこに倒れてるのがどういう存在か分かりますか?」
「え?悪魔による人体実験により産まれた化け物…ですかね?それか…悪魔の作った眷属かなにかでしょうか?」
カミアはため息をつきながら答える。
「はぁ…、妖精です」
「よう…せい…?あの魚の化け物が…?」
「もしかして、妖精のこと小さい羽の生えた人型のものしかいないと思ってますか…?」
「え…?もしかして違うんですか!?でも本にはどれも羽の生えた人型の小さい子しか描かれてなかったですし…」
「その偏見は直した方がいいですね。妖精は元々色んな種類がいるんです。決して人型のタイプだけが妖精とは限らないんですよ」
「そんなっ!?じゃあ今私が殺したのは…」
「まぁそもそも死んでないですよ。最初見た時の見た目覚えてますか…?本体は魚の方ですよ…。あの血のような体液だけで刺し殺したと判断するのは甘いです。恐らくあれは水魔法で作った赤いだけの水です。皮はどういう魔法で作ったかは知りませんが、上の頭みたいにくっついてる魚の方を攻撃しないと意味が無いと思います」
カミアの解説に愕然として後ろを振り返ると、リリシアの後ろには血塗れのマグロが顔面数cmのところに居た。
「ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
ステーン!と大袈裟に転び、頭を強打して悶絶するリリシア。
「こいつギャグ要因で採用してんのか?」
レドが地面に転がるリリシアを指さして聞き、カミアはため息を零しながら返答する。
「戦闘能力はかなり高いのですが、思い込みが激しく、短慮で浅はかで差別意識が強い…、…一応成績はよかったので、頭のいい馬鹿です」
「うぅ、カミア様、褒められるのはいいのですが、せめて敵の詳細はもっと早く教えて欲しいです…」
ふらふらとしながらも鎌を支えにして立ち上がるリリシア。
「全然褒めてないです…。反省してその思慮浅さを改善して欲しいです…」
「褒めてなかったんですか!?」
「ギャグ要因じゃねぇか」
「スキありぃ!!!!」
レドが両手を腰に当てると、リリシアは突然持っていた鎌をレドの首筋に思い切り振る。
そしてバキィン!と鎌が崩壊して砕け散った。
「んなぁッッッ!!!???」
「学習もしねぇなコイツ…。こいつ昼間も俺様に鎌当てて粉々に砕け散ったんだぜ?」
カミアは話も聞かず学習もせずに攻撃するリリシアに、かける言葉も見当たらず顔を抑えた。
「私よりこっちの方が化け物に近いじゃない」
ミヤビコが素直な感想を漏らす。
「うぅん。見た目はキモっちが圧勝なんだけどなぁ…」
傍から見れば血まみれのマグロ頭マッチョの方が化け物ではある。
「誰がキモっちじゃ!!!まったく…。で、どうするのよあんた達。用件はなんだったの?」
ひと段落ついたと感じ、ミヤビコは改めてカミアの方に聞いた。
「目的はリリシアの情報による悪魔の討滅でしたが、リリシアの勘違いだったことが判明したので1度帰ります。今回のお詫びは、また改めてしようと思います。何かあれば、こちらのメールへお問い合わせください」
そう言ってカミアは名刺のようなものを差し出してきた。
それを丁寧に両手で受け取るレド。
「まぁそんな気にせずにな。俺様緩い感じだから、そんな気負わなくていいぜ」
「ありがとうございます。それはそれとしてリリシアさんはとりあえずこの場で土下座してください」
「え!?悪魔相手に土下座を!?」
「…」
カミアは無言で右手にデザートイーグルのような拳銃を顕現させ、リリシアの足元に向ける。
「そこです、早く座って下さい…。3、2…」
「すみませんでしたああああああああぁぁぁ!!!!!」
リリシアは速攻で土下座した。
「これ、私も勘違いしてたし、謝った方がいいかしら」
「キモっちも気にしなくていいぜ。見た目にこだわってるのは俺様だからな」
「そう…謝ろうと思ったけどやっぱりやめとくわね」
「それでは私達はこれでお暇させて頂きます。改めて、リリシアさんが失礼しました。ほら、立ってくださいリリシアさん。行きますよ」
