ようこそアルハザールの風へ! その2
どうやらまだ日が明るいうちに王都の入口まで着くことができたらしい、騎竜というものは速いし快適それに女の子のホールドまでついてくる、それとそろそろお別れかと思うと名残惜しいな。
「これが、王都か…!」
外からみても綺麗な街並みだったが、近づくとより一層異世界というか異国情緒を感じられる。石とレンガ造りの建物なんて日本では珍しいし、それでできた街なんて直接見たのは初めてだ。
「正面をご覧ください、ここが西の王都『テマルシア』です、正面に見える開け放たれた門が西門の『熱砂の門』ですね。第一次魔王戦争の頃に砂漠を越えてやってくる魔物たちの進行に備えるべく城壁と共に作られ、第二次魔王戦争まで使われました。現在では都市の拡張や魔王の不在でその仕事を終え無用となりましたが一度も破られたことが無いその門は現在では縁起物として観光名所になっています」
いつの間にかスゥの手には手旗が握られている、そういえばこの子は旅行代理店の子だったな。
「へーそうなのか、ところでなんの縁起を担いでいるんだ?」
「けして破れなかったということから、それにあやかってここで結婚や婚約の約束をすると破れないで末永く続くとか、ここから旅立って商談の約束ごとをすると破られないで済むので上手くいくとかですね」
「約束事のゲン担ぎなのか、せっかくだけどまだお世話になることはなさそうだな。商談の予定もないし結婚は相手探しからだし。縁結びの神様なら齧り付いてでもお願いするところなんだけど」
「縁結びですか、ふむむむむ、近いものはテマルシア内にもありはしますけど、ものすごく乙女チックで女子力高めの空間になりますのでシラカミさんにはすこしハードル高めかと……」
「ひぇ、また今度にしておきます…。」
アラサーのギリギリお兄さんが若いキャピキャピ女子力縁結び空間に突入し出会いを祈りだすのはなかなかにビジュアルが強烈だ、なんなら周りの視線だけで体力は削り切られるかもしれない……。
はとバスツアー気分で門を抜けた先は石畳の大通りに行き交う馬車や乗り物、ちゃんと歩道まで整備されている。整えられた街並みに行き交う人々は様々な種族だ。ポケットの中にスマホが無いのが悔やまれる、写真撮りたかったな。
「ところで門も抜けて騎竜でどんどん進んで行くけど街に入るのに手続きとかはいらないのか?」
「その辺はご心配なく、領内からテマルシアなら特に手続きは必要ではないですし、転移者のシラカミ様の登録手続きも済んでいますので。最近はなんでもタブレットと魔法で済むようになりましたからねこれも転移者様々です」
「便利な世の中なんだな、想像してた異世界より発展してるというかこっちの世界に近いというか、これなんか信号機だもんな」
目の前には信号機と思わしき三色の光るライトがある、竜に乗って信号待ちをする体験はなかなかできるものじゃない。
「転移者様はみなさんこれ見ると 『シンゴウキジャン!?』 って驚いてくれるんですけど、シラカミさんクールですね。ちょっとショボんです」
「いや十分驚いてるよ!? 開いた口が塞がらないってやつだから」
これまで短い時間に色々見たしあったからリアクションもどうしても薄くなってしまうのは仕方ないよね。
「とりあえず信号機はウケたということにしときます。」
スゥの尻尾がフリフリと視界の中で揺れる、すこし不服なんだろうか。
「なぁスゥ、写真ってか風景記録みたいなのはタブレットで出来たりするのか?」
「写真? ああー!映像なら取れますよ、転移者の方々は映像取るの好きですもんね。それなら先程の門の所で撮ればよかったですねー失敗です…。」
今度はシナシナと尻尾が視界で揺れる。
「いやいいよ、これから毎日観ることになる風景だし、それより目的地についたら一緒に写真を撮ろうよ。転移と就職記念に、それにどうせならスゥとの写真をこっちでの一枚目にしたいし。」
「そっそうですか…! 事務所前なんて味気がないですしそれこそ毎日見るわけですが…それを言われたら仕方ないですねー!」
今度の尻尾は嬉しそうだ。
大通りから右側にしばらく走ると建物の造りが変わり始める、さっきまで石とレンガで作られたカベだったものがレンガと土作りに変わって行く何処となく中東っぽくもある。それに庶民的な店が増えてきた、露店や軒先に商品を並べている店もあるし、食品や日用品の店みたいなのが集まってる市場みたいなものかな。
「この辺りはテマルシアの南側で商人街になります。高級志向ではないですがここのバザールは活気もありますしだいたいの物は揃います。良いところだと思いませんか? 特にあそこのサンドイッチ屋さんがオススメです、お肉たっぷりなんですよ。せっかくですし幾つか買って食べましょう」
「いいね、ちょうどお腹も空いてきたところだし最高の提案だよ!」
スゥから手渡されたサンドイッチにはこれでもかとジューシーな肉が挟まれている、味付けはシンプルに塩味となにかの香辛料だけだが、これだけ肉を挟めば肉の味で十分旨いしシンプルなのが肉の味を引き出している。牛っぽい味だけどなんの肉なんだろうか。
その後も休憩がてら騎竜から降りて何軒かスゥのお気に入りの屋台を教えてもらった、お腹はいっぱいだ。後でスゥに代金返さないとな。
露店からの焼けた肉の匂いと店先の香辛料の香り、至る所で聞こえる注文や雑談の声、時折吹く乾いた風が心地よい。
「スゥのお気に入りの場所か。良いところだな」
「本当に良いところですよね、シラカミさんにも気に入ってもらえて良かったです。」
いい場所にいい景色の笑顔までついてきたら大満足だ。
「そろそろ移動しましょうか、ここからならすぐ着きますけどあんまり遅くなるわけには行きませんし」
サンドイッチ屋付近からスゥは騎竜を走らせ、中東風の二階建ての建物の前で止まった。騎竜を繋ぐための馬屋ならぬ竜屋まである。
スゥが騎竜を竜屋に繋いでくれた、これで快適な騎竜の旅も終わりを告げる。快適だったけど結構乗ってたし背中とお尻が凝る感じはするな。
「想像してたよりずっと立派な建物だ、二階も空いてて絶賛従業員募集中って話だったからもう少し小ぢんまりしてるのかと思ってたよ」
「アルハザールお父様は古の大ドラゴンらしくプライド高く、おまけに大金持ちの大商人ですからね…。『安い見た目の店なんか持つと兄弟姉妹にどんな嫌味を言われるかわからんから。』と言ってたと思うと気がついたらこれが建ってました……」
この世界のドラゴンはマネーパワーもパワフルらしい、隙が無い無敵の生き物なのかもしれない。まあ財宝の山で眠るドラゴンの話とかは昔読んだ事あるしそういう感じなのかな。
そんなことを考えているとポケットから契約書のドラゴンが飛び出し燃え尽きた、契約完了ということらしい。目的地に到着だ。
「スゥ映像撮ろう、記念すべき一枚目。っても俺のタブレットじゃないから一枚目ってのも変な話か」
「そこは任してください、後で送ります」
結局、ここまで乗せてきてくれた騎竜とも一緒に撮った、騎竜の名前はアマルというらしい。




