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第9話 祐希の待望

祐希(ゆうき)は人生最大の興奮真っ只中である。

祐希の瞳は夢を見る少年のようにギンギラな瞳をして胸の鼓動が高鳴っている。

楽しい!最高!異世界に来て初めて異世界に来て良かったと思えた。


祐希がそう思うのも当然であった。

理由は単純。今、祐希たちは魔法を修練しているからである。


いつものように朝食を食べた後に始まる朝会議。今日の予定はとても最高のものだった。

賢者が少し「ゴホン」と咳き込み焦らし焦らしに言った。


「え〜今日の予定じゃが〜。お主らの中でも期待で胸を膨らませておる者もおるじゃろ。ついにこの時が来たんじゃ。魔法を学ぶとき(・・・・・・・)が」


賢者が放った言葉に魔法大好き四人は飛び跳ね舞い上がった。この時の祐希は(こと)に見られていることを忘れ、ただ単純に魔法に憧れる少年の姿であった。晴人(はると)と腕を組みながら楽しそうにその場でグルグルとスキップをしている。

晃彦(あきひこ)(うみ)は感動のあまり涙を流している。


「ありがとう、ありがとうけんじゃ〜。海、海は今日死んでもいいのだ〜」


「賢者殿!いつかこの日が、この日が来ることを待ち望んでいたのです!!」


わんわんとなく二人の姿に皆啞然してしまった。特に晃彦の泣いている姿は泣いているのかわからない。と言うのも晃彦の泣き声があまりにも特徴的すぎるからだ。


祐希たちもようやく落ち着きを見せ、賢者が魔法を訓練する場所を案内してくれた。

いつも祐希たちが勉強している長机付近にある本棚。その本棚の一番下にある本を賢者は重そうに引き上げた。本は純銀でできており、賢者の腰が今にも抜けそうで心配だった。

純銀の本が動くと同時に洞窟が大きな音と共に振動し長机の下に階段が現れた。


秘密の階段が現れ興奮している四人は置いといて、賢者を先頭に階段を降りていく。

階段を一段降りるたびに壁に埋まっている鉱石が点灯する。


階段を降りた先には、階段の上とは違う広い空間があった。その場所は以前も使われていたのであろうか。古びた人型サンドバックみたいなものや、傘立てみたいに置いてある杖の山々、床に転がっている剣、そしてこの部屋に入って一番目につくのは床一面に広がる大きな魔法陣。この部屋が訓練場であるということは明快であった。


賢者は安全を配慮し広い空間を満面に使い祐希たちの間隔を空け整列させた。


「では、早速お主らには魔法というものを見てもらおう。お主らに見せるのは、とっても簡単な魔法じゃから、参考になってくれるとありがたい」


賢者は正面に置いた人型人形に向けて魔法を放った。


火球(ファイアボール)


賢者の人差し指から放たれた魔法は祐希たちが見ているところにも熱を感じる程であった。

火球は人形の頭部に着弾した。少し焦げ臭い匂いが漂った。


「どうじゃ?特にお主ら四人さん?」


賢者はニタニタと自慢げな表情で四人の顔色を窺った。案の定、四人の瞳は眩しかった。

瞳が眩しく輝く程賢者の魔法に四人は見惚れていたのだ。


「つ、つ、つ、ついに生で拝見することができました!異世界に来て最初に魔法を使うランキング第一位!ファイヤーボール!!」


晃彦の鼻息が荒い。


今度は四人で腕を組み、グルグルとスキップしていたがいつの間にかマイムマイムを踊っていた。

賢者もここまで喜んでくれた四人に感動してマイムマイムに混ざった。五人の空気は絶頂に至っていた。


一方、五人以外のみんなは冷たい目で五人のマイムマイムを見て同じことを思っていた。

(もういいって)と…。


そして再び落ち着いた四人と賢者は魔法の理論をもう一度説明してくれた。

魔術論で勉強したこともあり、賢者が言っていることが理解できた。


「魔法は魂を源に発現することができる。その魔法を発現するのに必要なのが具体的なイメージと魔法構築じゃ」


魔法は魂を原点に流れる魔力を駆使する。魔力は人体に流れる血流のように身体を巡っている。その魔力を使い具体的なイメージを浮かべる必要がある。


例えば、先程の火球の場合だと、温度や大きさや密度、座標や速度など原子的なことまで理解しろとは言わないが具体的な情報が魔法を発現させるために必要な図面である。その図面を下に3Dプリンターのように魔法で構築していく。プラスチックで作る3Dプリンターより金属で作る3Dプリンターの方が強度が高いように、魔力を練り強度を高めたり、発動する魔法の数を増やしたりすることができる。最後に、その作られた魔法の模型のようなものに魔力を注ぐことによって現象とし現れる。つまり、魔法が発動する。


二時間くらい経っただろうか。誰しも魔力を感じ取ることすらできない。他のクラスメイトに比べイメージを掴みやすいであろうアニメ好き四人も苦戦をしている。今回ばかりは天才莉菜(りな)も同じだった。

そんなみんなを見た賢者が痺れを切らしニタニタと祐希たちに近づいてきた。


「やはり、ゼロから魔法を構築することはできなかったようじゃな〜。どれ、わしがお主らを手助けしてやろうか?」


手助けと聞いて何が起こるのか期待するなか、賢者が床に魔法陣に魔力を注ぎ込んだと同時に祐希たちに電気のようなものが身体中に走った。


「どうじゃ?何か感じるじゃろ?それが魔力じゃ。今、わしは魔法陣を経由してお主らの身体に魔力を注ぎ込んどる」


祐希は自分の体に起こっている現象におろおろしつつも、ギュッと拳を握り締めこの瞬間を吟味している。


(この身体中に走っている電気のようなものが魔力…。身体の中隅々に神経がはたらき研ぎ澄まされたような感覚だ。)


祐希は深呼吸をし、身体中に神経を張り魔力の根っこ、魂の形を模索し始めた。


祐希以外のクラスメイトも祐希と同じことを試しているかのように思われたが、そうでもなかった。初めて感じる魔力に吐き気を催し嘔吐する者、目眩や頭痛が生じる者。初めての魔力を流しても平気だったのは祐希、(はじめ)圭吾(けいご)、海、優華(ゆうか)の五人だけであった。


そんな祐希たちを賢者は笑いながら胡座をかいている。賢者は知っていたのだ。魔力を感知したことのない人が魔力に触れた時どうなるのかを。しかし、賢者は黙って祐希たちの様子を見ていた。


「頑張るんじゃ〜。わしは魔力というのも感じさせる手助けをしたんじゃ。しばらくの間この魔法陣は展開しておくから、後はお主らで魔法というのを開拓していくんじゃな」


そういった賢者は膝に手を乗せゆっくりと立ち上がり、嘔吐している者など気にせず祐希たちを横切りスタスタと階段を上っていった。


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