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蝶番~アイノイロ~  作者: 穂紬 蓮
07 シッソウジケン (side SHINOBU)
13/20

シッソウジケン 2

『男女の仲になったから』

「その……そういう仲になれば、常に一緒に居なくても大丈夫になるのか?」

『うん。しのぶくんと彩も同じだよ』


 ……そうだったのか。

 それなら多少強引にでも、しておけば良かった。


「……彩の父親はそいつなのか」

『そう。無理矢理……されて出来た子だけど。私たちは決められた相手としか交われないから。迷ったけど、彩を産んだの』


 七瀬は愛してもいない相手に犯され彩を身篭(みごも)った。

 その辛さは想像を絶する。


『彩のことは愛してる。あの子に罪は無い。だから幸せになって欲しくて。彩には、彩を大切に愛してくれる人を選びたかった』

「……それが俺だったのか?」

『うん。私、見る目あるでしょ』


 自分で言うか。


「もしかして……彩を連れ去ったのはそいつか」

『だと思う。彩には父親である彼の色が見えない。それで気づいてくれたら良かったんだけど』

「奴の目的は何だ」

『わからない』


 娘に会いたくなったのか?

 それとも……七瀬に?


『ごめんね』

「何に対する詫びだ」

『彩を助けに行けなくて』

「何か来られない事情があるんだろ」

『……うん』

「大丈夫。彩のことは俺が助け出す」

『ありがとう……しのぶくん』


 電話が切れた。

 スマホの画面も暗くなる。


「父親か……」


 俺も少し前まで彩の父親だった。

 娘が可愛い気持ちは分かるつもりだ。


 奴は彩を連れて行って何をしようとしている。

 親子ごっこでもするのか?


 まさか……七瀬の代わりにしようとしていないだろうな。

 実の娘だぞ。


 今頃、彩はどうしているのだろうか。

 寒くないか。腹は減っていないか。


 早く見つけなくては。

 俺の身体が動く間に。


 スマホが短く鳴った。

 ショートメッセージの着信音だ。


「こんな時間に誰だ」


 通知欄には彩の名前。

 すぐにメッセージを開こうとしてやめた。


 通知はメッセージではなく画像の添付があることを知らせている。

 彩の居場所に繋がるヒントかもしれない。


 だが俺は別の可能性を考えてしまった。


 このメッセージを送信したのが彩ではなく、奴だったら?


 俺にダメージを与えることが目的かもしれない。

 画像は見ない方がいい。


 だが本当に彩が助けを求めて来た可能性もある。

 葛藤しながら俺はメッセージアプリを開いた。


 それはブレた写真だった。

 その上、暗くて何が写っているのかよく分からない。


 これは彩が撮って送ったものだと思った。


「……落ち着け。よく見ろ」


 画像を拡大したり縮小したりして何度も確認する。

 スマホを横にして見た時、それが乗用車の後部座席から前方にカメラを向けて撮影されたものだと気づいた。


 フロントガラスの向こうに何か場所が分かるものは無いか探す。

 高速道路っぽい照明や看板。

 だが文字は判別出来ない。


 彩が必死に助けを求めている。

 俺は何も出来ないのか?


 諦めず拡大した画像をスクロールしていると、人の顔のようなものが見えた。

 少し縮小する。

 それはバックミラーの部分だった。

 恐らく運転している人間の顔だ。


 彩の父親か。

 その端正な顔には見覚えがあった。


 何度か店に来たことがある男だ。

 中年の男性客は珍しいし、やたらと顔が良いから記憶にある。


 人当たりの良い人物だった。

 あれは偵察だったのか。


 俺のせいだ。

 彩に仕事をさせたから。

 奴に気付かれてしまった。


「鐡さん。何かあったんすか?」


 ドアの向こうから真城が声を掛けた。

 隣の空き部屋で寝ていたはずなんだが。


「なんか話し声が聞こえたんですけど」

「あぁ、ちょっとな」

「入っていいですか?」

「あぁ」


 部屋の明かりをつけて事情を話し、真城にも画像を見せる。

 真城は酷い近眼らしく眼鏡をかけていた。

 画面を食い入るように見て、何やら首を傾げる。


「どうかしたか」

「この人どっかで見たことあるような」

「思い出せ」

「うーん……気のせいかなぁ」

「気のせいでもいい」


 真城は自分のスマホを取り出し何やら調べている。

 少しして目当てのものを見つけたらしく俺に画面を見せた。


「この人に似てないすか?」


 確かにその男だった。

 俺の店に来た男だ。


「何者だ」

「警察」

「……警察?」

「しかもすんごいおエラいさん」


 こいつが七瀬の番で彩の父親。

 最低な男か。


「この人なら警察署で彩ちゃんを(さら)うなんて簡単ですよね」

「確かに。しかしよく分かったな」

「僕、人の顔覚えるの得意なんすよ。確かテレビで見たことあって。イケおじだなーって」

「なるほど」


 厄介な相手だ。

 七瀬が失踪した時に俺を犯人に仕立て上げようとしたのもコイツか。


「ヘタに動けばコッチが悪者ですよ」

「彩の捜索願いを出しても意味が無いな」

「僕たちで探すしか無いですね。大変だぁ」


 俺の身体は何時(いつ)まで動くか分からない。

 その時は真城と紅林さんに頼るしか無い。


「真城」

「何すか」

「お前が居てくれて良かった」

「え……なに。鐡さんって男好き?まあ鐡さんになら抱かれてもいいかな」

「殺すぞ」

「冗談っすよ。鐡さん彩ちゃん一筋ですもんね」

「……気づいてたのか」

「バレバレです」


 そんなに分かりやすいか俺は。


「彩ちゃん可愛いから仕方ないと思いますけど。育てた子に手、出すなんて。鐡さん変態」

「……何とでも言え」

「義理とはいえ娘相手に()っちゃうとかヤバくないすか?」


 俺は真城の顔を思い切り掴む。


「死ぬか?」

「何とでも言えって言ったじゃないすか!」

「俺は七瀬と離婚する。だから彩は娘じゃなくなる」

屁理屈(へりくつ)

「そうか。そんなに死にたいか」

「冗談っすよ冗談!」


 真城のおかげで少し気持ちが楽になった。

 本人に言えば調子に乗るので黙っておく。


「どうやって奴と接触する。警備が厳しそうだが」

「うーん。そこは僕の出番ですかね」

「お前が?」

「一応、郵便屋さんなんで」


 確かに郵便局員ならその辺りをウロついていても怪しまれない。


「でも大丈夫か。相手は警察だぞ」

虎穴(こけつ)()らずんば虎子(こじ)()ず、ですよ」


 真城は臨機応変に対応出来る器用な男だ。

 何にせよ任せるしかない。



 ◆



 翌朝。真城は郵便局員の制服を着て出掛けて行った。

 俺が書いた手紙を(たずさ)えて。


 無理はするなと伝えた。

 これ以上、真城に迷惑はかけたくない。


「紫信」


 紅林さんに声を掛けられ我に返る。

 目の前のヤカンからお湯が溢れていた。


 慌てる俺を見て紅林さんは溜息をつく。


「意外と小心者なんだねぇ。デカい身体して。子犬みたいな見た目だけど悠希(ゆうき)の方が肝が座ってる」

「……すみません」

「責任感じてんのかい。彩のこと」

「当然です。俺が傍に居たのに守れなかったんですから」

「仕方ないよ。相手が相手だ」

「奴のこと知っているんですか?」


 紅林さんが換気扇を回す。

 そして俺に断ってから煙草に火をつけた。


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