56「パーティー再び」
貴族街が宵闇に包まれ始めた。決戦間近だ。お母さんは僕の部屋で何やら物思いにふけっている。テーブルの上に置いた剣を見つめていた。
ヤベー。何を考えているの?
剣を抜いて鈍色の肌を眺めた。そして再び収める。
ヤベー……。
お父さんが帰って来た。お母さんは窓際に寄り外を見る。僕はよいしょと立ち上がり、トコトコと歩いて足元に寄り添う。
「アル君。手伝ってもらうわ」
「バブー?」何かな?
お母さんは、僕を抱きかかえて床に寝かせた。
「こんな感じだったわね……」
そしてお尻をグイと持ち上げた。僕の持ち芸の一つ、究極土下座だ。その横にお母さんは正座した。これを、またやるのかのか~。
「うわっ! 一体どうしたんだ。ニ人共――」
扉を開けたらいきなりこれじゃあ、驚くよなあ。二回目だけど。
お母様は頭を深々と下げる。
「ランメルト様に、お願いがございます」
「分かった。一緒に行こう」
「えっ?」
お父さんは跪いた。お母さんに右手を差し出す。
「戦う時はいつも一緒だよ。フランカ」
「あなた……」
「お前……」
二人はしばし見つめ合う。
まったく。この夫婦は、いちいち芝居みたいなことやらないで、普通に話して決められないの? やっぱバカップルだね。
二人は戦闘衣装に着替えた。王宮騎士の装いではなく冒険者ふう。お母さんはビキニアーマーだけどインナーがあるので肌成分の露出はない。残念っ!
久しぶりに結成した、たったニ人の冒険者パーティーだ。
「いつ仕掛けるの?」
「準備が整うのは明日の早朝だ。しかし相手の魔力が高まっている。今夜もありえるな……」
地図を広げ、お父さんはお母さんに作戦の概要、地理的条件などを説明した。戦力の配置と、防御体制などである。
問題はあの化け物キメラをどうやって仕留めるなんだけど、そこまでの策はなかった。お母さんも簡単にできることじゃないとは理解している。特にそこには突っ込まない。
この国の体制とは、そんなものなのかもしれない。誰も知らない何かが突然現れるのかもしれないし、何から何まで全員に知らせたりはしないだろう。
「よし。行ってくるよ」
「ちょっとだけお留守番をお願いね」
二人は立ち上がった。
「アル。この屋敷を頼むぞ!」
「おとー、おかー。ぶぶー」お父様、お母様。ご武運を。
留守は僕に任せてよ。お忍びで外出するけど。
◆
「さて。来るかな?」
「来るさ。俺たちだって働いてやる!」
貧民街自警団の二人は、街壁の上から森の奥に目をこらしていた。
昼間は救済に来ていた貴族の子供たち、騎士、冒険者たちを見送った。そして戦況が終わりに近づいたことを感じ取っていた。魔獣の脅威が今、貴族街にあると理解していた。
「来たみたいだな」
「ああ、こちらも始まる……」
森の闇に魔力の明かりが点滅を始める。警戒線での戦いが始まったようだ。
「外を確認して門を閉めろ。壁で迎え撃つぞ」
地上で警戒している仲間たちに大声で怒鳴る。互いに声を掛け合い、全員がやるべき事をこなす。
「弓矢と魔導弾を撃てる者をすぐに上げてくれ。敵が来る――ん?」
壁の内側にも光が見えた。今や馴染みになった地を這うような光の筋だ。
「森のクマさんが行くぜ」
「ああ。戦いに行く」
「いよいよ決戦だもんなあ……」
行き先は貴族街の方向だった。クマもまた、やるべき事に向かっていた。
「……さて俺たちも戦うか」
「俺たちの居場所を守るためにな」




