63「終幕した危機」
今回の騒乱は【キメラバースト事変】と名付けられた。フェルデン連合王国史にそう記されるそうだ。
死亡者六十三名。
行方不明者は四十余名。
王国の首都が戦場になった衝撃は大きかった。
首謀者はだれか? 当面の危機が去り王政の関心は、今は犯人捜しへと移っていた。
元クラスメートのアバターは消滅。しかし本体の赤ん坊、前世名三城信威はどこにいるやら。まだどこか近くで生きている。まあ、魔力をなくしたなら、もう無害でしょう。無視無視。
しかし真の敵は他にいる。僕には分かる。
間違いない。敵の黒幕はあのメッセージのヤツだ。スキル【統率】と言っていた。触手のヤツはキメラの力をもらい、本人も気が付かないまま操られていた――。に違いない。知らんけど。
人を操り、そして王都を壊滅させる。その先には――。
お父さんとお母さんは、時々仲良くコミュ喧嘩しながら結局ラヴラヴしている。
そのうち新キャラに妹を所望したいなあ。
ドM令嬢ハウスマンス・ノルーチェ嬢は、家庭教師に教えてもらいながら、貧民街の復興を手伝っている。護衛役はフェリクス叔父さんとハイキックのクリューガー・スミッツだ。大学院はまだ休校中だし、これは二人も望んだ仕事。お近づき中の二人だ。
僕も時々は夜の警備(夜遊び)で覗いている。
さてさて。
僕の活躍で勇者仮面の人形は売れているらしい。やったね。なにせ聖人ミカエル・コサキだもんね。
しかし――。
森のクマさん人形は超爆売れだそうだ。くやしい。
更に付け加えるなら、薔薇の騎士人形の売り上げが猛追しているそうだ。
そして二歳の誕生日がやってきた。王都ハウゼンはまだ騒乱の後始末中。そんな状態なので誕生会などの集まりは特になかった。
父方のお爺ちゃんとお婆ちゃんを呼んで、家族だけのささやかな食事会を開いただけだ。
「旧態依然とした制度の見直しはキリがないですね」
「そう言うな。枢密院も議決案件が多くて、皆張り切っておる。年寄りの冷や水だな」
王都とその周辺はまだ、事変の復旧が続いている。魔獣の出没も今までよりは多かった。
お父さんとお爺ちゃんの話は自然と王政の話となる。
「例の件はどうです?」
「ああ。まさかまた、ハウスマンス公爵家の令嬢が直訴してくるとはな。動かざるをえんわ」
「良い話だと思いますよ。幼年期の王政実習会。良き勉強の場になります」
貧民街復興の件だ。それを実習会まで制度化するの? ドM令嬢は権力を使ってやりたい放題だな~。でも切っ掛けは我が家だから仕方ないか……。
「実現すればアル君もそのうち参加よ」
まっ、しゃーない。
「はーい、はい~」
僕は言葉を順調に覚えていた。うっかり喋りすぎないように気を付けないとね。やはり転生者だとバレるのは大問題だろうし。
戦いは、とりあえずは終わった。
だけどクラスメートは、たぶん他に十数はいるはずだ。正義の味方系は、今は僕を含めて三人。
あのメッセージのヤツは、必ず再戦を仕掛ける。また戦いを始めるだろう。
そして夜。招かざる来訪者がまたもやって来た。噂をすればだ。
『二年A組の諸君。聞こえているか? 俺はアスモデウス。この異世界を【統率】する者だ――』
ありゃ。名前が付いたね。センス悪いけど。オレオレ詐欺じゃなくなったんだ。悪魔の名前かよ。らしいね。
『俺たちの力を結集すれば、ここに俺たちの世界を作り出せる。しかしこの俺に従わず、反抗する者がいるようだな――』
ああ、それは僕だね。それとユルクマ。悪役令嬢騎士も。
『――失望したぞ……。今こそ我らは力を合わさねばならんのだ! 集まれ。我が元に』
つまらない演説じゃあ、聴衆は集まらないさ。ちょっとは成長すれば?
