50「膠着戦線」
ピンク子猫が現地や関係機関を偵察し、情報収集をしてくれた。
問題の屋敷(今は瓦礫の山)周辺は封鎖され住民たちは避難となった。
騎士団と兵士がぐるりと取り囲み、その外側には冒険者たちが配置された。
何度か威力偵察をしたらしいが、そのたびに触手が暴れ回り作戦は中止された。
で、結局は観察による情報収集に切り替えたらしい。謎の魔獣も積極的に動かないので、こちらも動けないような状態になってしまったのだ。
交代で一日中、昼も夜も守らなくちゃいけないのは、けっこうしんどそう。
僕は気楽なもんだ。夜だけ行って建物の上からちょっと覗いているだけだから。
王政も次の作戦をどうするか考えあぐねている。敵に動きはないけど、放ってはおけない。このまま見守るのは、何もしないと同じだ。
最後のボスキャラ登場に、王都は大騒ぎ。お父さんも王城に泊まり込んで対策を練っているのだろう。今夜も帰宅しないみたい。
お父さんとお母さんの会話は貴重な情報源なんだけど、聞けないのは仕方ないね。そのうち二人は、また喧嘩しそうだ。
あのアバターはキメラと呼ぶらしい。
人間や魔獣を融合する具現で、そこから分離した体もまた場合によっては融合の力を持つ。つまり先日大聖女と戦っていた気味悪い魔獣は、あいつの分離体であったのだ。
床に広げた新聞には、王都の地図が載っている。×印が付いているのが、人が行方不明になった場所だ。今回の怪物出現の位置と大体合っている。間が悪いことに、貴族街の壁に結構近い場所だ。
だからここブラウエル家周辺も、いつにも増して騒がしい。貴族街の近くに、謎の脅威が居座っているのだ。
シャンタル子猫がやって来た。
『教会も通常対応、業務を停止して厳戒態勢に入っているである』
僕はもっと強くなれないのかなあ?
『成長を待つである』
僕は魔力インフィニティなんだけど。
『将来を含めての話である』
サギみたいな話だよなあ……。誰かもっと強い戦士とかいないのかね。Sランクの冒険者とか、ツエエの人とかさ。
ところで、騎士団って全く活躍してない感じだけど……。
『主力は国境線近くに配置されている。交代で王都に戻るのだが、現在はほとんど留守のようだ』
忙しいんだ。予備人員はいないのか。
時間はどっちに味方するか、って感じだね。どっちなの?
『敵である。そのうち魔人の完全体が出現する』
もう人間はさらえないよ。
『あの大きさはすでに相当数、人間も魔獣も喰っているである』
見つけるのがちょっと遅かったのか。街壁の外ばっかりに気をとられていたなあ。
『あの地下室に居座って、人間をさらっていたである』
魔人を作り出すためにか……。どうしようか。
『王国は決死隊を募っている』
じゃぁブッ込もう。時間稼ぎなんてさせないよ。
『……賛成はしないであるが』
僕ってただ待っているのは性に合わないんだ。何か行動しないと、悪いことばかり考えちゃうし。まあ、軽率とも言えるけど、じっとなんかしてられない。
動くしかないと、内側から何かが沸き起こる。それにヤツは同じ転生者だ。
『事情は分かる』
アバター!
◆
僕は封鎖線のすぐ内側に降り立つ。
雑兵たちの皆さん。救世主の登場ですよ。
「あっ、あいつ」
「勇者仮面……」
自由に動けない、国家公務員みたいな諸君よ。フリーランスが、戦局を動かして差し上げます。
僕は剣を抜き、肩に担いで瓦礫の前まで歩く。屋敷の間取りはどうだったかと思い出す。
だいたいこの辺かな……。
地下への階段のあった場所に狙いを定め、なぎ払うように剣を振った。瓦礫が吹き飛ぶ。更にもう一度。そしてもう一度だっ!
問題の穴がさらされた。気味悪い触手はお眠りになってるようだ。
叩き起こしてやるよ。
開口にゆっくり降下する。地下一階の木造床部分はバラバラになっていた。地下二階部分の岩肌に着地する。
やっぱりこの岩の壁ってアバターなの?
『そうである』
よく見ると洞窟の色であるが、模様が独特だ。それが触手の集合体で岩石でないのが分かる。
僕はゆっくりと横穴へ進んだ。突き当たりは、上の岩が崩れている。
あの時揺れたからだな。好都合だ。大きな隙間が開いている。
触手の壁が更に先へと続いていた。
本体は奥にいるんじゃないかな?
『こちら側にある触手体も、本体と言える』
頭とか脳みそとか、分かりやすい部分はないんだねえ。
『この具現体を維持しながら、起きているである。人間の体が』
器用というかなんというか。そんなこともできるのか……。
『二十四時間アバターを維持しながら、人間としても活動している』
僕もできるの?
『無理である。融合した人間がいるからである』
なるほど……。この先はどうなっているのかな?
『ダンジョンの一部であるが、この先は貴族街の壁であるな。建物の地下とつながる通路は複数ある』
地下道で貴族街の屋敷に繋がっている? ダンジョンが? まずい。かなりまずいよ。
『敵の狙いである』
行ってみよう。
『慎重に進むである』
僕はその瓦礫を乗り越えた。
地下の通路はただ真っ暗な闇が続くだけだ。暗視の力を使っても先までは見えない。
いきなり進むのはヤバいか……。
『慎重な判断であるな。それで良い』
かなり先まで真っ直ぐだよ。地上で当たりをつけよう。
『比較的壁に近い屋敷に限られると思うが、王都の地下は機密扱いなのである』
そりゃそうだよね。
『目覚めたであるな』
起こしちゃたな。対面するか。
僕は引き返しながら剣を何度か振る。




