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漆黒の魔術師エルト、勇者パーティを引退してコンビニを始めます!  作者: 永礼経


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最終話 「エルトのコンビニ」その基本方針

 

「オーナー、今度のお店はどんなお店になさるおつもりですか?」


 揺れる馬車の中でリーリャさんが問いかけてくる。


「私はどんなお店でもエルのコンビニならどこだっていいぞ?」

と、受けたのはルーだ。


 3人は今馬車に揺られて街道を走っている。

 外の景色はすでに街並みからはずれて、森の木々が窓の外を流れていた。


「今度の立地は、迷宮ダンジョン前立地ですから、より冒険者向けの品ぞろえを強化していかないとですね。これまで通り「携帯食料ベントー」と「握り飯(オニギリ)」は主力商品になるでしょうが、それ以外には、薬瓶ポーション小道具ツール類、呪文書や武器類なんかも充実させないとかもですね」

  

 エルトはそう応じておく。


 グランエリュートの街中立地の「88(ペアエイト)」は一定の成功を収めることができたと言っていいだろう。

 おそらくのところ、余程強力なライバル店が出現しない限りは当分の間は安定した売り上げを上げることができると見ている。


 しかしながら、現在のグランエリュートにそれが可能なほどの豪商は存在していない。

 「88(ペアエイト)」ぐらいの品揃えをするには関係各所への手配が必要だが、それを為しうるほどの大きな商店はすぐには現れないだろうし、もし、現れたとしても、この「2年」で築き上げた信用はそう簡単には失われないだろう。


 ミミとハンスの「夫婦」に任せておけば、そうそうおかしなことにはならないはずだ。

 ハンスのここ2年の頑張りと、しっかり者のミミに対する従業員さんたちの信頼は相当高い。彼らならしっかりと店を発展させてくれるだろう。



 エルトは本当に人に恵まれたと思っている。

 グランエリュートにはギルマスのゲラルドや、エリュート出版のエレモアさんなどもいてくれるから、ハンスとミミ(彼ら二人)の良き相談相手になってくれるはずだ。


(結局は、「人」なんだよな――)


と、エルトは思っていた。


 とても残念なことだが、あっちの世界ではそうはいかなかった。

 労働者と経営者が同じ方向を向いて仕事をすることは本当に難しい。


 経営者は労働者がより充実した仕事を行えるようにと思考を巡らす。が、労働者側は実はそう考えていない者がかなりの数いるのも事実だ。


 特に、資本主義経済下においての労働者は基本的に「搾取」される側だと思っている節がある。それは確かにそうだったかもしれない。

 

 過度な労働時間数、販売ノルマ、人手不足、24時間営業……。 


 経営者の中には労働者の負担を一切無視して、「人()」としてしか扱わない者も多くいる。それに、過度なサービス過剰主義によって従業員はいわれのない「我慢」を多くさせられている職場も少なくない。

 時には理不尽にただ「お前の顔が気に入らない」程度の難癖に対しても頭を下げさせられる職場も多く存在している。


(こっちの世界ではどうしてそれが起きないのだろう――)


と、エルトは本当に真剣に考えてみたことがあった。


 だが、それはとても単純なことだったのだ。

 答えは「道理」である。

 実はたったこれだけのことであると、エルトは帰結していた。 

 

「売るひと」がいて「買う人」がいる。「作るひと」がいて「運ぶ人」がいる。「守るひと」がいて「安心して生活できる人」がいる。


 すべて、人と人の関係だ。

 この世界では、それがはっきりとしている。


 もちろん「競争」が無いわけじゃない。

 だが、「道理」を破った競争が結局は自分自身の身を亡ぼすことをこの世界の人たちは身をもって知っているのだ。


 この世界にあって、あっちの世界にはないもの――。

 もしかしたらそれがこの世界が()()()()()()原因なのかもしれない。



「――ただ、どんな立地であっても『絶対に変わらない方針』というのがあってね。それだけやってればたぶんどんな場所でもやっていけるって確信があるんだよね」

と、エルトは続けた。


「?」 

「??」 


 二人は少し小首をかしげる。


「それはね。『あなたには売りません』とちゃんと言えること、なんだよね」

とエルトが言った。


「店なのに、『売りません』なのか? 『売ります』じゃなくてか?」

と、ルーが聞き返す。


「――あ、そうか……。それが商売にとって一番大事なことなんですね。売ってくれるのが当たり前、売るのが当たり前じゃないってことですよね?」

と、リーリャさんが言う。


――そうですね。


 と、エルトは答えた。


 店が客に物を売るのはあくまでも、その客に売っていい場合だけだ。逆に言うと、客が店で物を買えるのは店側が売ってもいい相手と認めてくれるからだ。

 それは「利益になるか」というのが判断基準になると考えがちだが、実はそうではない。そこには「人間関係」が存在している。


 「売っていい相手」とは「信用できる相手」だけなのだ。


 「信用」のない人に物を売ることは出来ない。

 なぜなら、その時の代金を頂いたとしても、その後の利益につながらないどころか、店の存続に重大な障害となることを起こすかもしれないからだ。例えば「風評ふうひょう」というやつだ。


 それは本当に「基本中の基本」なんだとエルトは思っている。

 買いたい相手に売ることは難しくない。それに買いたいと思わせることも実はそれほど難しいことではない。

 本当に難しいのは、「買う」と言っている相手に「売らない」ことだ。


 日本においても、大企業ではこれを実践している会社が大半のはずだ。それは契約が企業間で行われる場合が多いからだし、どこと契約するかで大きく利益に関わるからでもある。

 だが、小売業の主力となる担い手たちにこのことが周知徹底されていないというのが実情なのだ。


 おそらく現代日本のコンビニ店員の大半の人が、「あなたには売らない」と言っても構わないということを知らないと思われる。


 これは決して「差別」ではない。あくまでも「経営判断」である。



「当たり前に物が買えるというのは間違っているんだ。店に並んでいるものを買うには『資格』がいるんだよ。でもそれは何も難しい試験をパスする必要はないことなんだ。ただ、「売ってくれてありがとう」という気持ちを持つだけでいいんだよ。そして、店の方は「買ってくれてありがとう」って――。そういう関係が「道理」っていうのさ――」



 馬車は街道を前へ前へと進んでいる。

 その道の先はエルトたちの未来に通じている。



 完

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

エルトのコンビニは一号店が順調に進んでいるようで何よりです。

二号店はどんなお店になるのでしょう。それも楽しみではありますが、この物語はここまでです。


出来ましたら、私永礼経の別の物語を覗いていただけたら幸いです。


これまでの応援本当にありがとうございました。

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