背中
露天の誘惑や全ての屋台に吸い込まれていくスゥを操作し観光を満喫、カジノにつく頃には夜になっていた。いやーなかなか観光したけど荷物になるから買い物が思うようにできなかったのは心残りだな、まぁまた来れるだろうからその時までに目星をつけておこう。
「ちょっと離れた所にカジノってあるんだな」
「どうしても中心は場所の確保ができなかったみたいですよ、
ここへの交通手段も中央や飛空艇乗り場からの定期便を予定してるみたいですし」
「それにめちゃくちゃデカくないか?」
「オープンしたら最大のカジノになる予定らしいです」
「ほぉちょっとワクワクしてきたな、ってもオープン前だし実際に遊べるわけじゃないんだよな?」
「そうなりますね、内装や設備はもうほとんど出来てるらしいんで雰囲気は楽しめますよ。後は宣材写真撮ったりとかそういうのはお客さんがいないんで、逆にやりやすいかもですね」
「なるほどなー、まあ下見ってそんなもんなのかな?」
「どうなんでしょうね? 実際稼働しているところや、周辺の宿泊施設や交通状態がわからないことには滞在時間も移動時間も読めませんし。現状だと本当に見ただけになる気もするんですよねー」
スゥが真面目っぽいことを言っている。
「それに私としてはカジノにツアーでってなると、メインはカジノのわけですし。私達としては周辺のちょっとリッチな宿泊施設やランチやディナーやスパなんかの調査を固めた方が良いような気もするんですよね」
スゥが凄く真面目だ、というか観光業根付いてないんじゃなかったの?
「観光業は根付いてないって聞いてたんだけど、スゥはちょっと詳しすぎやしないかい?」
「いやー私達エジアルハには、元々流浪の行商人だった一族が多くて旅の話もよく聞きますし、今も旅好きな人が多いんですよ。それに根付いていないだけで存在しないわけではないですし」
「なるほどね、それで詳しいのか」
「後は転移者さんから集まった情報とかも元にはしてますね。こっちの世界からするとシラカミさんたちの世界は異世界ですし、そこの情報はみんな知りたがりますからね。こっちでは本になってたりするんですよ」
「へぇーそれでこっちの文化や物にみんな詳しいのか、うん? でもみんなそんなに詳しかったら俺がいることの優位性ちょっと薄くない?」
「…………えー私達から見て異世界人の方の生の声が聞けると言うことがですね、我が社の優位性であり、なによりも励みになると思います、はい」
あってからそう長い時間でも無いけど、見た中では過去で一番スゥが微妙な顔をしていた……。
「そうか………俺、頑張るよ…………」
「まぁまぁ、そんな冗談は置いておいて、シラカミさんも元気出してくださいよー! 諸々の事情込みで異世界人の方が働いてくださると助かるのはホントなんですから。 さぁカジノ入っていきますよ!」
「ねぇ、それほんとに冗談!? ねぇ、スゥさん?」
気にせずスゥさんはズンズンカジノに向かっていった。
入口にドラゴンブレスを吐きそうな屈強なドラゴニュートの守衛が警護していたが、入館証を見せたらあっさりと入れてくれた。身内パワーを感じる。
「おぉ!すごいゴージャスだな!」
内装は白を基調として所々に金の細工が施されていて、吹き抜けのエントランスホールの天井には螺旋階段のようなシャンデリアが天井から伸びてきている。その灯りで照らされた天然石の床は鏡のように磨かれていた。
「ドラゴンのセンスで作ったとは思えないぐらいにスッキリした内装ですねぇ、もっと金ピカになってるかと思ってました」
「こっちでもドラゴンって金銀財宝が大好きなのが一般的なの?」
「みんな金銀や宝石大好きですよ。エジアルハは特に金が好きで家に金塊隠してたりするんですが、それがバレててよく泥棒に狙われるんですよね。」
「へーシーフってやつか、あーちょうどあんな感じの見た目の奴?」
「あーそうですね、ちょうどあんな感じの黒づくめが……えっ?」
「うん? それに……なんかあいつら、ちょっと見覚えがないか?」
「奇遇ですね、シラカミさん私も同じことを考えてました」
全身黒ずくめの集団が金になりそうな物を詰めた袋を担いでえっちらおっちら徘徊して、限界まで詰め込める物を探している。ちょっとその気持ちはわかるよ一回で持ち物の限界まで探索したくなるよね。
それに盗みに真剣に向き合っているからか、こっちには気がついていないようだ、その熱意で現実と向き合っていただきたい所では有る。
あっ、こっちには気がついた、手でも振ってみようかな。
「あっアニキ! 侵入者です!」
「バカタレ!侵入者は俺達だろうが!後もうちょい静かにしやがれ!」
安全距離だと思ってのんびりしているけど実際に戦闘になったらどうしよう、高そうなシャンデリアとか傷つけたくはないし、別に魔術も練習したわけじゃないから自信はない。そう、なにを隠そう私は転位者のわりには全く強くはないんです!
