59「内面の敵」
キメラの表面が赤黒く変色した。昆虫の頭がせり出してくる。
この姿は――、実物を見た事はないけれどさあ。ボスキャラが触手持ちのムカデとはねえ。
悪役令嬢騎士は果敢に攻撃する。しかし相手は融合体。体を切るがすぐに修復されてしまう。
ユルクマはそれを見守りながらも魔獣と戦っている。
どう倒せばいいんだよ……。
『方法はあるである。内部に入るである』
うえ。マジ?
『近しい転生者ならば、可能である』
内部からの攻撃――。やるしかないか。
『時間は稼げるである』
それだけ? そもそもどうやって中に入るの。具体的にどうすれば……。
『体を大きく切り裂くである』
そうかっ! 大聖女様がやっていた。
『そうすれば中から融合していた魔が出ようとする。その中に入り込むである』
でもその後どうするの?
『共通の記憶にすがるである』
? よく分からん。まあ、やってみるか。
ムカデの上では薔薇対触手の戦いが続いていた。僕は隙を突いて背中に乗り剣を突き立てる。
いけるぞ。剣が通る!
そのまま動かしてムカデの背中を大きく切り裂く。
ここに入るのか……。しゃーない。やるしかない。
血こそ出ないが、中は生物の内部そのものだ。入り込むと外皮が閉じた。
このまま取り込まれるってことは……。
『アバターは融合不可である』
それなら安心――。
と思った瞬間、周囲が真っ白い光に包まれた。
これが噂の白い部屋というやつか。女神と対面する冒頭の場所だな。違うか。破壊してやる。
僕は右手に魔法花火をつく出すが――。
えっ!? 消えた?
『魔力を取り込まれたである』
なんて失敗を。ヤツを強くしてしまった。どうすれば……。
『ならば、精神の核を破壊するであるな』
どうやって……。何もないようだけど……。
周囲はただ白いだけだ。広いのか、狭いのかも分からない。
『精神を集中するである』
言われたとおりにすると、何やら黒い玉が見えてきた。そこから細い触手がたくさん生えて動いている。魂が横に広がり何やら表面に小さな虫が湧き出してきた。相変わらず気味悪い。
これがあいつなのか。
『そうである』
まあ、キャラ的にこんな感じだと思ってたけどさ……。
僕の体は人の形をしているようだけど無色透明だ。足が細くて腕も細く、なんだかゆらゆらと揺れている感じ。こっちは強さも気味悪さも、威圧感なんてこれっぽっちもないキャラクターである。
弱そう。
『ヤツを倒すである』
肉弾戦で? 無理だよ。あいつは相当こじらせている。人間の一線をちょっと超えてしまったような奴なんだ
『精神では勝てないであるか』
僕の根性じゃ無理だって。こっちの格好はこれ以上なくユルいでしょ。見ればわかるでしょ?
『ヤツを倒さねば、街の人間は全て喰われるである。更に成長し、この世界全てを侵食するである』
勇者がいればなあ。
『仮面勇者がいるである』
それは人形の商品名で――。
『とにかくやるである』
分かったよ。
近づいて指も拳もない腕で、上から殴ってみる。
はい、はい、はいっ!
――まるで効果がない。
駄目だったでしょ。こいつが抱えている病みと、僕のユルい生き様は勝負にならないよう。
『離れるである』
上に赤い薔薇の花が現れた。令嬢がこの中に入ってきたんだ。やるじゃない。
『森のクマさんも来たである』
続いてそのまんまぬいぐるみのクマもやって来た。サイズはぬいぐるみ並み、よりは大きいか。僕は少し離れる。見物させてもらおう。
薔薇の花が回転し花びらがたくさん散る。渦巻きながら、黒い塊に襲いかかった。敵は引きこもり触手で防戦する。
精神体の戦いなんて、いまいち迫力に欠けるよね。しかしなんだなあ。僕の攻撃は防御しなかったくせに、薔薇の方が強いのかね?
ユルクマの爪が外の時よりもさらに巨大になった。つまり精神はより凶悪なのかもしれない。腕を伸ばし攻撃するも黒い表面に弾かれてしまう。鉄壁の引きこもりはなかなか強固なのだ。
薔薇の花が全て散って竜巻のようになった。そこから悪役令嬢騎士の実態が現れる。しかしこちらもめっちゃ、サイズが小さい。小学生くらい位の子供だった。たぶん精神年齢がキッズなのだろう。
人のことは言えないか。僕もこんな姿なんだし……。
悪役令嬢騎士はちびっ子的に、エイエイと蹴り飛ばしたりしている。クマは何度も攻撃するが、爪は弾かれるだけだ。
『二人がかりで弱い者いじめをしようっていうのか? まったくお前らは優しいクラスメートだよ』
いや三人だよ。三人……。
一方的ないじめ認定かよ。しかしこれは引きこもりからの、脱出計画なんだよなあ。人の好意を理解してくれよ。




