残さず食べるの花丸です
「いい反応です、やっぱり飛空艇は驚いて貰えるのですねー。これは転移者様やあまり飛空艇を見たことないような他の大陸の方に喜ばれるかもですね」
「これは流石に驚くよ!あれって乗れるのか?」
「乗れますよー、明日にでも見に行きましょうか。」
スゥは飛空艇よりもおやつ袋に夢中だ。
「スゥさんや行儀が悪いから食べ歩きはやめなさいよ」
「まっまだ、食べ始めてはいないじゃないですかぁ!?」
スウはそういいながらも歩きながら袋の中身をまさぐっていた、手触りと音で我慢しなさい。
「それにカジノに行くんだろ、そこに行くまでに露店や屋台なんかも有るだろうし、せっかくだからそっちを食べよう。おやつでお腹を膨らませたら、もったいないって」
「うーん、これしきのおやつでは、お腹いっぱいにはなるとは思えませんけど……まぁ、一理ありますね……」
表情から葛藤があったのが感じられる、ドラゴンの血が流れていると代謝が良いんだろうか。
スゥ達は竜と人の混血種族で竜人やドラゴニュートとこの世界では呼ばれている、血の濃さや家系なんかで見た目や呼び方は少し違うらしいけど大まかにはそれで通じるらしい。
そしてここ、風竜の大渓谷はそんな竜人達のホームなだけあって西王都に比べると竜人が多い、至る所に多様な見た目の竜人がいる。ここ風竜の大渓谷のいる竜人たちはアルハザールの直系血族であるとして種族名にエジアルハと名乗るのだとか。
ざっと観ただけでも独特の生活様式や宗教施設っぽいのがある街を観て回るだけでも一日あっという間に過ぎ去りそうだ。
「どうしたんですかシラカミさんキョロキョロして、なにか面白いものでも見つかりましたか?」
「面白いものばっかりだよ!?」
スゥは落ち着いている実家か、実家だったわ。
「私からすると里帰りみたいなものですからねー見慣れた景色といいますか。 あっ、ミョルズのおっちゃん串焼き二つ!」
あいよ、という声と共にしっかり顔面までドラゴンのおじさまが串焼きを手際よく焼いてくれている、香辛料の香りと焦げた脂の匂いがが食欲をそそる、なんの肉かはわからないが……。
「はい、シラカミさん串焼きです。 ミョルズのおっちゃんの串焼きは美味しいんですよー。 子供のころこの辺で遊んだらよくおやつに食べてました。」
「ありがとうスゥ、すごく美味しそうなんだけどなんのお肉か聞いても」
「おうっ、心配するな異世界からきた兄ちゃん!そっちでいう羊みたいもんって現物見た異世界からのお客は言ってたぜ。まあ変なもんお客に食わしたりはしねーよ!ガッハハハ」
威勢のいい声で手慣れた説明が飛んできた、もしかしてこ
の異世界は石を投げたら転位者に当たるぐらいの感じなのか?