現実を前にして、口だけ番長のなんと虚しいことよ。文句があるなら、出てこいや! 【統率】とやらを使い、あんな引き籠りを利用しようだなんて。
ならこっちは、配下(ユルクマと悪役令嬢)をけしかけてやんよっ!
『二年A組の下僕どもよ。裏切者を許してはならない』
僕はちょっとコイツに飽きてきた。興味をなくしつつあった。あんた、もうすっかりオワコンだぜ。
『処刑リストを発表する。以下の三名を格の順にこの世界から抹殺してやる。
一、【森のクマさん】と呼ばれるネオビースト。
二、バトルフェアリー、【薔薇の騎士】。
三、【仮面勇者】。一番格下のバーサーカーだ』
何――っ! 僕が一番の格下だと!?
僕は中流なので、せめて二番になりたいな。
『八人の大聖女とかいうやつらも、まとめて殲滅してやる。死にたくなければ我に従え』
興味なしは撤回。これから粘着してその処刑リスト共々、そっちを排除してやる!
代わり映えしないメッセージは終わった。戦いはまだ続きそうだ。
ピンク子猫が部屋に入って来た。
またアレが訪ねて来たよ。
『聞いたである』
まっ、どっちの世界にもおかしなヤツはいるんだよな。
『どうであるか?』
どうでもないよ。話しぶりからは、恵まれて偉そうにしていたヤツなんだろうけど、誰かなあ?
『アルデルトが【統率】されないか、ローデン聖教は心配しておる』
されるやつなんているかなあ? いや。一人いたか……。
あの同級生の名は三城っ言って、学校にほとんど来なかったヤツなんだ。ちょっと道を外してね。僕はそんなんじゃないし大丈夫さ。
『問題なし、と報告しておくである』
うん。問題はメッセージの本体だ。あいつ八大聖女を敵認定してるんだね。
『この世界そのものを、である。他の世界から来たればこそ……』
僕はここ、好きだよ。なにもかも。
『私がアルの世界に行っても、そう思うであろうか?』
さあ? どうかなあ……。
魔力を通じて知識を得るのがこの世界。ゆえに人の進化は早い。間違った道でも。
それが僕の感想さ。
新聞、王都ウイークリーは毎週王都の被害や犠牲者についてなどを報道していた。
そしてやっと、僕の順番がまわってきた。ついに新聞にヨイショされる日がきたのだ。
「真の勇者が現れた、ですって」
「うっきゃー!」やったー!
お母さんは僕の好みに配慮して記事を読んでくれる。何より僕のご機嫌が第一だ。
暗黒騎士がついに認められた。大成功!
聖教のコメントもあった。こちらも当然ヨイショ記事だ。何せ僕はローデン・リッツ中央教会を守った勇者なのだ。
色々と謎は残っているけど、兎にも角にも戦いは終わった。これからはもっと、ユルユルしながらスローライフを満喫したいものだ。
ボーイミーツガールもまだだし、俺つええもまだやっていない。ざまあする相手も探さなきゃあね。僕のラノベ知識を持ってすれば、内政無双だってできるんだ。
順風満帆、約束された人生を駆け抜けるよ。悪いけど。ドヤァ。
うつ伏せになり、何度も見た新聞イラストを見てまたニンマリする。
それは子供たちが描いた勇者仮面のイラストだった。
へたくそだなあ……。
花丸がついていた。署名は女子記者だ。あの人の記事だね。
最初に見た時に、お母さんが応援メッセージを読んでくれた。
「へえ。がんがれ、勇者仮面。だって」
ちびっ子たちが、力をくれる。嬉しい! でも、演出――、かな?
だけど。
がんがれ?
そうっ! 勇者仮面の戦いは、これからもまだまだ続くぜ!
◆
おしまい。
◆




