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スパダリが来ても、田舎のOL、東京に行き女社長にならない

作者: 山田 勝

 会社が終わり退勤しようとしたら、女専務、明美さんが声をかけてきた。


「佐藤さぁ~ん。私の彼ピッピ紹介してあげるから時間空けなさい~」

「いえ、大丈夫です」

「と~ても親切なのよ。彼ピッピの友達紹介してあげるから」

「結構です・・これから農作業をしなければならないのです」



 最近、彼氏が出来て自慢をしたいらしい。

 専務と言ってもアラサー、典型的な田舎の同族会社だ。30人の会社で役員が5人いる。明美さんは会長の孫で社長の娘さんだ。


「ほら、もう、迎えに来てくれているわ」


「チィース、アランフォード買ったよー」


 大きなSUV車を会社に乗り付けて来た男は、何かホストの出来損ないのような感じだ。

 正直苦手だ。


「佐藤さぁ~ん。貴方、東京出身でしょう。先輩や上司に絶対服従、これが田舎ここのルールなのよ」



 私は高校進学を機に、両親と別れ、母方のお爺ちゃんとお婆ちゃんの家に引き取られた。


 父は南国に移住を決め会社を辞めた。反対する母は何とか私を両親に預けると父を説得した。


 知らない土地で農業をやったこともないのに失敗するに決まっている。

 最近は、農業ローンの返済が滞り気味だと聞いた。


 私は高卒新卒でこの権河原運送に就職したのだ。二年目である。



「いえ、本当に今日、農作業を手伝う約束をしています・・・困ります」


「ウィッス、車乗りなよ。ローン終わったらディーラーに返さなければならないから禁煙な」


 タバコ吸わんわ。残価設定型のローンか。お金を貯めて買えば良いのに・・・



 その時、私を呼ぶ声が聞こえた。会社前まで私を迎えに来た男が登場したのだ。

 エンジン音が響く。



 ブロブロブロ~


「ミチコォ~、お待たせ!」


 彼はスパダリだ。近世ヨーロッパの貴族のような服を着て耕運機に乗っている。

 私は目を見開く。彼は免許持っていないはずだ。



「ちょ、ちょっと、スパダリさん。免許ないでしょう!」


 耕運機でも公道を走るときは小型特殊が必要なのだ。


「え、スパダリに免許はいらないけど」


「おりなさい。私が運転するわ」


 本気で理解出来ていないスパダリを降ろし。通勤用の自転車を荷台に積み。

 スパダリは歩かせた。

 二人乗り用のトラクターではないからだ。


「ミチコがそういうのなら、そうするよ」


 何故か上機嫌だ。


 呆気にとられる明美さんとその彼氏を尻目に家に帰った。


「では、申訳ありません。今日はこれで帰ります」


 明美さんは口を開いている。

 残酷だ。如何に良い車に乗っていても、見た目で圧倒出来る。

 本物の金髪のイケメンには、高級車もかなわないのか?



