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第41話 金の縁

 朝日の光に包まれ、青年の姿がゆっくりと実体を持っていく。

 金混じりの白髪、陶器のように滑らかな肌。

 そして、その胸元には、わたしが施した呼び継ぎの跡と同じ、黄金の筋が服の紋様のように美しく走っていた。


 狐白(こはく)はゆっくりとまぶたを持ち上げた。

 その瞳が、まっすぐにわたしを捉える。


「……くるみ」


 耳になじんだ、穏やかで優しい声。


「狐白! よかった……わたしのこと、わかる……?」


「忘れるはずがありません……。必死に僕をつなぎ止めてくれたことも、すべて伝わっていましたよ。あんなに泣かなくても、僕はどこへも行かないのに」


 狐白の手が、まだ震えているわたしの手を包み込む。

 その体温を感じた瞬間、わたしの緊張は音を立てて崩れ、涙があふれて止まらなくなった。


 記憶は失われていなかった。

 夜明けの光の中で、わたしたちの絆は、前よりずっと強いものとして結び直されたのだ。


 ふと、狐白の視線が、部屋の隅で膝をつき、顔を上げられずにいる小椋(おぐら)くんへと向けられた。

 彼は狐白が(よみがえ)った奇跡に打たれながらも、自分が犯した罪の重さに、声を出すことさえできずに肩を震わせている。


 狐白は、音もなく小椋くんの前に歩み寄った。

 わたしは一瞬、狐白が怒りに触れるのではないかと息を()んだ。

 けれど、彼の瞳に映っていたのは氷のような冷徹さではなく、春のひだまりを思わせる、どこか懐かしむような光だった。


「……立ちなさい、瞬」


 ――瞬。


 その呼び方に、小椋くんは肩を跳ねさせた。


「君の欠片を、受け取りましたよ。……君がずっと抱えてきた、あの寂しさも。誰かを守りたかったという、届かなかった願いも。今、僕の血肉としてここに流れています」


 狐白は、小椋くんの武骨な手に、自分の白く細い手をそっと重ねた。


「呼び継ぎとは、不思議なものですね。君の欠片が僕の一部になった瞬間、僕は君のことを、ずっと昔から知っているような気がしてきたのです。……まるで、血を分けた弟のように」


「え……?」


 小椋くんが呆然(ぼうぜん)と顔を上げる。

 狐白は、いたずらっぽく少しだけ口角を上げた。

 その仕草(しぐさ)は、以前のどこか他人を寄せ付けない人ならざる者のような雰囲気とは違い、もっと人間味のある、包容力に満ちたものだった。


「これからは、僕が君の家族の代わりになりましょう。つくも神の兄を持つというのは、そう悪い気分ではないはずですよ、弟よ」


「……そんな、俺……俺、あんたを……!」


「謝罪はいりません。君の罪は、くるみが黄金で美しく隠してくれました。これからは、その線を誇ればいい。君が僕の一部である限り、僕もまた、君を放っておけなくなっただけのことですから」


 小椋くんの目から、(せき)を切ったように涙があふれ出した。

 ずっと孤独の中で壊れた家族を抱えて生きてきた彼にとって、それは何よりもほしかった、けれど諦めていた赦しと、新しい居場所だったのかもしれない。


 その光景を背後で見守っていた埴安(はにやす)さんが、朝日に目を細めながら、誰にも聞こえない声でつぶやくのが聞こえた。


「……異なるものが混ざり合い、新たな理が生まれる。これもまた、繕い手のなせる業か」


 窓の外、笠間の町が完全に朝の光に包まれる。


 わたしと、狐白。そして、彼らによって救われた小椋くん。

 バラバラだった欠片たちが、金継ぎという祈りによって、一つの新しい物語としてつながり始めていた。

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