スゥが俺を守るように前に出る、いつもの頼りになる背中だ。
「シラカミさんは下がっていてください!なにかあったら大きい声で守衛さん呼んでくださいね」
「守衛さん、助けて!ここに、泥棒がいます!!!」
脊髄反射の反応速度、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。それに自慢じゃないけど結構いい声が出せたと思う。こちらを振り返ったスゥの顔を見る勇気の方は出力が出なかった。
「おい!そこのお前!自分の力で戦ってみようとか、そういう恥や外聞みたいなものはないのか? 女の子の後ろで大声で助けを呼ぶのは結構恥ずかしいだろ!?」
盗人猛々しいとはこういう時に使うんだなとは思った、でもごもっともです。
「うるさいぞ盗人!こちとらこんな可愛い女の子に守られっぱなしで最早プライドなんて無いッ!むしろ羨ましいだろ!」
盗賊団がざわつき始めた、うんうん色んな意見が出るというのもわかるよ。でもそんなことしてる場合じゃないと思う。
後ろから重量感がある足音が聴こえてくる守衛さんはもうすぐそこまで来てくれている。
「いや、お前ら!あんな情けない奴はほっといて逃げるぞ!」
「すいませんアニキ、あまりの情けなさに呆気に取られました!」
盗賊団は踵を返すと一目散に逃げて行った、とりあえず二人共無事で良かったよ。盗まれた物はいくつかあるし俺はなにか大切な物を失った気がするけど。それは後々取り返して行けばいいからさ…………。
「御二方、ご無事ですか?」
自滅の傷だけど心以外は無事です。
守衛に二人共怪我はないことと、出合った盗賊団の数と特徴を伝える。
その後に守衛から壊された箇所の点検と残った者がいないか調査のため閉鎖をするから申し訳ないが今日は出直してほしいと告げられた、仕方ないけどそういう日もあるよね。
スゥと共に外に出る、さてどうやって初手の会話を出すか自業自得なんだけど話しづらい。
「そういえばさ、盗賊団って追いかけたりしなくてもいいのか?」
当たり障りなく自然な感じで、なおかつシンプルな疑問でいこう。
「それなら大丈夫ですよ、お父様は自分の物、尚且つ高価な物には呪いをかけていますし。場所もすぐに分かると思います。むしろあの盗賊団が気の毒なくらいですね。」
良かった、もっとこうスゥに幻滅されていたらどうしようかなと思ってた。でもかわりに呪いって怖い単語が出てきちゃったな。
「やっぱりその呪いって、おっかないやつなの?」
「うーんどうなんでしょうか?私も噂でしか聞いたことはないんですが、アルハザールからスリをしたらその者の指が腐り落ちた。とかアルハザールのバザールで盗みをしたら、次の日にはその者はアンデットになって荷車を引かされていた。とかは聞いたことはありますね」
「がっつり呪いじゃん!」
「まぁこういうものは尾ひれがつくものですし」
スゥは笑って答える。
「なぁスゥ、さっきのカジノの中での俺の行動ってやっぱり……」
「そりゃあ、女の子の前なら格好の一つぐらいつけれたほうが俺は良いと思うぜ?」
やっぱりそうか……そうだよな。なんかちょっとしたうちにスゥの声が野太くなった気がする、俺のメンタルの問題かな、それに一人称も俺になってるし……。
「シラカミさん!そいつから離れてください!」
声がした方を見ると見知らぬ人影。
スゥが風のように俺と人影の間に踏み込む、突進の加速力を乗せまるで突風のような肘打ちは、人影の鳩尾に正確に吹き込む。
「でもまぁ、この女の子の前で格好をつけるのは、ちっとばかし力がいるかもな」
男は涼しい声で返事を返し、スゥの一撃を片手で受け止めカウンター気味に鋭い前蹴りを放つ。
スゥはバックステップが間に合って間一髪でかわせている。
男は網笠を投げ捨てた、この場に似つかわしくない着物が風にはためいていた。
「はじめまして御二方、当方はサクラと申す者。まぁこれも依頼だからさ、あんちゃん俺と一緒に来てくれるかい?」
サクラは腰の刀に手をかけ、ゆっくりと抜刀し正眼に構える、抜刀の軌跡と刀身には桜色の残光が煌めいていた。




