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おやつは銅貨5枚までですよ


 事務所の地下、入口に関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開けると床に魔法陣が書かれた一室があった、壁は両側が本棚になっていて正面の壁には黒板のような物と張り出された紙で物品の管理をしているようにみえる。


「地下はほとんど物置なんだけどここは移動ポータル部屋にしたんだ、提携してるポータルに移動ができるよ。たまにポータルでここに来る人もいるから、もうちょっと綺麗にしたいんだけどねぇ」


 バルさんは頭をかいている、管理職というのも色々有るんだよな、異世界でもその辺は変わらないんだ。スゥが黒板に行き先と二人分の名前を書いている、女の子らしい丸文字だな。


「本来ならポータルを使う時は店長に使用申請を出して、転移前にここに行き先と名前を書くんですよ、そうすると転移先にある同じようなボードに、ここに書いた文字が浮かび上がるので転送されてくるのがわかる仕組みになってます。」


「なるほどわかった、便利なもんだな」

なんか貸出の物品管理っぽい感じか?


「準備ができたら魔法陣の中へどうぞ、おやつは持ちましたか、銅貨5枚までですよ?」


「いや、そんなドヤ顔でおやつ袋出されても、それにそれいつ買ったんだ?」


「遠征の前日に買うんですよ、今回は何にするか悩むのが楽しいんです。今回は心配しなくてもシラカミさんの分も用意して有りますよ、安心してください」


「あ、ありがとう、でもなんかこういうの久しぶりで嬉しいよ」


 魔法陣の中におそるおそる踏み入る、なんか見た目だけなら罠っぽいし初めての物はやっぱりドキドキはする。


「スゥも入ったねじゃあ行くよー」

バルさんが本棚から取り出した本をパラパラとめくる。


「風竜から提言する、旅の神ヘルメシアよ旅人に霊脈を渡る力と加護のあらんことをポータルワープ」


 呪文の詠唱が終わるとバルさんは本を閉じた、魔法陣の中が青白く光り視界が光で覆われていく。


「じゃあ二人とも行ってらっしゃい、お土産は悪いから気にしなくていいよ、後お父様によろしくね。あっそうだ、それと」


 バルさんの声は途中で途切れた、転移が始まったみたいだバルさんはいい人だけどちょっとのんびりしてるというかマイペースな所がある。


 光が晴れるとそこは白を基調としたアラビアンで綺麗なエントランスホールだった、ラウンジまで併設されている。でも内装の飾りっ気は少ないきっと従業員用なのだろう。魔法陣から出た時に踏んだ絨毯は高給な踏み心地で思わず気が引けてしまった。


「シラカミさん、こっちですこっち〜」

 スゥがエントランスホールのカウンターで手を振っている、こういう状況で物怖じしないとは……。もしかしていいとこのお嬢さんなのか? いやそれだとしたらおやつに銅貨5枚は庶民的過ぎるきっと違うな、うん。

 カウンターの中にはさっきスゥが使っていた黒板のような物があった、名前が浮かび上がったり消えたりしている、なるほどここみたいに転送の回数が多いとブッキングしたりするからなんだろうな。

 受付には褐色美人でスーツのお姉さんが立っていた、糸目で優しい笑顔に涙ホクロが映える、パリッとしたスーツでお胸が苦しそうだ。


「スゥ様とシラカミ様ですね、お待ちしておりましたこちらが入館証になります。関係施設及びこちらの関係者用ポータルの利用に必要になりますので、無くさないでくださいね。」


