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53「貴族の危機感」

 思えば僕の戦いは森の中で始まった。それから庶民街に行ったり、貧民街で軽微な奉仕活動をしたりした。そして庶民街であの事件が起こった。

 順調な階段を登り、戦いの領域はやっとここまで来たんだ。

 僕は今、貴族街を見下ろしながら飛んでいた。

 いよいよここで活躍して、人気者になる時が来た。ユルクマなんて所詮は貧民アイドル。貴族の皆さんは勇者仮面人形を爆買いしてくれるに違いない。

 持ってる連中だからな。太客ってやつだ。


 貴族街で、赤ちゃんの体で外出したのは教会だけだ。この新宿と呼べる街がどのような場所なのか興味がある。

 ひときわ魔導の明かりが輝いている通りがあった。こんな時に、こんな時間でも結構人がいる。商店街だね。

 しかし今王都で起こっている騒ぎは知っているだろうに。貴族って平和ボケなのか? 自粛が足りないよ。けしからん!

 僕はその通りの真ん中に降りてやった。ものすごい注目を集めて、なかなか気分が良い。

 君たち僕の名前を知っているかい? 有名人の勇者仮面だよ。

『こんなところを、こんな姿で歩くのであるか?』

 知名度を高めないとね。貴族の皆様に悪役扱いされたら戦いにくくなるし。

『それはそうであるが……』

 今は戦時だ。後進国を啓蒙してやるよ。

 男性貴族や令嬢、婦人、商人たちがこちらを遠巻きにして見ている。何やら眉をひそめてヒソヒソと話し合っていた。ヤバいな。不審人物扱いか。そのうち慣れるだろう。

 どんな店があるか眺めながら通りを歩く。洋服屋さんとか雑貨屋さんとか、さすがに庶民街とは店構えが違う。貧民街などとは比べ物にならない。これが階級社会か。スクールカーストと同じだ。

 しかし――。

 どうにも白い目で見られているな。正義の味方をありがたがってくれると思っていたけど、あまり危機感はないのかな? 

 まあ、そのうち勇者仮面に馴れるだろうけど……。


 えっ? 前からドM令嬢が歩いて来る。なんで? いや、あちらで働いていても、時々は自分の屋敷に帰りもするだろう。

 イケメンの護衛が二人いる。かなり強そうだ。三人共に剣で武装して鎧をつけている。姿だけ見れば僕の仲間みたいな感じだね。多分あれで人々を守って警戒しているつもりなんだろう。さすが令嬢M。エアー戦闘の雄。

 僕はさっと路地に入り込む。勝手に体が反応してしまった。喧嘩を売られたら逃げるしかない。そんなところを、人に見られたら人気どこにではないだろう。勇者仮面の信用そのものが失墜してしまう。

 そうだ! あの護衛の男性二人は、貧民街で見た。冒険者の格好をしてたけど、今は貴族ふうの衣装だった。つかず離れず令嬢様を守る、愛し合ってる二人なんだな、きっと。勝手な想像ですけど。


 結局僕は貴族街の裏路地を走りながら問題の地域を目指した。この姿に、やはり表舞台は似合わないか。困った。戦場こそが我が居場所は、嫌なんだよなー。


  ◆


 さて、その戦場に到着した。兵士はいなく冒険者みたいな人が警戒している。これは貴族の私兵団だな。我がブラウエル家も領地の若者を王都に呼んだりして組織している。普段はギルドの冒険者、時には契約する貴族のために戦う。

「おい」

「ああ、噂のアバター(化身具現)がご登場だ」

「へー、アレ強いんじゃね?」

 こちらを値踏みしながら警戒の輪を開いた。分かってるじゃん。僕はさしずめ重要な招待客だね。

「戦うなって言われてるけどさあ……」

「よせよ。追放されたいのか?」

 ムッとした顔で、こちらを見ている猛者もいる。

 けっこう、けっこう。戦って語り合うのはラノベの王道だよ。来るか?

 ――何も起きないね。

「通してもらおうか……」

 仮面勇者も、かなり知られてきたな。まあまあだね。本当は女子や、ちびっ子たちに人気になりたいんだけど。


 内側の警備は騎士様たちだ。再びジロジロ見られてしまう。謎のヒーロー設定なんて無理があるよな。強くてどこの誰かもわからない人間なんて、普通にこんな対応されるだろう。

 団長さんがいた。

「ここが問題の屋敷か。入らせてもらうぞ」

「明日、我々は突入する予定だ。手伝ってくれるか?」

「もちろんだ。その前にやつと話してくる」

 ついに決断したのか。自殺攻撃の決死隊。昭和時代のアニメ展開。全員死亡フラグ。

「何度か偵察を試みたが、例の触手に阻まれた。中の気配は高まる一方だ。こちらは戦力か整うのを待っている状況だ」

「うむ……」

 状況は厳しいようだ。何か方法は――。

 と考えていたら、人垣を割って誰やらが僕に寄って来る。忙しい戦士を足止めするなんて、何なの?

「テメェ。あの時の――」

「こらあっ! どこに行きやがるっ!」

 ありゃー。バカ元騎士コンビだ。

「こんなところで、何をやってるんだ?」

「ああっ!」

 事情も良く分かってないのに、勇者仮面の姿を見てなぜか激高してしまったようだ。怒鳴りながら僕につかみかかってくる。

 じゃあ、お約束の対応、してやんよっ!

 バシッ!

 右のやつにはハイキック。

「がっ」

 左のやつにはアゴにフック。

 ビシッ!

「ぐえっ」

 瞬殺(死んではいない)。ざまあ完了。

「「「わっはははは」」」

「「「おーー」」」

 騎士の皆さんは、腹をかかえて笑う。手を叩き歓声を上げた。

 団長さんは肩をすくめる。

 ハイキックガールにたいした処分もなかったしね。これも問題化はしないでしょう。

 田舎からやって来た問題児に、ちょっとお仕置きしたくらいさ。

 さて。後顧の憂い(こうこのうれい)(あとの心配事)は絶った。

 行きますか!

 僕は壁抜けし、屋敷に侵入する。


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