02:JSIA始動
昨日の会議室での綾菜のエロボケに散々ツッコミを入れた時光、舞香、恵は帰り、真奈に「どうしたらそんな疲れた顔が出来るの」と呆れられ事情を説明したら「頭痛薬ないかしら」と言われ溜息を吐かれた。
修助からは「程々にね」と苦笑いされた。
それから翌日、そんなことを思い出さないように、決まって一番に本部に来る人がいた。
「おはよう時光クン、昨日は散々だったね」
「おはよう舞香さん、それに同意だよ」
舞香が少し疲れ気味ながらもニコッと挨拶してきた。
「それにしてもここ最近、犯罪は起きているものの、だいぶ丸く収まっている気がしない?そのうち私たちが必要なくなってくるんじゃないかな?」
「どうかな。確かにそう見えるけど俺らがいなくなって急激に犯罪が増えたら、それもそれで問題だと思うよ」
「それは言えているね」
そう話しているとドアが開く。
「おはよう舞香に時光」
「おはよう真奈」
「おはよう真奈さん」
真奈が欠伸をしながら入ってきた。
「真奈、寝不足かい?まだ家でゆっくりしてくればよかったのに」
舞香にそう言われると手をヒラヒラ振って答える。
「大丈夫よ。昨日のメンテナンスが終わって家でプロファイルを整理していたら遅くなっただけよ」
「あまり無理しないでね真奈さん。寝不足は体に毒だから」
「ありがとう時光。それに今の台詞は時光にも言えたことじゃない?昨日は綾菜に散々振り回されたそうじゃない」
「返す言葉がないな」
そう言うとフフッと笑われ話を続ける。
「そういえばここに来る前に、馬堂総監に会って時光が本部にいれば総監室に来るようにと言っていたよ」
「一体何だろう?」
「それは行ってみればわかるんじゃない?」
「そうするよ。それじゃあ行ってくる」
そう言って部屋を後にした。
それが確認出来たところで舞香に振り向き告げる。
「時光にはああやって言ったけど、一足先に舞香、貴女に動いてもらう案件よ」
「わかった。早速その案件をお願い」
真奈は頷き、オペレート室でも使う赤外線キーボードを取り出しキーボードを打つ。
過去に起きた数多くある事件のプロファイルから真奈が推測しているデータを舞香のスマホに転送する。
舞香は転送されたプロファイルを確認し真奈に尋ねる。
「まずはこの事件について今のところ大まかなことを掴んでくればいいかな?」
「ええ。怪しいと思ったところや疑問に残るようなものがあれば記録したり採取したりと、匙加減は任せるわ」
「わかった。もしその間に犯罪者と遭遇したらどうすればいい?」
「気付かれたら相手を怯ませる程度に仕留めて有力な情報を聞き出すことね。場所と距離にもよるけど相手が舞香の存在に気付いていない場合は物陰に身を潜めて様子を見るだけでもいいわ。後は舞香の力量次第ね」
「難しそうなことをサラッと言ってくれるね」
少し皮肉に言ってみると、
「ごめんなさいね。本当に身の危険を感じたら何もせず自分の体を優先して戻ってきてね」
「わかっているよ。少し意地悪言ってみただけ。そこまで言われなくてもそうするよ。ありがとうね」
「貴女のことだからまた無茶するんだろうけど気を付けて」
「それもわかっているから平気だよ。それじゃあ行ってくるよ」
真奈の肩をポンっと軽く叩きニコッとして部屋を後にした。
「まったく、頭痛薬いくらあっても足りないようね」
不覚にもニコッとした顔に真奈は少しドキッとした。
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廃棄工場
工場内の広さは中学・高校にある体育館くらいの広さで少し錆びついているところがあり、数年経っている様子が見られる。
大部分のところが取り払われて細かい部分の部品等が取り付いている状態である。
少し湿気が溜まっているが、所々に窓が開いていたため気にする程でもなかった。
「これでいくつ工場を潰し回ったんだ?」
「もう数えてはいないが結構な数にはなったはずだ」
「こんなことして嗅ぎ付ける奴が本当にいるのか?」
「まあそう言うな。刑務所にいるよりはマシだろ?」
「そうだけどよ」
自分たちが潰し回る工場について話す2人の男が工場に入る。一人はほっそりした不健康そうな男と、もう一人はポッチャリした見た目通りのんびりした男である。
「気長に待てば嗅ぎ付けてくる奴がいるはずだから今は余計なことは考えず、潰すことだけに専念するぞ。苛立ってもしょうがない」
「そうだな。ササっと済ませるか」
2人は工場内をわかりやすく滅茶苦茶にするのである。
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鉄茂に呼び出された時光は警視庁に向かい、エントランスの受付でIDカードを見せ最上階にある警視総監室に辿り着いた。
警視庁とJSIA本部は歩いて数分のところに位置して設立され、50階建てのビル相当で見上げられる高さである。
JSIA本部もそれに匹敵する高さである。
