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蝶番~アイノイロ~  作者: 穂紬 蓮
09 チョウツガイ (side SHINOBU)
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チョウツガイ 3

 結局、朝方まで騒いで、それから寝た。


 家族が増えて賑やかだ。

 きっとこれからはこれが日常になる。

 そんな気がした。



 ◆



「お世話になりました」


 午前十一時。

 玄関で彩と二人、蒼さんに頭を下げる。


「世話になったのは私の方だよ。いろいろと酷いことをしてしまったのに許してくれて。ありがとう」

「私は酷いこととは思ってません。紫信さんも。ね?」

「あぁ。七瀬さんを救えたんだ。恨んでませんよ」


 蒼さんが微笑んで頭を下げた。

 何をしても絵になる人だ。

 俺も頑張ろう。


 帰り道は俺が運転した。

 真城は後部座席で騒いでいたが、そのうち静かになる。

 バックミラーで見たら爆睡していた。


「真城さん、寝不足みたいで。迷惑かけちゃって申し訳ないです」

「そうだな」

「後で何かお詫びしないと。紅林さんにも」

「そのつもりだ」


 助手席の彩は黙り込む。

 会話が続かない。


 元々、家の中でもそれほど会話は無かったが。

 何と言うか、気まずい。


 親子ではなく恋人になったからだろうな。

 いい歳して情けないが、彼女になった彩にどう接していいか分からなかった。


「……紫信さん」

「何だ」

「私たちの子供のことなんですけど」


 段階を飛ばし過ぎだろ。

 俺は内心、激しく動揺していた。


「……子供がどうした」

「作らない方がいいと思うんです」

「……嫌なのか?俺とするのが」

「違います。そうじゃなくて……可哀想な気がして」

「可哀想?」


 彩は少し考えてから、再び口を開く。


「その子もきっと想墨師の力を受け継ぎますよね」

「だろうな」

「私はその子の番を見つけないといけません」

「そうなるだろうな」

「その子も番の人も過酷な人生になります」


 なるほど。だから子供を作らない。

 彩らしい考えだ。


「俺は番としての人生を辛いと思ったことは無い」

「……そうなんですか?」

「彩は辛いのか?」

「……わからなくて。紫信さんと出会えたこと、一緒に居られることは凄く幸せなんですけど」

「俺たちが幸せだからと言って、子供も幸せになれるかは分からないな。確かに」

「……はい」


 俺は蒼さんから聞いた話を思い出す。


「想墨師は元来、人々を苦しみ悲しみから救う為に存在していた。世の秩序を守る為に。でも現代は複雑になり過ぎている。数人を救ったところで何も変わらない」

「……そうですね」

「だから次の代を産み育てる必要も無いのかもしれないな」

「……いいんですか?紫信さんは、それで」


 問われた意味が分からず黙っていると、彩は小さな声で言う。


「子供……欲しくないですか?」

「まぁ……欲しくないと言えば嘘になる。彩の娘だ。きっと可愛いだろう」

「じゃあ、産んだ方がいいですか?」

「すぐに結論を出さなくてもいいだろ。お前はまだ若い。俺だってあと十年、いやもっと先まで頑張る」

「……ありがとうございます」


 彩は繊細な性格だ。大切にしなくては。


「子供が出来なければ、してもいいんだよな」

「……え?」

「きちんと避妊する」


 彩は黙り込んだ。

 また怒らせたか。


「……それなら……いいです」

「ん?」

「優しくしてくれるなら、してもいいです」


 ……マジか。

 また怒られて殴られると思ったんだが。


「って、紫信さん治ってるんですか?」

「あぁ」

「いつから?」

「最近」

「……そうだったんですか」

「お前が大人になったかららしい。蒼さんが言っていた」

「本当に……そうなんですね。番って」

「治っても彩以外の人間とは交われない」

「そうなんですか?」

「試したことが無いから何とも言えないが」

「浮気できませんね」

「そういうことだな」


 彩は嬉しそうだった。

 俺が浮気するとでも思っていたのか?


「俺は彩しか見ていない」

「わかってます」

「生涯、彩を愛する」

「結婚式みたいですね」

「そうだな」

「私も」

「ん?」

「私も生涯、紫信さんだけを愛します」


 運転中だから仕方ない。

 誓いのキスは家に帰ってからしよう。


 焦ることは無い。

 これからもずっと一緒だ。



【完】

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