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千載一遇

「『月の塔』機能停止を確認したら、残っている戦力で王城を征圧することになっている。それまで、我々の動きを悟られる訳にはいかない。カレヴィ、頼むぞ」


 いよいよ「月の塔」へ向かうことになったカレヴィたちを前に、反体制組織「カピナ」の頭領トゥ―レが言った。


「王城も混乱状態で警備が手薄になっていると報告がありましたし、仕掛けるなら今しかないでしょう」

「本当は、私自身の手でという気持ちもあるが……任せきりのような形になってしまって、すまない」


 肩を落とすトゥ―レを見て、カレヴィは彼の気持ちが分かるような気がした。

 

――トゥ―レ殿も、モルティスの所為で父上を亡くしている……自ら仇を討ちたいという気持ちが強くて当然というものだ。 


「トゥ―レ殿には、全体の指揮と、事が済んだ後の諸々の処理という重要な役目があります。それに、あなた方が後ろにいてくれるからこそ、私も進むことができるのです」


 カレヴィの言葉に、強張っていたトゥ―レの表情が幾分やわらいだ。


「すごいね、こんな贅沢な対魔法戦闘用の装備、初めて見たよ」


 身支度を整えたティボーが感心したように言って、笑った。


「認識阻害で身を隠す魔導具に、攻撃魔法と物理攻撃に対する防護壁を展開する鎧やローブ……これって、ルミナスの技術だろ? 新しい杖まで貰って、何か悪いな」


 特別製のローブをまとい、真新しい杖を手にしたイリヤは、落ち着かない様子を見せている。


「これらは『ウンブラ』様から提供されたものだ。カレヴィ殿と突入する部隊の者には、できうる限りの装備を用意した。その杖も、魔法の効果を引き上げる効果があるそうだ」


 カレヴィたちの装備を手伝っていたアーロが、そう言って頷いた。彼も、「月の塔」突入に参加する者の一人である。


「カレヴィ殿とティボー殿の剣は、少し変わった形をしていますね」


 別の構成員が、カレヴィとティボーの装備を見て呟いた。

 二人が腰から下げている剣の柄は、魔導具特有の曲線的な意匠を持ち、一目で普通の剣ではないと分かるものだ。


「我々が持っているのは、『ウンブラ』殿から託されたもので、これも魔導具の一種と言えるな」


 カレヴィは、腰に佩いた剣に触れながら、「ウンブラ」ことイグニスから剣を受け取った時のことを思い出した。


「――この剣には、魔法の仕掛けがあってね。僕は『呪剣(じゅけん)』と呼んでいる」


 重そうに剣を持ったイグニスは、得意げに語っていた。


「何もしなければ普通の剣として使えるけど、柄にある突起を操作すると『振動剣』になるんだ」

「『振動剣』とは?」


 首を傾げるカレヴィに剣を渡しつつ、イグニスが言った。


「特殊な金属でできた刃の部分が超高速で振動することによって、切れ味が増すんだ。理論上は石や金属も切断できる。ただ、制作に手間と費用がかかり過ぎて、君とティボーくんに渡す二振りしか作ってないんだけどね」

「そんな貴重なものを、よろしいのですか」

「僕の尻拭いをしてもらうと考えれば、安いものだよ」


 快活に笑うイグニスだったが、その心には、モルティスの恋人の逃亡を手助けしたことが巡り巡って現在の状況に繋がっている――という後悔が残っているのだと、カレヴィは感じた。



「……魔法解析班からの報告では、『月の塔』周囲には強力な不可視の防御壁が展開されているという話だけど、入るのが大変そうね」


 リーゼルの言葉に、カレヴィは微笑んだ。


「実は、王城から『月の塔』へ直接繋がる地下通路が一つだけある。使用人たちが出入りする為のものだ」

「そうなのね。魔法の防御壁を破らなければいけないんじゃないかと心配だったけど、大丈夫みたいね」


 カレヴィの説明を聞いたリーゼルは、安堵したのか小さく息をついた。


「なるほど、それなら魔法の防御壁を気にしなくて済むね」

「本物の『抜け道』ってやつか」


 ティボーとイリヤの二人も、僅かだが緊張が解れたようだ。



 準備を整えたカレヴィ一行と、アーロを始めとする「カピナ」の戦闘員たちは、認識阻害魔導具の力で姿を消してから、拠点を出た。

 住民たちは建物の中に閉じこもっているらしく、街中に人気はない。


「これじゃあ、認識阻害魔導具を使うまでもなかったかもしれないね」


 静まり返っている街を見回し、ティボーが言った。


「それだけ、住民たちは怯えているということだろう。モルティスの機嫌次第で何が起こるか分からんからな」


 家に(こも)り息を潜めるしかない住民たちの恐怖を思い、カレヴィはモルティスに対する怒りを新たにした。


「あの『裁きの光』を見たら、こうなるのも無理はないよな。俺も、両親が亡くなった時のこと、二十年経った今でも時々夢に見るからな」


 眉根を寄せるイリヤに、リーゼルが悲しげな目を向けた。


 邪魔が入ることもなく、カレヴィたちは王城の前に辿り着いた。

 王城の城門は開け放たれたままになっており、衛兵の姿も見当たらない。


「これは、城内も統制を失っているようだな」


 カレヴィは、王城が自分の中の常識とはかけ離れた状態にあるのを目にして、ひどく戸惑いを覚えた。

 難なく城門をくぐり、一行は王城へ入り込んだ。

 普段は厳格な雰囲気の漂う王宮だが、今は、自分のするべきことを見失った者たちが右往左往しており、混乱しているのが見て取れる。

 認識阻害魔導具の効果もあって、カレヴィたちは順調に城内を移動していた。


「カレヴィ、お城で働いている人たちが、こんな状態で、モルティスは困っていないのかしら」


 リーゼルが、カレヴィの顔を見上げた。


「そうだな……おそらく、日常生活は『月の塔』単独で何とかなっているのだろう。専用の使用人と思われる者たちもいたし」


「帝都が滅茶苦茶になっても、自分だけは安全に暮らせるようにしているのね」


 カレヴィの言葉を聞いたリーゼルが、僅かだが憤りを見せた。


「国民が汗水垂らして収めた税を湯水のように使う魔女だ。それくらいは当たり前だな」


 「カピナ」の戦闘員であるアーロは、そう言って鼻を鳴らした。


 やがて、彼らは「月の塔」へ繋がるという地下通路の入り口に到達した。

 

「いよいよ、魔女の本拠地に入る。認識阻害魔導具を使用してはいるが、向こうが我々の存在に気付く可能性はある。最大限に注意を払ってくれ」


 言って、カレヴィは地下通路へと足を踏み入れた。

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