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プロローグ―開店!コンビニ1号店

「おおー! 何だこの店!? 携帯食料に、ポーションまであるぜ?」

「こっちには呪文書と、迷宮の探索図まであるわよ?」

「ああ、そう言えば醤油を切らしてたんだったわ。確か、あったわよね?」

「火打石、火打石――はどこだったけ?」

「店員さん、ここから荷物の発送ができるって聞いてきたんだけどぉ?」


 開店からすでに3日目。

 今日も客足は順調だ。


 店内では従業員のみんなが小気味よくてきぱきと動いてくれている。そう言えば、向こうの世界の開店当初もこんな感じだったなぁと懐かしく感じる。


 幾らか過剰に配置した人員ではあるが、開店当初というのはなにより活気が大事だ。

 向こうの世界だと、コンビニエンスストア一店舗における()()()()()()はおそらく開店初日の数字になる。これは、本部の広告経費が充分に使えるからだし、地域の期待感や一度は行っておこうという認知度の高さが一番影響している。セールもやってるため、他店で買うよりも安く同じものが購入できるというメリットもある。本部としても、とにかく初日売上を重視している。この数値如何によって今後のその店の趨勢が決まると言っても過言ではないのだ。


 しかし――。


 この世界においてこのような形態の店はこれまでに前例が無い。

 この世界の商店と言えば、いわゆる「専門店」だ。

 「鍛冶屋」「武器屋」「防具屋」「魔法具屋」などの冒険者向け商店にしても、「野菜屋」「果物屋」「道具屋」「種屋」「塩屋」「醤油屋」など、生活雑貨もすべて、ある一定の範囲の類似品を売る専門店がほとんどだ。

 それだけではない。

 生活サービスにしても、「荷馬車屋」「馬屋」「家畜屋」と言うものも存在している。


 エルトシャン、いや、エルトがこの世界に初めて来たときから、この世界ならと心に決めていたことがあった。

 それは、前世で志半ばで閉店となってしまった「コンビニ」をこの世界で立ち上げるという野望だった。

 世界を知るために諸国を周り、いろいろな素材を調べて、それらを集めた「コンビニ」を立ち上げようと旅を始めた矢先、勇者パーティと出会ってしまった。

 結局、諸国を周り魔王の居所を突き止めそれを討伐するという勇者パーティの目的と、諸国を周り各地の特産品などの商材を探して回るエルトの目的が合致していることから、共に旅をすることになったのだが、今にして思えば、あの勇者の口車にうまく乗せられたという感が大きい。

 諸国を周遊するのなら、別に勇者パーティに入らずとも出来ることだ。実際、勇者に出会うまでの一月ひとつきは、冒険者ギルドの依頼をこなしつつ旅費を工面しながら町から町へと周遊していたのだから。


「俺たちと一緒にくれば、旅費は国王持ちだ。その分お前の開業資金に回せるぞ? エル――」

と、勇者が人懐っこい笑顔で言った。そういや、「エル」と呼ばれたのはあれが最初だったな。


 あの言葉と笑顔にほいほいと乗せられてしまった「若き日の自分」を何度呪ったことか。おかげで、20歳には開店したかった予定が2年も遅れてしまった。


(まあ、たしかに、その分開業資金が当初の予定額の5倍ほどにはなったから、トントンかすこし楽になったと思えば済むはなしだけどね――)


「オーナー! 配送屋さんが来られました! 検品立ち合いお願いできますか?」

従業員のエルフ族女性、リーリャ・リューレが僕に声をかけた。

 

 彼女は従業員さんの中でも一番年上で、経歴書によれば、160歳だそうだ。

 とは言っても、見た目的には20代にしか見えない。エルフって、本当に若い。


「ミミちゃん! オーナーに立ち会ってもらって、検品行ってくれるかな? 出来次第品出ししないと――」


 そのリーリャに声をかけられた「ミミ」こと、ミーミア・ハイランは小柄な女の子だ。こちらはホビット族。年齢は52歳らしい。女の子といっても自分より30歳も上なのが調子が狂うが。やはり、こちらも長寿な(人間と比べてという意味だが)種族で、見た目年齢はとても若い。ミミは10代後半という感じだ。


「はい! オーナー、行きますよ? はやく、はやく!」


 と僕をかす。

 ホビット族というのは体が小さいせいもあるのか、総じて気が短くせかせかと動く性質があることは、冒険する各所で出会う同種族たちを見てきたからよく知っている。


「はいはい、じゃあ、行こうか。リーリャさん、店内おもて、ちょっとお願いしますね――」

と応じ、ミミのあとに続く。


「はい、大丈夫です、お願いします」

とリーリャが返してくる。


 彼女は本当に責任感が強く、利発な女性だ。僕はすでに彼女を店長に任命していた。彼女にも各従業員たちにもそのことは開店前に伝えてある。

 従業員の皆も、一番年長者でもある彼女の店長への起用はある意味当然のことだと受け止めているだけでなく、彼女のリーダーシップは開店前準備の段階から皆の信頼を得ており、皆も拍手で彼女の起用を祝福した。

 

 おそらくのところ彼女は全従業員の目標となる人になるだろう。


「オーナー? なにリーリャさんにみとれてるんですぅ? ボーっとしてないで速く行きますよ?」

と、ミミが鋭く突っ込む。


「見とれて? って、いやいや、そんなつもりじゃないから――」

「なんでもいいから、はやく、はやく」


「はいはい、分かってるって――」


 こんな感じで僕の2度目のコンビニオーナー生活が始まったのだった。


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