06:追求!犯行の源
(思っているよりも厄介だな…。さてどうするか…。)
2人の男と戦闘すること数十分、力を抑えて可能な限り怯ませる程度に攻撃をくらわせたいと思っている舞香は、なかなか思うように攻撃が当てられず困っている状態にあり、男たちも容赦なく攻撃を仕掛けてきている。
「曲転鎖!」
「飛泥弾!」
曲がりくねる鎖とやや硬めの泥の弾が舞香に向かって飛んで来る。
「雷輪守!」
サークル状の大きな魔法陣を展開させ、飛んで来る攻撃を受け止め粉々に砕く。
「やっぱりあれが面倒だな…」
「どうにかしたいものだな…」
男たちもやられないように必死に対抗する。
「ならばこれならどう!速雷千・散!」
槍の矛先から強力な雷をV字に男たちに飛ばす。
「剛泥壁!」
間一髪のところでポッチャリした男が泥の壁を展開させギリギリ防ぐ。
「悪い、助かった」
「それはいい、集中しないとやられるぞ」
気を引き締め直し男たちが構える。
「ギリギリとはいえ防がれたか…。それじゃあ、速雷千・乱!」
今度は扇形の軌道で先ほどよりも強い雷を放つ。
ポッチャリした男は更に力を込めて、勢いを殺し防ぎ切った。
その際に泥の壁は崩壊した。
「はあ…はあ…。何とかなったけどこのまま続けばジリ貧だ」
「そうだな…」
ポッチャリした男が息を切らしながら言うことに不健康そうな男が同意する。
(今のは少しやり過ぎたか…。普段から力のコントロールの練習をしておくべきだったかな…。)
内心そう苦虫を噛みしめる。
とはいえ必死だったことは否めなく、それも含めて今後の反省として考えるようにした。
「これだけは使いたくなかったが、そう言っている場合ではないな」
「まったくだ」
男たちはポケットから赤いカプセルを取り出しそれを噛み砕く。その瞬間、
「「はあああー!」」
「なっ!」
男たちの全身に血のような真っ赤なオーラが纏わりつく。
一瞬気を取られた舞香だが気を取り直して、強い口調で男たちに訴える。
「一体自分たちが何を服用したのかわかっているのか!」
「充分承知の上でやっているさ」
「さあ続けるぞ」
男たちが服用したのは「筋力増強薬」で一定時間、通常の力よりも5~10倍の力を引き出す効果を持つ薬である。
ただし時間が切れると全身に激痛が走り、一週間ほど動けなくなり入院する可能性があると言われている。
最悪の場合、死に至ることもあり危険な薬とみなされ違法薬にカテゴリーされている。
「さあ一気に行くぞ!」
「歯をくいしばりな!」
「っ!」
互いに構え直し牽制し合うが、先に仕掛けて来たのは男たちからだった。
「曲転鎖!」
「飛泥弾!」
先ほどと同じ攻撃だが速度も威力も明らかに上がっている。それでも舞香は、
「雷輪守!」
必死にその勢いを抑えようと魔法陣を展開させ、辛うじて防ぎ切るが、
「双回鎖!」
「直針泥!」
男たちは舞香の左右に回り込み攻撃を仕掛ける。
左からトルネードの軌道で複数の鎖が飛んで来て、右からは鋭く細長い針の形をした泥が数十本から数百本飛んで来る。
(しまった!)
驚愕の表情になり、もろにくらってしまうと目を瞑って覚悟したその時、
「炎進舞!」
「「昇風拳!」」
竜巻のような炎が鎖を相殺させ、ドリル回転の軌道の風が泥の針をバラバラに切り刻んだ。
技が飛んで来た方向を見るとそこには、
「遅くなってごめん舞香さん。無事だった?」
「お怪我はありませんか?」
「「マイカちゃん!」」
声をかけて来た時光と恵、勢いよく名前を呼ぶ志穂と美穂が駆けつけて来た。
それが確認出来た舞香が時光たちの元へ駆け寄った。
「皆助かったよ。ありがとう」
ホッと一息安心して緊張の糸が切れてしまったのか、膝がガクッと落ちてしまった。
力を抑えて戦っていたとはいえ魔力を消耗したことに違いはなかった。
「よく耐え忍んだね。後は俺たちに任せて」
「うん。それと皆気を付けて。あの2人「筋力増強薬」を服用しているから」
「それ違法薬じゃないですか!」
あまりのことに恵が驚く。
「よく見たらあの人たちトキちゃんが言っていた人たちじゃない?」
「マイカちゃんよく相手に出来たね」
「ん?」
志穂と美穂の言っている容量が掴めていない舞香である。
どうやら真奈から受け取った情報に男たちのことは含まれておらず知らなかったらしい。
「詳しいことは真奈さんにも話してあるから後で聞いてみるといいよ」
「そうするよ。私はあの2人が言っていた情報を真奈に伝えに行くよ」
「一人で大丈夫?」
「あまり無理しちゃ駄目だからね、マイカちゃん」
志穂と美穂が心配そうに言うと舞香はニコッとして答える。
「私は大丈夫だよ。じゃあ皆、後は頼んだよ」
そう言って足元に魔法陣を展開させ、その場からいなくなる。
それが確認出来たところで時光たちが野口と大山に言い放つ。
「さて言っても無駄かもしれないけど、潔く投降していただこうか」
「無駄なあがきほど、見苦しいものはありませんからね」
「「さあ賢明な判断を」」
その言葉に対して野口と大山が怒気を込めて反論する。
「随分となめられたようだな」
「そのまま返り討ちにしてやるよ」
両者睨み合い大山が仕掛けて来る。
「広泥壁!」
ゴゴゴゴッと地面が揺れ、恵と志穂の間に10メートル前後の泥の壁が展開された。
時光・恵が対するは野口、志穂・美穂が対するは大山という形に場所を区切られた。
「志穂、美穂聞こえるか?」
泥の壁の向こう側にいる2人に大声で呼びかける
『聞こえるよトキちゃん。私たちは大丈夫だよ』
『ササッと倒してこの壁壊すから』
確認がとれたところで時光は野口に向き直る。
「この壁は見た目以上に頑丈に出来ているから壊そうとしても無駄だ。壊したければさっきの2人に大山を倒してもらうことだな」
野口の余裕ある言葉に即答する。
「やってくれるさ、あの2人なら」
「言ってくれるね」
野口が構えると時光は恵に注意を促す。
「来るぞ恵さん!」
「はい!」
それぞれ相対する戦いが始まる。
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