 そう、我家にはスパダリがいるのだ。

 うっかりすると、溺愛されるから厄介だ。

 帰る途中、スパダリは訳の分からないことを言う。



「やあ、ミチコ、この世界はゲームなのだ」

「はあ、そうですか・・」


 金髪をなびかせ。青い目でジィと見つめて変な事を言う。


「この世界は魔法のない遅れた世界だ。君は私と一緒にチートでこの国の女首相になるのだ」


「あ~、はい、はい」


 彼はいつの間にか、離れに住み着いた。お爺ちゃんとお婆ちゃんも受け入れている。


「ミチコ、これがフラグだ」

「スパダリさんも早く国に帰りなさい」

「フウ、両親に紹介して欲しいと?気が早いな」

「あのね。本気で怒るよ」



 それから私には彼氏がいる噂がたった。

 外国人と付き合っているとの噂だ。


 どーでも良いわ。


 しかし、どーでも良くなかった。


 明美さんがスパダリに触発されたかのように新事業を立ち上げた。


 一月後ぐらいに、大型トラクターが五台会社に届いた。


「新事業を発表しまぁ~す。援農を始めます。佐藤さぁ~んに担当してもらいます。これは業務命令です。断れませんよー。スパダリさんも呼びなさい」



 あれから彼氏さんと仲が悪いらしい。

 どうやらスパダリさんと近づきたいみたいだ。


 しかし。


「あの専務、私は大型特殊ありません。この地は稲作なので、そのトラクターは適しませんよ・・・」


「はあ?何を言っているの!」

「ほとんどの農家は仲間内で助け合っています」



 ビジネスの世界は、ド素人が思いつきで初めても稀に成功することがある。


 テレビで猿回し芸を見て、すぐにペットショップに猿を注文し、一斉を風靡するエンターテインメントまで育てた人がいたな。


 しかし、専門家が入念に準備しても失敗するときは失敗する。


 この場合、ド素人の思いつきの失敗だ。


 悪い事は重なるもので、明美さんと仲の悪い弟も新事業を立ち上げようと、大きな入浴も出来る介護用のバスを買ってしまった。

 納品の日が重なったのだ。


「信士、明美、何をやっているか!」


「パパ!ごめんなさい。でも、大丈夫よ。運転手にやらせるわ。大型特殊取らせるわ」

「お父さん。大丈夫だよ。大型の免許持っている人がいるから」



 この社長も悪い。午後の4時に出社して、電気代が高いとか帳簿をみて文句を言うくらいだ。


 かくして、私の務めていた会社は倒産をした。

 二人とも現金で購入し、資産が枯渇したからだ。

 それでも何とか回せるが・・・



 更に、従業員に何の相談も無しに

 それぞれ、給料引き下げのお知らせ。ボーナス無しの回報を作り掲示板にはりやがった。


 姉は弟の悪口を、弟は姉の悪口を書く始末だ。

 これに我社の主力の液体窒素運送の担当者たちは辞めていく決断をした。


「バスの運転手になるわ」

「うん。固定給が安かったからな・・・他業種に行く」

「俺は同業に行くわ。コネあるんだわ」



 こうして、会社はまわらなくなり。倒産が決定した。スパダリさんが明美さんの前に現れたことが原因か?フラグってこう言う事なのかは分からない。スパダリはきっかけに過ぎない。

 我社の構造的な問題が出たのだ。


 債権者集会も開かれた。


 会社が倒産すると訳の分からない人が多く集まる。



「これは、美味しそうだぜ」


 と鼻をクンクンならして、群がって来た親父は近所の電機屋さんの店主である。

 愚にもつかないアドバイスをして、割り込もうとしてきた。

 債権は蛍光灯の数万円くらいか?

 それもすぐに払って退散をお願いした。


 結局、資産を売却しようとしたが、東京の会社がトラックなどを買い取ることになった。


 その席上で、


「君、我がグループ会社の女社長にならないか?」


 とスカウトを受けた。


「勤務場所は青山に近い。オフィスビルで働けるよ」


「はあ」


 その時、逃げ回っていた明美さんがしゃしゃり出てきた。


「この子の上司です。ボォとして使えません。私が代わりにいきます~。役に立ちます」


「いや、権河原明美さんは、また今度で」


「今は、この子は私の部下です」


 頑強に自分を売り込む。


 私は・・・・


「私は希望しません。明美さんをお願いします」


 と断った。

 後は従業員達に最後の退職事務をして、会社都合の退職にして私の初めての会社人生は幕を閉じた。




 家に帰ったらスパダリはお冠だ。


「ミチコォ、何故、断った!」

「私の人生です。貴方には関係ありません」


 何故、知っていたのだろうか?



「君は、会社という箱を手に入れて、そこから飛躍をするのだ。私が、この世界で言う常温超伝導や、低温核融合の実用化の技術を渡せる!」


「だったら、スパダリさんがやりなさいよ」

「ダメだ。これはゲームだ!」


「私の人生は貴方のゲームではありません」


「気がつかないか?君たちの言うナーロッパ世界をイメージしてくれ。あの世界ではエネルギーの発電所はいらない。生活魔法の名であるのだ。だから、毎日、チュチュや婚約破棄出来るのだ」


「知りません。興味ありません」


「君には失望した!」

「勝手に私に希望を持たないで下さい」


 その時、女の声、いえ。お母さんの声がした。



「まあ、道子、その方は」

「お母さん!」



 何でも移住は失敗して、お母さんはとりあえず実家になるこの家を頼って来たそうだ。



「お母さん。また、一緒に暮らせるの?」

「ええ、お父さんは少し時間が必要ね。これから、動画配信で暮らして行こうとしているけど・・・」


 母と暮らせるようになった。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんは新しいことに挑戦をすることにした。


 農協を通さずに農作物を売ると決心した。

 私がフォーマットを作り。

 売買を担当する。

 お母さんは家事を担当だ。


 ネットを調べて分かった。女社長と誘いのあった会社は、女の意見を取り入れています。をしたいがための女子枠社長だ。


 明美さんの愚痴の発信を見つけた。

 役員報酬は手取り十五万円で、グループ企業の製品をネットで紹介するのが仕事だ・・・事務所に住み込みらしい


 行かなくて良かったのかは分からない。




 一方、スパダリは・・・・お爺ちゃんに農作業の指導を受けている。


「スパダリさん。道子はやらん。何じゃ、その腰は?」

「オウ、ご主人、私、頑張りマース」


 最近、片言の日本語を話せば好感度を増すと分かったらしい。腹が立つ。この姿勢は見習うべきなのか?


 スパダリは、まだ、離れで暮らしている。



最後までお読み頂き有難うございました。

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