57「制圧に挑む」
もうやってるのかあ……。
屋敷上空に行くと、周辺では戦闘が始まっていた。まだ小競り合い程度だ。
戦況をにらみながら苦戦している場所にピンポイントで魔導弾を叩き込む。
数が多いよなあ。たいして強くはないみたいだけど。
騎士団と冒険者たちは、順調に魔獣を倒している。序盤の戦闘は上手くいっていた。
前座の戦いって感じだね。雑魚は任せるっ!
『あの魔獣は、必要な魔力が抽出された状態であるな』
出がらし、ってことか。でも数が多い。キリがないなあ。あいつって、どれぐらい食ってたんだ?
『不明である』
元を断とう。試してみたい魔法があるんだ。
急降下してそのまま屋敷の玄関をぶち破った。地下の空間に降下する。
キメラの柱は全体がオーロラの障壁で守られていた。正面には三体の魔人が現われてる。
こいつが完成体なのか。今のうちに……。
両手を前に突き出し特大の花火を作り上げる。空気中の水分を分離して、そこから更に水素燃料を取り出す。内に内に、ひたすら中の温度を上げる。破壊力の広がりは、この屋敷くらいの一定範囲。方向は上部。それならばたいして被害は出ない。
貴族の屋敷だから敷地もそれなり広い。当然周囲も避難済みだろう。
良い感じに作れた。これが正義の味方、仮面勇者の力だ。
行けーっ!
魔法反応弾を発射してそのまま垂直上昇。建物の屋根をぶち破って上空に逃れた。更なる魔力を下に向け、反応を制御してやる。
おっ! ユルクマだ。
地上を走る二本の筋がこちらに向かってくる。浮遊疾走する魔力の後方噴射が光っていた。
遅い。今さら遅いよ。到着する頃には全て終わってるって。
あっ。もう終わったから帰っていいよ。何しに来たんだよ。もしかして戦い、怖かったのかな? あはははは――。ざまあ、と笑ってやってやる。
光芒が上がり、それは柱となった。僕は脇に避ける。屋敷は消滅だ。
魔力と原子の制御反応だ。どうかな? 僕だけが使えるぞ!
『同じ力を使う者もいるである』
そう……。
世紀の大発明が、実はよそで実現していた、なんてたまに聞く話だけどさ。◯◯って言う漫画のキャラが、✕✕に似てるっていうのと同じ現象かな。
周囲の注目を集めているうちに、僕は下に降りた。屋敷は消えちゃったけど、周囲に被害は無い。まあ、上手くやったと思うよ、実際。ドヤァ……。
光の柱が収まりつつある。しかし、まるで火山の噴火のように、いくつもの火の玉が四方八方に散った。敵はまだ現在だ。貴族街に着弾。一部は街壁にぶつかり、破壊する。
攻撃?
『障壁に守られている魔獣のようであるが……』
僕の攻撃って、けっこう無意味だったじゃん。
『そのようであるな』
がっくし……。
冒険者たちは着弾点へと散って行く。すぐ近くにも着弾した。現われたのは中型以上で、それも融合したおどろおどろしい魔獣だ。あれ相手に楽な戦いはできない。
「キメラの魔獣だ!」
「囲えっ」
「包囲の外に出すな」
騎士さんちは突然強敵と対峙してしまった。仕事ガンバってね。
ん?
光の中に人影が見える。その右に一人、左にも一人。完全体という名の魔人が現れた。
あれで、やっぱ効果なかったのか……。ヤバい……。非常にヤバい。
『効果なんてねーよ。俺はこの世界最強に進化しつつあるんだからな』
くそおおっ!
本体も元気に生きていたようだ。本当にヤバイ。どうする?
援軍のクマさんが頼もしいなあ……。早く来てください。