38.訪問者
ピンポ〜ンという、誰かが訪問したチャイムが山田家に鳴り響く。
「あら、こんな時間に客人?人間界では珍しくないのかしら」
只今の時間は20時30分。
料理も作り終わり、ハルが帰ってくる前に2人と1匹で先に食事を初めていた。
ハルが帰ってもおかしくない時間であるが、もしハルが帰ってくるならば、チャイムを鳴らす必要は無い。
ハルではない可能性が高いが、もし鍵を無くしたのであれば鳴らすのにも納得する。
まぁとはいえ誰が鳴らしたかは分からない。
リィラは気にせずにあむあむと子供のように夢中でビーフシチューを食べていた。
ちなみに髪型は未だにパフェのように盛られている。
「とりあえず俺様が出るぜ」
そう言ってレドが玄関まで向かう。
一応インターホンにカメラが付いているので、リビングでも確認はできるのだが、特に忙しい訳でもないのでとりあえず玄関へと直接向かった。
「はいはいどちら様で〜」
明らかに悪魔っぽい見た目のまま玄関をでるが、認識阻害の魔法で特に違和感を感じないようにする特殊な魔法で周りを覆っているので問題は無い。
まぁそれを看破できるものが見れば関係ないのだが…。
玄関の前に居たのは、一見眠そうにも見えるジト目の小柄なツインテール少女だった。
亜麻色の髪に、どこかで見たようなぶかぶかの薄茶色いロングコートを身につけている。
そして後ろには同伴者もいるようで、それは肩辺りまで伸びた金髪をハーフアップにした髪型のお姉さんだった。
同じ薄茶色のロングコートを着ており、雑誌の表紙でも飾れそうなほど整った顔をしている。
そう、昼間に会った女性である。
そういやこんなやつもいたなと思い出す。
「あ、あの、貴方がリリシアさんの言っていた悪魔さんで合ってますか?」
あどけない口調で質問する少女。
後ろでは鋭い眼光でこちらを睨んでくるお姉さんが居る。
リリシアというのはそのお姉さんの事だろうかと思案するが、とりあえず返答を返す。
「おう!俺様が最強無敵の大悪魔!レド様だぜ!」
腰に手を当て鷹揚に頷くレド。
「なるほど…、天使の前で宣言するということは、本当に悪魔さんなんですかね?とりあえず殺してあげますね」
可愛く小首を傾げそう言った少女は、何も無い空中から突然、その身長にも劣らない程の大きさのごついスナイパーライフルを顕現させた。
ガチャっと手に持つと、それを躊躇いなく撃ち放つ。
「【弾劾】アイテール」
ドガンッッッッというけたたましい爆音が響く。
撃ち放たれた弾丸はレドの腹部に命中し、拳ほどの大穴を開け、そのまままっすぐ家の奥まで貫通していった。
ーーーーー
一方家の中で待機していたミヤビコは心配をしていた。
「今すごい音したわね…。大丈夫かし……、貴方、髪に穴空いてるわよ」
玄関の方へ心配げに眺めていたミヤビコだが、リィラの方を見てびっくりする。
ボリュームたっぷりであったパフェのような髪型に、大穴が穿たれていたのである。
「ん?なんだ?おかわりなら私のじゃなくて鍋から取れよな!」
ジト目でミヤビコを見るリィラだが、違う、そんなどうでもいい話ではない。
「いや別にわざわざあんたのを取らないわよ!それより頭!頭大丈夫なの!?」
「なに!?馬鹿にしてるのか!?私は別に頭悪くないぞ!!」
「カァッー!!!違うわよ!!!もういいわッ!アンタは可愛く飯でも食ってなさい!!」
すっくと立ち上がり、机から床へ着地するミヤビコ。
「え!?可愛い?なんだよ急に褒めるなよ、照れるな」
てれてれと頬をかく。
「褒めとらんわ!!!あーもう!私が行くから、あんたは待ってなさい!」
「ん?気をつけてなー」
わかっているのかいないのか、判断に困る返事をされるも、ミヤビコはとりあえず玄関へと向かった。
ーーーーー
