19.ヒーロー
投げつけられた鋭い巨大な棘。
魔法少女は為す術もなく貫かれる。
そんな幻想が見えた瞬間、魔法少女の影から小さな白い毛玉が一つ飛び出る。
毛玉はタイミング良く棘にぶつかり、棘の軌道をずらした。
軌道がズレた棘は、魔法少女の顔スレスレを横切ると、後ろの家屋へと突き刺さった。
「大丈夫か!?さくら!!」
「だ、大丈夫。ありがとうやんちー…」
飛び出てきたのは一匹の小さいうさぎだった。
耳の先が薄い黄緑をしており、ピンク色の小さい丸い目をキリッとしている。
声は男前であり、声だけ聞けばどこぞのヤンキーのような迫力がある。
「お前はさっさと逃げろ!こいつは俺が何とか足止めする!」
「で、でも!やんちーはどうするの!?私が逃げれても、やんちーが…!!」
「俺は………」
やんちーと呼ばれたうさぎは、さくらの言葉に口籠もる。
「おいおい、俺がそんなちいせぇうさぎに止められると思ってんのか?」
棘の怪人が見下すように反論する。
「俺を甘く見たら痛い目見るぜ?言っとくが俺だって妖精界じゃ結構上だったんだ。こいつが逃げれるぐらいは稼ぐ!」
「や、やんちー」
「早く行け!本当に殺されるぞ!!」
「ッ!!ご、ごめんっ!…絶対生きて戻ってきてね!」
さくらは涙を浮かべながら、よろよろとなんとか立ち上がり、壁伝いに走っていく。
「逃がさねぇって…、言ってんだろ!!!」
棘の怪人はもう一度背中から棘を抜き、さくらへと勢いよく投げつける。
だがそれもやんちーが高速で体当たりし、横の壁へと軌道をずらした。
「逃がすっつってんだろうが!!!」
やんちーも怪人と負けず劣らずの気迫で叫ぶ。
「最初から全力で行くぞ!!煉獄【怒羅魂】!!!」
白いうさぎは身体を丸めると、高速で円を描くように回転しだす。
すると段々と炎が巻き上がっていき、その炎はやがて姿を変え、赤き炎の竜へと変化した。
炎竜は怪人へと突撃し、怪人は避ける間もなくぶつかり、コンクリートの壁へと激突する。
凄まじい衝撃音と共に、土煙が充満する。
少しして土煙から1匹の毛玉が飛び出し、離れた位置に着地して様子を見る。
土煙が晴れると、怪人は首をゴキゴキと鳴らすように動かして、何事も無かったかのようにやんちーを見下ろしていた。
「ふん、ちいせぇ癖に結構やるじゃねぇか。まぁ俺を相手にできるほどじゃあねぇな」
「ぐっ、ダメか…」
怪人は再び2本の棘棒を背中から両手で一本づつ掴み取り、構える。
「さっさと殺してあいつも殺す。獲物は1匹も逃がさねぇ」
怪人が凄まじい速度でやんちーへと飛びかかる。
やんちーへと振りかぶって地面へと叩きつけた棘棒は、鉄パイプ以上の強度なのか、地面を大きく抉ってなお折れ曲がる様子がない。
やんちーは大きく跳ねて何とか回避した。
「空中じゃあ避けらんねぇぞ!!!」
もう片方の棘棒でやんちーを強襲する。
だがやんちーはまだ諦めてはいなかった。
「旋風【喰黎風音】!!!」
空中で凄まじい勢いで回転したやんちー。
やんちーの周囲は一瞬で円形のブレードのようになり、棘棒を切断した。
「なにっ!?」
地面に着地したやんちーは、すぐさま怪人へと体当たりし叫ぶ。
「まだまだァ!!!雷激【威ン怒羅】」
バチバチバチと激しい電撃が怪人を襲う。
「う、ぐ、お、オォッ!!!まだ、まだァッッ!!!」
バチンッ!と怪人はやんちーを押し返す。
「ぐっ、これでもダメか…」
「はぁ、はぁ、結構効いたぜ…。ふぅ、…じゃあ、もう本気出して良いよな?」
「なっ…」
