18:それぞれの行動3
「今日は久しぶりにゆっくり出来ましたね」
「そうだね。いつ以来かな、ここまでゆっくり出来たのは」
都内の喫茶店で昼食を済ませ時光と恵は紅茶やコーヒーを満喫している。
美術館で有名な画家の絵を見た後に映画館でアクション系のものを堪能し、最近流行りの服を見に行って気になったものがあれば購入するなどして今に至る。
「最近ひっきりなしに事件が起きているので大変でしたね」
「それは確かに。あちらこちらでキリがないくらいにね」
「はい」
そう短く答え恵は紅茶を飲み一息ついて時光に尋ねる。
「先輩、話が変わりますがいいですか?」
「うん、何かな?」
「今日、私と出かけて楽しめましたか?」
その問いに時光はすぐに答えられず呼吸を整えて答える。
「それは…。ごめん、正直楽しめていなかった。先日の件がまだ頭に残っていてそれで…」
言葉に詰まってしまった様子を見た恵が責めるわけでもなく、悲しむわけでもなく、そっと目を閉じて思ったことを話す。
「そうでしたか。先輩の性格を考えたらそうだと思っていましたよ。楽しむとかそういうのをなしにして純粋に体の方を休めることは出来ましたか?」
「それはまあ、でもどうして?」
その問いに戸惑いながら答えると恵はここで少し微笑み答える。
「それでしたら良かったです。欲張りな物言いになりますが、本当は楽しんでいただけるところまで考えていたのですが、そうもいかなかったようで、せめて気持ちの整理や体を休めていただくためこのような形ですが付き合っていただきました」
「気を遣わせてしまったようで申し訳ない。少しずつではあるけど気持ちの整理は出来ているから大丈夫だよ。ありがとう」
「いえ、先輩が良ければそれでいいのです。確認のためもう一つ、私たちのことを信用していますか?」
「それはどういう?」」
質問の意図が掴めず時光は言葉に詰まるが、恵は話を続ける。
「先輩は確かに人一倍周囲に目を配り私たちは助かっていますが、時に過剰になって出来ることが出来なくなってしまう傾向があります。1人でやろうとせず、もっと私たちを頼ってください」
恵の意図がどういうものなのか時光は掴めてきた。
先日の野口の捕獲でもっと上手く立ち回ることが出来れば恵を入院させることなく最小限の被害で収まったかもしれなかった。
時光はそう考え悔しさをグッと堪えて答える。
「それは本当にごめん。同じ失敗を繰り返さないように気を付けるよ。自分で処理し切れないことに遭遇したらお願いするよ」
時光の口からようやく自分の望む言葉が聞けて恵は先ほどよりも微笑み答える。
「そうしてください。そのために私たちがいるんですから。人に助けを求めて問題を解決することも一つの手段ですよ」
「改めてその時はそうさせてもらうよ」
ここへ来て時光は普段の調子を取り戻した。
充分ゆっくり出来て席から立ち上がり恵に告げる。
「それじゃあ次に行きたいところがあるんだけどいいかな?」
「構いませんよ。どちらへ行かれますか?」
「すぐにわかるさ」
そう言ってお店から出て10分弱歩いた距離にケーキやパイ等を扱っている専門店に辿り着いた。
「ここのお店のケーキ美味しいですよね」
ぱああと目を輝かせ恵が喜ぶ。
「お金は俺が出すから好きな物選んでいいよ」
「よろしいのですか?今日は特別何かを祝うようなことはありませんよ」
「まあそうだけど皆に迷惑かけたお詫びとそれからもう一つ理由があるんだ」
「と仰いますと?」
恵が尋ねると時光が少し恥ずかしそうに頬をかき答える。
「俺と恵さんが初めて会った日だよ」
「そういえばそうでしたね。あの時のことを覚えていたんですね」
「もちろん。印象に残ることだったからさ」
「アハハッ。そうですよね」
高等部時代のことを思い出した恵にとってそれは恥ずかしい思い出だが、それがあったからこそ時光と知り合うことが出来た。
もしそれがなければまた別の生活を送っていたかもしれなかった。
それを考えれば当時の出来事に感謝する恵であった。
「それではお言葉に甘えて好きな物を選ばせていただきます」
「遠慮なくどうぞ」
そう言って数多くある種類の中から恵はピーチタルトを選び、時光はガトーショコラを選んだ。
メンバーにはレアチーズケーキやモンブランやフルーツショートといったまた違った美味しそうなケーキを購入した。
「先輩ありがとうございました」
「どういたしまして」
お店から出て恵は礼を述べると時光は嬉しそうに返答する。
「私も行きたいところがあるんですけどお付き合いいただけますか?」
「もちろんいいよ」
そう言って2人はまた少し離れたところにある神社まで歩いた。
神社に辿り着くと、しきたりに沿って参拝した。
「先輩、何をお願いしましたか?」
「それを言うと願いが叶わなくなりそうだから秘密で」
「少しでも駄目ですか?」
物陰から覗き込むような調子で尋ねるが、
「それでも駄目かな。それに少し恥ずかしいし」
「わかりました。なんとなくの想像にしておきます」
「そうしてくれると助かるよ」
何気ない話をして帰る前にお守りが売られている受付に行ってメンバー分のお守りを購入した。
「ありがとうございました。またお参りください」
受付の巫女装束の女性が挨拶すると時光と恵は軽く礼をした。
「私の要件も済みましたし、時間もそろそろいい頃なので帰りましょうか?」
「そうしようか」
恵の言うことに同意し神社を後にして、来た道を歩いている時だった。
少し歩いた距離に長蛇の列を成していたのである。
20代~40代の比較的女性の多い列で、その列の先にあるものが気になり時光と恵は追跡した。
2人が目にしたものは男性陣が理想としている露出度高めの服装で白衣を着た学校の保健室の先生のような女性である。
2人よりも年齢がいくつか上のようで、肩よりも少し長めの黒色の髪をした人である。
「献血にご協力いただきありがとうございます。本当に助かりました」
協力に来た人々に女性はニコッとして言う。
「これは綾菜さんに会わせたらとんでもない人だね」
「はい、ただでさえ綾菜さんのボケの処理だけでも大変なのに2人いたらもっと厄介になりそうですからね」
「それは言えているね。話かけられる前に行こうか」
「はい。その方が良さそうですね」
2人は女性に話かけられる前にその場をササッと立ち去った。
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