「はい!」
リリシアはすぐに立ち上がり、何事も無かったようにカミアへついて行った。
「反省してなさそうな感じね。アレだとまた他のとこでも勘違いしてそうだわ」
「顔だけはいいのにな…。残念美人ってやつだな」
「ふー…さて、私はどうしようかしら。このままさくらちゃんを探しに出とこうかしら」
「だからそれはさくらちゃんが可哀想だって言ってるだろ」
「だから可哀想ってなによ!!!じゃあ私はどうすればいいのよ!!そもそもあの子になにかあってからじゃ遅いのよ!?」
「まぁその時は俺様がどうにかしてやろう」
「どうにかするって…、死んだらどうするのよ」
「時を戻して、その事実を変えてやるとかかな」
「時を戻すって…、意味わかんないんだけど…、いや、意味は分かるわ…、そんな事本当にできるの?」
「最強だからな」
「説明になってないんだけど…」
「じゃあ簡単に分かりやすくしてやろう」
そう言ってレドは指を鳴らした。
パチンッ
ーーーーー
「【四天轟流】参ノ手・朱転鳳凰!!!」
ミヤビコは先程同様、空中の足場からリリシアに向かって飛び降りる。
それと同時に技を行使し、その姿を燃え盛る紅蓮の鳳凰に変えた。
「んな!?焼き魚!!!?」
「誰が焼き魚…ッ!!!?」
え!?なに!?これってさっきの私達が戦ってた最中の…!!!
この後私はこいつのへんな盾魔法で、爆発の反動を全部私にカウンターして、怯んだ隙に手刀で私の心臓部を一突き。
ダミーの肉体で死にはしなかったけど、あれが本体だったら致命傷を受けてた…。
ならこの後は、あの盾が出る直前に軌道修正して!
(【天盾】イージス!)
想定通りリリシアは盾のような魔法を構える。
だがミヤビコは真横の地面に着弾し、爆発した。
突然の横からの爆風は防げまい!
「んなぁ!?」
盾を真横に素通りしたと思ったら、思わぬ横からの爆風により吹き飛ぶリリシア。
こいつは見た目よりも頑丈、ならば、多少は本気で殴っても壊れない!
それにこいつ私を殺すつもりで攻撃してたんだから、ちょっと本気で殴ってあげるわ!!!!!
「【四天轟流】肆ノ手・白虎百拳!!!」
吹き飛ぶリリシアに肉薄し、壁にたたきつけられたと同時に思いっきり固く握った拳を叩き込みまくる。
合計で100発。
主に顔面を集中狙いしてボコボコにした。
「はぁはぁ…」
結構思いっきり殴ったが、やはり潰れはしなかった。
かなり頑丈である。
まぁだいぶボコボコな顔面にはなったが。
「やりますね、あのリリシアを相手にここまでボコボコにできるなんて…」
「まぁ1度見たからな」
「?それはどういう…?」
カミアの問いには応えず、ミヤビコへと近づくレド。
「よぉ、どうだったよ。分かりやすいだろ?」
「わかりやすい…、っていうか、なんでもありなのねアンタ…」
「最強だからな」
「はぁ〜、もういいわ。わかったわよ、しばらくはあんたのところでお世話になるわ。それはそれとして、さくらちゃんに挨拶はしときたいわね…」
「まぁまた会う機会はあるだろうから、その時に挨拶すりゃあいいだろう」
「はぁ~」
その後、カミアが2人に近寄ってまた謝り、名刺を渡した後リリシアを担いでどこかへ飛んでいってしまった。
「ていうかあいつらはなんだったのよ…」
「うーん、まぁ天使の…職業悪魔ハンターみたいなやつかね」
「天使ねぇ…。まぁあの羽とか輪っかからしてそうかもだとは思ったけど、天使ってもっと神聖なものかと思ってたわ…」
「まぁ個々人の差はあるだろうよ。生き物なんだし」
「まぁ、そう言われたらそうかも…」
「とりあえず俺様は戻って飯食うぜ。ハナっちはおかわりいるか?」
「…………はぁ、美味しかったし、もう一杯くらい頂こうかしら」
なにか言ってやろうと思ったが、言うだけ無駄な気がしたので辞めた。
この後マッチョ姿のミヤビコが突然リビングに現れたことにより、リィラは大爆笑した。
姿だけ見ればレドの色違いに見えなくもないので、そこがツボに入ったらしい。