渡された串焼は羊肉と言われたら羊肉に見える現代でそんなに羊なんて食べる機会はなかったから、まあよくわからないんだけど。折角の機会だしご相伴に預かるとしよう。
炭火と直火両方で炙られた肉は余分な脂を落とし、外は香ばしく中はジューシーに焼き上げられていた。肉の脂と絡む粒の大きい塩の絶妙な塩味が下の上で転がる。店の外に香る香辛料の香りからエキゾチックな味を想像していたが、肉の臭み消しに使われている程度で主張は強くなくむしろ後味をさっぱりとさせてくれている。シンプルだがよくできた串焼きだ……。
「うっ……旨い!!」
「ガッハハハ、どうだ兄ちゃん!旨いか! これでもヒューム向けに日夜研究してるんだ。俺達の味覚に合わせるとヒュームはみんな臭いだの硬いだの火の通りがどうたらと食べちゃくれんからな」
「私も昔ながらのエジアルハ料理は少し苦手ですけどねー。 あっミョルズさんもう一つください。」
「なぁっ!! これだから最近の若いもんは! 誇り高きエジアルハとして伝統を守らんかい、伝統を!」
こういうのはどこも同じようなものなんだなと思うと異世界でも少し安心した、見た目は違ってもやっぱり人なんだよな。
「ミョルズさん!それスパイス少なくしたでしょ!それにそのタレ!」
「黙らっしゃい!たまには故郷の味を思い出しな! そうだ兄ちゃんにも一本サービスだ、あんたらここに旅行客呼んでくれるんだろ? うちの店を紹介して貰わないと困るからな。毎度ありー!」
半ば強引に串焼きを二本渡された、俺のは普通の串焼きだったけどスゥのやつはほんのり血が滴りタレ付きで照り照りしている。
「シラカミさん、交換しませんか?」
「しない」
食い気味に答える。
「たっ食べてみたら美味しいかもしれませんよ!?」
「しない」
自分の串焼きを食べながら歩き出す。
なんかちょっとかわいそうな気もするが、口は災いの元で自業自得ってやつだ。
「これは現代っ子には味付けがワイルド過ぎますよー、まあ食べるんですけど。」
普通に食べるんかいとは正直思ったけどまあ残すともったいないしね。
「ところでスゥ、その串はどんな味なの?」
「それなら一口食べてみます?」
おっ、それは美少女との間接キスってやつでは!
「はいどうぞ」
串から一ピース、そのまた半分をスゥさんは素手で引き裂き手渡してくれた。うんパワフル!それに焼き加減だいぶレアだね!
「これが……伝統的エジアルハの味か……」
意を決して口に含む……うん!さっきまで食べてたのよりも血なまぐさいし獣臭いしなによりも硬いが不思議とその奥にコクのようものと風味がある、さっき塗っていたソースなんだろうけどこのソースもクセあるなぁ……。
「シラカミさん、大丈夫ですか?」
「(もっちゃ、もっちゃ)だいひょう(もちゃ)ぶだよ(もちゃあ)」
「案の定噛み切れてないですね」
なに食わぬ顔で咀嚼しているスゥにほんのりと恐怖を感じる、それぐらいの硬さだ。でも折角頂いたものだし自分から食べたものだから飲み込もう、エジアルハの伝統に敬意を払って。
「ふぅ、なかなかワイルドな伝統だね」
「おおっ、よく飲み込めましたね。あのお肉を飲み込んだヒュームを見たのはシラカミさんが初めてです、もしかしてなにかそういう能力もギフトされてます? はい、どうぞ。」
スゥは露店から飲み物を二つ買ってくれていた。
そういう能力があったらもっと楽に食べれただろうけど、どうせならもうちょいいい能力が欲しいよなぁ。というかチート使うレベルの食べ物ってなにさ。
「ありがとう、スゥ」
渡されたのはグラスに入った緑茶のような液体だった。
「お茶です」
「お茶かぁ」
もうちょい説明が欲しいけど、もうここまできたら飲んでから評価しよう。
飲み物を口に含む、苦くて、甘い。緑茶のような渋みのある苦みに砂糖の甘み、それになにかハーブの風味が鼻に抜けて口の中がさっぱりとする。野性味のある料理の後味をこういうもので消すのかもしれないな、これはちょっとクセになりそうな味だ。
「初めて飲む味だけど、これも美味しいね」
「このお茶もエジアルハの伝統ですねー、ハーブや砂糖の量でそのお店の味が有るんです」
「へーまた一つエジアルハの文化を知れたよ、ありがとう」
「どういたしまして、次はどこに行きます? 食後はやっぱり甘い物ですよね」
そぅだなぁ、食べ物も気になるし生活様式も気になる、特産品は何なんだろうなぁ、仕事らしい仕事はしてない気もするけど先輩がこの調子だし、まぁ大丈夫だろう。
「よーし、時間まで満喫するか!」
渓谷に降り注ぐ太陽はまだ高い位置にあった。