「何時もありがとうございます、ギーナ。」


「ふふありがとうスゥちゃん、そっちの方は彼氏さんかしら?」


「ちちっ違いますぅ! もぅからかわないでくださいよー」


「そう? なかなか素敵そうな人だけど、私はギーナよろしくねハンサムさん。」


「よっよろしくお願いします!」

ハンサムさんなんて初めて言われた、ギーナさんの笑顔が眩し過ぎる嬉しい正直に嬉しい。今日はハンサム記念日だ。


「社交辞令はこれぐらいにして、ここからは耳寄りの情報タイムね、あなた達アルハザール様の巨大カジノがオープン予定なのは知ってるかしら?」


 社交辞令だった、いやまぁ嬉しかった喜びを胸に明日の糧にしよう社交辞令でもないよりはマシだもんね。


「カジノの件は、話ぐらいなら聞いていますねー。わざわざギーナが話に出すということは、もしかして中に入れたりするんですか?」


 ギーナさんはウィンクしながら答える、眩しい、光のようだだ。

「そういうこと、うちの系列でカジノの宣伝になりそうな仕事の奴が来たらこの話をするようにとアルハザール様から受付一同言われてるの」


「なるほど、だいたい読めて来ましたね。ギーナありがとうございます、また今度ご飯行きましょう」


「じゃあねスゥ良い旅を、ハンサムさんもスゥをよろしくね。」

 

「ありがとうございます。では、また今度」

 軽く手を振りスゥと共にカウンターを後にする、ギーナさんも小さく手を振ってくれている、美人さんだったなーこの距離でもほんのりいい匂いしたもん。


「まーた、シラカミさんの鼻の下伸びてますよ。ギーナは大人っぽいですし美人ですからねー羨ましい。」


「それはそうだけどスゥも可愛いよ?」

 スゥも十分美少女だ、最近は小動物的な雰囲気を感じ始めたけども。


「そう言ってもらえるのは、ありがたいんですけど、私のほうがギーナより一応年上なんですよねー。うーん種族差かなぁ」


 まぁこの子ったらなんて贅沢な悩みだことっ! でもギーナさんは人間族っぽかったしそうなると竜人って成長遅い種族なのかもな、でもおやつをワクワクで買ってくるスゥって実際幾つなんだろうか。


「とりあえず今日はどうするんだ、カジノ目指すのか?」


「そうですねぇ、カジノも気になりますがああいう所は朝から行く所でもないと思うので。先に街の中やバザーをシラカミさんに見てもらいながら、ネタ探ししましょうか。カジノは後で見に行きましょう」


「先輩のスゥの提案に従うよ、俺はまだなにもわからないしな」

 俺にとってはなんだかんだでスゥは頼れる先輩だ、直接言葉で伝えた方がいいのかもしれないけど然るべき時にしておこう、突然いい出すのも変だしな。


「ではバザールを目指しましょうか、それと美味しいお昼ご飯です!」


「いいねそうしよう、スゥのことだからご飯は期待できる」


「任せてくださいよー、経費で食べれるご飯なんて最高ですからね」


 半地下のエントランスホールからスゥは日差しを受けながら階段を駆け上がっていく、短い間に見慣れたスゥの背中を追いかける。小さいけど頼もしい背中だ、頼りにしてるぜ先輩。


 エントランスホールから外に出て最初に目に入ったのは赤褐色の尖った岩の壁、岩の色味は違うけど中東の方にこういう渓谷が有るってのはテレビかなにかで見たことある気がする。

 大渓谷っていうぐらいだし広いのは想像してたけど横以上に縦にも広い、岩肌をくり抜いてまるで蟻の巣のように縦にも生活スペースが広がっていた。

 今自分が出てきたここも渓谷の岩をくり抜いた場所だったようだ、そこから視線を下げると、アラビアンナイトのような世界が眼下に広がっていた。

 色とりどりの天幕に露店、ロープを渡して干される洗濯物に土壁とレンガで建物を作る職人。

 遠くに渓谷が天蓋の骨組みのように広がり岩肌が広く切り開かれた場所が見える。巨大な垂れ幕や看板からしてバザールだろう、買えない物はなにもないって言うのも信じられるスケールだ、こんな広さ一日ではとても回りきれないだろう。


「おおっ、凄いな……」


「シラカミさん『アレ』見てください」

 スゥは空を指差した、あの岩肌は凄いけどそう何度も観てもすぐに感動の上書きなんて無い……。


「アレって、もしかして……飛空艇か……!?」


「ようこそ、『風竜の大渓谷 ヤディーフ・イフ・ワディ』へ!」


 異世界キターーー!!!

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