気が付くと目の前から怪人外無くなっていた。
「ど、どこ行きやがった!?」
風の音が静かな夜道に鳴る。
まるで誰も居なくなったかのような気配。
「まさかっ!?」
やんちーは向きを変え、急いでさくらの元へ行こうとした。
が、振り返った時には既に怪人がゆっくりとこちらへ歩いてくるところだった。
さくらの首を掴んで。
「あっ、かはっ…」
声も出すことが出来ず、苦しそうに首を閉める左手を剥がそうとするさくらの。
「やめろっ!!さくらはまだ子供なんだぞっ!!!!」
「知るかよ。殺すのに子供も大人も関係ねぇ。俺はただ、命を壊してぇだけなんだからよ」
更にギュッと力を込める怪人。
「ッ…!!!!」
呻き声も上がらず、身体がビクンと跳ね上がる。
ニヤニヤと口を歪めながら、ゆっくりと首を絞めていく。
「やめろぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
やんちーが突撃しようとするが、怪人が手に力を込める方が早い。
怪人はやんちーが突撃する瞬間に力を込め…。
ガキンッ!
「グァッ!!?」
ようとした瞬間、後頭部に凄まじい衝撃が走った。
思わず手元を緩めてしまい、少女を落としてしまう。
既に突進していたやんちーは、距離を離す為に怪人を蹴り飛ばし、すかさず空中で回転しながら魔法を唱える。
「うぉぉぉぉぉ!!氷迴【離波威亜】!!」
今度は薄い水色で回転したやんちーは、氷の礫をいくつも怪人へと飛ばした。
ガガガガとマシンガンのように、連続で凄まじい勢いの礫がいくつも怪人に飛翔する。
怪人は着地と同時に左肩から左手で棘棒を引き抜き、既に右手に持った棘棒と2つで全ての礫を弾く。
(クソッ、さっきの衝撃はなんだったんだ…。後方から飛んできてたよな…)
先程の蹴りと氷の礫攻撃で、数mほど距離を取られた怪人は、攻撃が止んだのち後ろを振り返る。
バイクが怪人の真後ろまで走って来ていた。
「!?」
氷の礫の衝撃音で気づかなかった。
怪人は咄嗟に上にジャンプして、突撃してきたバイクを躱す。
小さいうさぎと魔法少女の前までスライディングする様にバイクを止めると、ゆっくりと降りて怪人を眺める。
そこに居たのは、一人の男性だった。
年齢は30ぐらいだろうか、短く雑に切りそろえた髪型で、茶色でよれよれの長めなコートを着たガタイの良い男。
「大丈夫か、嬢ちゃん…と、うさぎ…?」
怪人への警戒は怠らないように、少しだけ後ろへを振り返って、少女達を心配する。
「あ、貴方は…?」
「誰だお前は…」
ぺたんと地面に座り込んだ少女と、目の前の怪人が目を細めて質問する。
「俺は藤原晶。…コードネームは【Breaker】」
アキラはコートの内側に掛けていたベルトをガシャンと腰に巻き付けて、呟く。
「【変身】」
『program code confirmation』
ベルトから機械音声のような男性の声が流れると、アキラの身体が突然発光する。
誰もが思わず目を瞑り、光が収まった時には、アキラの姿は変わっていた。
ベルトには赤い【A】の文字。
所々に赤い装甲を着けた、スーツの男がそこに立っていた。
続けて呟く。
「【プログラムコード・スリー】」
『confirmation』
機械音声が反応すると、左腰には赤と黒のデザインの刀が、右腰には赤と黒のデザインの銃が、輝きと共に現れる。
そして右手で刀を、左手で銃を引き抜き、刀は肩に乗せ、銃を怪人に向けて構える。
「…まぁ、世間一般で言ういわゆる、…【ヒーロー】って奴だ」




