15.吸血鬼の家族
大きな洋風の屋敷の中、大人数で囲めるリビングテーブルがある大広間。
その部屋で2人の男女が会話していた。
1人は艶めかしい濃い紅色の髪にウェーブをかけた、黒いドレスの女性。
女性の名はミレイナ、サキュバスである。
ただ基本は人間に擬態しており、よくあるサキュバスのようには見えず、ただの美しい人間にしか見えない。
そしてもう1人は…。
「おい、ミレイナ!悪魔が居たぞ!悪魔!」
小柄な体格の少年、吸血鬼の山本翔太である。
帰って来て早々、リビングに居たミレイナに、嬉々として話す翔太。
「なによ、悪魔なんてみんな作ってるじゃない」
ここで言う【みんな】とは、この屋敷の家族限定の話。
彼らはリッチであるお父様より、悪魔の兵士を作り出す魔法を教えられ、全員が習得している。
「違う!野良に居たんだよ!しかもアイツ、自我があってかなり強いんだ!アロハシャツも着てた!」
「そのアロハシャツの情報いる?」
「いやいらないが…。いやアロハシャツはどうでもいいんだ!とにかくそいつが強くて、しかもそいつ以外にもヤバいやつらが居たんだよ!!」
「お〜い、マフィン焼けたぞ〜」
そう言って出てきたのは、お盆に数個のマフィンを乗せて運んできた金髪のイケメン。
若干顔色が悪いが、ゾンビなのでいつも通りの顔色である。
「やった〜!マッフィン〜」
そう言って幾つかのマフィンが乗ったお盆から、マフィンを取るミレイナ。
「カルク!聞いてくれ!悪魔居たんだ!!」
無邪気な少年のように話しかける翔太。
身長の差も50cm程あるため、翔太の少年っぽさが際立つが、翔太の実年齢は1001歳で、お父様と呼ばれるリッチに次いで1番年齢が高い。
「へ〜。はい、翔太の分ね」
「おぉ、ありがと。じゃなくて!てか1個でっかいな」
カルクと言われた青年が持つお盆の上には、一つだけ周りの3倍程の大きさのマフィンが乗っていた。
「…私の分」
カルクの後ろから、のっそりと巨大な影が現れる。
よく見るとそれは白い服を着た女性であり、身長がかなり高い。
身長だけでなく胸も大きく、頭の上には白い帽子をかぶっており、その帽子の大きいつばで影が出来ているだけであった。
その女性は、一際大きいマフィンを取ると、席に座って食べ始める。
「カレン、家でくらい帽子は外そうね」
「あっ…」
そう言ってカルクはカレンの帽子を取る。
帽子を取ると、カレンの可愛らしい顔が良く見えた。
「そうよ〜。あんた可愛い顔してるんだから、帽子はとった方がいいわよ〜?」
「うぅ〜…」
だがカレンは恥ずかしいのかすぐに俯いて、長い前髪がカレンの顔を覆い尽くす。
「…あとすぐ俯く癖もやめた方がいいわね。完全にホラー映画見てる気分になるから…」
スタイルも良く、顔も可愛いのだが、いかんせん服装や髪型で、俯くだけでホラー映画の代名詞のような見た目になってしまう。
翔太はそういうのが苦手なのか、カレンの方を見ないようにしていた。
決してカレンが嫌いという訳では無い。
「あ、カレンも聞いてくれ!今日アロハシャツを着た悪魔を見たんだ!」
そう言って思い出したかのように、カレンへ話しかける翔太。
「…………え?…それってもしかして、レド様?」
きょとんとした顔でカレンは言った。
「そうそう!レドって名前で…、…ん?なんで名前知ってるんだ?」
「え?それは…、その…、私の推し…だから…?」
「推し…?もしかしてカレンの召喚した悪魔なのか?」
「え?いや…、私の…最近の推しだけど…」
「ん???何を言ってるんだ???」
「えぇっと、うーん、ちょっと待ってね…」
カレンはポケットからスマホを取り出し、何やら操作を始める。
「この人…?」
しばらくして、カレンがスマホを翔太の前辺りに置く。
差し出されたスマホを、翔太の斜め上からミレイナとカルクも覗き見る。
『それじゃあ今日のレド様チャンネルは、結構多めに要望があった、添削ってのをやっていこうと思うぜ!今回添削していくのは、カレンちゃんの作品で…』
動画に映っていたのは、アロハシャツでは無く、ピッチリとしたスーツを着込んだあの悪魔だった。
そんな悪魔が無駄に教師のように、イラストの添削をしていたのである。
というか添削している作品がカレンがよく描いていた油絵の絵画である。
絵はよく知らないのだが、カレンの絵の上から遠慮なく色を追加していっている。
いいのかアレ。
だがそんな不安を抱えているうちに添削は終わり、何やら細かい説明をしていた。
確かにさらに絵に立体感が出たような雰囲気は感じる。
「絵上手いわねこの悪魔」
「凄いねぇ」
ミレイナがそう呟き、カルクも呟く。
「あ、そう!こいつ!こいつがいたんだよ!」
「そ、そうなの?…サインとか貰った?」
「え?いや、貰ってないが…」
サインを貰うどころか、実は殺そうとしてしまったとは、口が裂けても言えなかった。
むしろ身内がお世話になっているとは、夢にも思わない。
正直あのレベルの強さの悪魔が野良で暴れていると思って、世間が迷惑する前に奴隷にするか駆除しようと思ったのだが、殺す前に知れて良かった。
まぁ正直勝てるイメージはもう湧かないが。
「あ、でもそいつとラウィン交換したな…そういえば…」
「えぇ!?」
滅多に出さないカレンの大声に、3人ともビックリした。
「わ、すご、え、いいな、わ、私も会ってみたいな…」
「ああ、えと、あ〜、連絡してみようか…?」
「……ッ〜!!うん!!!」
3人とも、ここまで生き生きとしたカレンの表情は、数百年共に暮らしていて初めて見た。