総監室の前まで来てノックすると「どうぞ」と部屋の奥から鉄茂の声が確認出来てから中に入る。
「失礼します」
「よく来てくれたね。朝早くに申し訳ない」
「いえ大丈夫ですよ。真奈さんから話があると聞きましたが何でしょう?」
「立ち話も何だからそちらに」
「はい」
時光を座らせるように右手を差し出し時光を座らせ、自分は時光の向かいにあるソファに座りテーブルの上にあるタブレットを時光に見せた。
「早速だがこれを見てくれ」
「拝見します」
時光はタブレットを自分の方に持ち寄せて内容を確認する。
内容は次の通りである。
―廃棄された工場が次々とずさんな形で壊されていることが最近になって数多く取り上げられている。つい最近廃棄された工場から数年経った工場までで確認出来ている数は60~80件前後である。金銭的な動機で壊し回っているものではなく警視庁に対しての挑発か他の目的で動き回っていることが少しずつ明らかになっている。なお、工場内を壊し回っている人物を目撃している人や、それらしい証言は現状ないとのこと。これ以上酷くならないために捜査員が引き続き捜査している。―
文章はそれほど長くはないが、読み終えた時光は難しい顔をして口を開く。
「極めて悪質な犯行ですね。一体誰が…」
持ち寄せたタブレットをテーブルの上に置き戻し、それに対して鉄茂が告げる。
「昨日に警視庁の会議でも取り上げられた題材だが、誰の仕業なのか推測の域だが検討はついている」
そう言ってソファから立ち上がり、自分の机の上に置いてある資料を取り時光に見せた。
「先ほどタブレットで見せたものは一般に公開されているものだが、この資料は公開すると罪のない人まで巻き込む可能性があるから一般には非公開にしてある」
「こちらの資料も拝見します」
その資料に記されてある内容は次の通りである。
・野口秀人 身長175cm 瘦せ型 窃盗1件 器物損壊3件
不健康そうな体格で都合の悪いことがあるとすぐにキレるといった短気な性格をしており、物を壊して暴れまわり周囲に迷惑をかけることも。そのせいか、刑務所に入れられたが現在は出所して資格をとり仕事に励んでいる。
・大山佑太 身長170cm ポッチャリ体格 窃盗1件 器物損壊2件
丸々とした体格で性格は穏やかではあるが、癖の悪いことに手を出すことが多い。そのことが上手くいくと関係のない人を巻き込み罪を被せるといったタチの悪いことをしてくる。現在は出所して資格を取り仕事に励んでいる。
一通り2人の資料を読み込み時光は苦しい顔をして思ったことを告げる。
「もし仮にこの2人が工場を荒らし回っているとして、何故刑務所に閉じ込めたままにしなかったのですか?」
明らかに前科持ちの人物を安易に外に放つことを危険視した時光に対して、鉄茂も苦い顔して答える。
「2人が出所したのは随分前のことなんだ。それから突然仕事先に来なくなった。行方がわからなくなる前は2人とも真面目に仕事をしていたことも関係者の証言もあるからな」
「2人の身に一体何が…」
「今のところ何もわからない。ただこの2人は前科者というのを除けばただの人なんだ」
鉄茂の含みのある言葉を掴み取り理解した上で思ったことを告げる。
「推察するに第三者が何らかの方法で2人に手解きをして、その2人に力を分け与え今回の惨事が起きたと見てよろしいですか?」
「恐らくそんなところだろう。今回の件と過去の件で壊し方に癖がありそのデータを照合させたら、ほぼ一致したから2人の行方を追っている」
「その2人の行方を探し見つけ次第、身柄を確保し今に至るまでの情報を引っ張り出せばよろしいですか?」
「話が早くて助かるよ。もし遭遇したとして戦闘になろうとも2人を怯ませる程度にしてすぐに事情を話せるようにお願いするよ」
「わかりました。被害拡大を防ぐためにも遂行します」
「頼んだよ。私からは以上だが質問があれば遠慮なく」
そう言われ一息ついて話を切り出す。
「では話が変わりますが、今アイツはどうしていますか?」
時光が示す人物にピンときて返答する。
「ああ、彼なら先ほど話した件とはまた別の任務をお願いしているよ。最近やたらコソコソと違法な手段で金銭のやり取りをしている会社が多いもので、その取り締まりを依頼しているよ」
「そうでしたか。無茶していなければいいのですが」
「彼ならきっと大丈夫だろう。私たちが思っている以上の結果を残していることは私よりも森園君、君がよく知っているだろう?」
「はい、アイツは単独で動くタイプですからその方が自身の力を十全に出せていそうですから」
「前にもそう言っていたね。でも彼がいずれ皆と一緒に戦ってくれることを気長に待って、その日が来れば温かく向かい入れよう」
「俺もそのつもりでいますよ。ではそろそろいい感じに皆が揃っていそうなので先ほどの件を皆に話して行ってきます」
「気をつけて」
時光は総監室を後にした。
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