「おお〜、俺様に風穴開けるとかやるなぁ〜。油断してたとはいえ穴まであいたのは何千億年ぶりだぜ。消滅弾に近いか?少なくとも後ろの姉ちゃんが撃ってた奴とは練度が違ぇな。相当な修練の賜物って感じだ、頑張ってんな嬢ちゃん!褒めてやるぜ!」
そう言って目の前のぼうっとしている少女に手を乗っけて、優しく撫でる。
まるで物心ついた時に親に撫でてもらったような、とても心落ち着く優しい手つきだった。
「き、貴様あああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!???!???!??!!!!!?!!!!!カミア様になにをしている!!!!!!ぶっ殺すぞ!!!!!!!!!!!!」
「うんだようるせぇなぁ、お前さんはもうちっと頑張れよ。練度がこの子の足元にも及んでねぇ…程でもねぇが、この子の練度が98点ぐらいで、お前さんのは60点ぐらいだぜ。凡夫レベルだぞ今のまんまじゃ」
「グキキキキィ!!!私ですら天使学校では首席だったんです!!!!!!!お前のような悪魔に何がわかるんですか!!!!!アイテールは使えるだけでもとても凄い事なんですよ!!!!!そもそも広範囲殲滅魔法であるアイテールを数十メートル規模に収めるのも大変な習熟が必要なんです!!!」
「でもこの子は弾丸レベルにまで圧縮させてたぜ?俺様を貫通出来るなんて普通の神ですら無理なんだ。それを貫通させられるとか、この子は天才だぜ?しかもアレをただ圧縮させただけじゃあ貫通できねぇだろうし、形や効果も微妙に変化させてたな。素晴らしい練度だ」
「分かってますよ!!!カミア様は第7天使部隊隊長であり、戦闘力では天使族の中でも最上位なんです!!!私なんて比べるべくもないです………、ていうかいつまで撫でてんですかこのクソ悪魔!!!いい加減その汚らしい腕をどけろぉぉおおおおお!!!!!!」
そう言って未だに撫で続けていたレドの手を、レドの肩に乗りかかり、プロレス技のように足を絡めて、腕を無理やり離そうとするが、レドの腕はビクともしない。
腕に多大な負荷がかかっているように見えるが、それでもカミアを撫でる手つきはとても繊細で優しかった。
「あんた達一体何やってんのよ…。そこの人達は誰なの?私みたいな客人なの?」
いつの間にか後ろには、小さい魚の妖精【花道雅子】が玄関から呆れたような顔を出していた。
「な、なんですかあの不気味な化け物…!?まさか人体実験で生み出した悪魔の眷属…!!?クソッ!この外道悪魔め!!命を奪うことに飽き足らず、命を冒涜するかのような醜い化け物まで生み出すなんて…!!!!許せません!!!カミア様!!!!!私がこの悪魔を押さえつけている間にとびっきりのアイテールをお見舞してください!!!!!私は大丈夫です!!!!!こんなクソッタレを道連れにできるなら本望!!!!!消え去れこのクソ悪バフォォオオオ!?????」
喚き散らしている最中に、ミヤビコからの紅蓮のキックが顔面にお見舞され、リリシアはきりもみ回転しながら路上のコンクリート壁にドゴシャアァンッとめり込む。
「さすがの私もちょっとイライラゲージ溜まり過ぎちゃったわ………。すぅ〜…かかってこいやこのブス女ガァ!!!!!私をコケにしたこと後悔させてヤルァアアアアアアアア!!!!!!」
いつの間にか魚頭でゴリゴリマッチョのブーメランパンツ一丁な変態化け物が、身体から蒸気を発生させながら構えていた。
「こ、この化け物ガァ!!!!!私が直々に浄化してやるッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
リリシアは天使の光輪と純白の翼をはためかせ、その美しい姿には似つかわしくない死神の持つような巨大な黒い鎌を顕現させ、魚の化け物と相対した。




