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39「編集長の戦略」

「いやぁー、お待たせいたしました。ちょっと書類を探しておりましたので。私が編集長のズヴァルト・ハンネスです」

「俺は暗黒騎士改め勇者仮面である」

 二人の記者は立ち上がって席を譲る。

「ほう、暗黒の騎士様でしたか。勇者仮面はやめて、名称を暗黒騎士にいたしましょうかねえ……」

 編集長はそう言いながら名刺を差し出した。

アバター(化身具現)は魔力の具現体なので、他の物質は所有できないである』

「いや。名刺はけっこう」

「そうでした。アバター(化身具現)なのですからね」

「名も勇者仮面とやらでけっこう」

「それは良かった。人形の商品名は縫製業者と相談して決めましたから。助かります」

 丸顔に太ったメガネのおじさん。第一印象は良い人認定。僕は編集長になる人に会ったこともないので、いかにもそれらしいのか、そうでない人なのかが全く分からない。

 なるほど。その業者との、コラボ企画のような商品開発か。新聞社が情報提供して商品を作るんだな。

「では早速ですが、いくつか聞きたいこと等ございますので」

 そう言ってソファーに座り、テーブルの上に何枚かの書類を広げる。

「まさかいきなり独占取材ができるなんて、感謝いたします」

「いや……」

 この編集長さんは、なんて自分勝手なんだ。まずは僕が何しに来たかを、普通聞くだろう。普通。

「編集長。勇者仮面様は改善要求の苦情に参ったようですよ」

「そうです。編集長の書いた記事の内容が誤報だと言ってます」

 女子記者、男性記者共に僕の真意を代弁してくれた。

「俺は正義の味方。勇者仮面である」

 ドーン! 正義の味方。なんと良い響きだ。誤報は許さんぞ!

「あの記事のほとんどには、クエスチョン(?)マークをつけていましたが?」

 ……なんて屁理屈だ。断定を避けて、このようなこともありえる、と書いたとの強弁だ。つまり読者が勝手に誤解したとの論調である。

「それに、確かに酒場の客はそう発言しましたよ。誤報とは心外ですな」

 こっちはお母さんが読んでくれた文章を聞いていただけだ。確かに(?)マークは付いていたのかもしれない。酒場のおじさんたちも、酒飲みながらテキトーなこと言ってたのだろうなあ。

 それにしても――。

「とにかく事実に基づいた正確な報道に努めてほしい。勇者仮面はこれからどんどん活躍するつもりだ」

「分りました。我々もどんどん後追い報道しますよ。ところで――」

「質問に答えるつもりもない。これからの行動で示してみせるっ!」

「おーっ。期待してますよ」

「まあな。期待してくれ」

 男性記者は分かってくれたようだ。

「私は赤ちゃん探訪とのコラボ企画を提案します」

「それは遠慮しておくかな」

 僕はほっこりなど眼中にない。我ゆくは修羅の道。

「お母さんたちや、子供たちにも人気になりますよ」

「……考えておくか」

 ベテラン俳優がバラエティーに出演して、ネット動画も上げる時代だ。やらず嫌いはいけない。女子目線の企画はあって当然。

 編集長は広げている書類を指差した。

「見てください我々が総力を挙げて取材した、貴族たちの不正の証拠がここにあります。正義の味方としては、なんとかしたいと思うでしょう……」

 僕はそ知らぬふりをして視線をそらす。こんなものを見るわけにはいかない。我が家の名前があったら大変だ。徹底的に目をつむるぞ。

 それにこの編集長は、この僕を貴族の屋敷にブッ込ませようとしているのだ。勇者仮面=必殺仕事の人ではない。

 事件がなければ起こせば良い。ネタがなければ作れば良い。なんて恐ろしい男なんだ。この編集長は。

「どうでしょう。正義の味方であるなら、この貴族の屋敷に突撃しては?」

「いや……。俺は貴族と敵対するつもりはない。使命は魔獣や魔人との戦いである」

「ならば、お聞きします。あなたにとって正義とはなんですか? 読者もそこに興味がある……」

 ハンネス編集長は、目の奥をキラーンとさせた。まるで僕の物語の、テーマ性を追求しているようだ。

 正義とはなんぞや。

 それはラノベ読者にとって永遠のテーマだ。ある一方方向から見れば正義であっても、別方向から見ればそれは悪であったりする。結論は読者に任せ、投げ出して終わるラノベのなんと多いことか。

「俺が正義だ」

 そう、テーマより主人公が活躍してスカッとすればそれで良し。つまり僕が正義。

「この貴族は悪質ですなあ。なんとなんと、奴隷売買に手を染めている――」

「なんだって!」

 幼女の売買だと!?

「――かも?」 

 かも、か。クエスチョンマークが付いてるな。危ない危ない。ガセか。

「そちらは王国の行政にでも対応させればよかろう」

「それは残念です。聖人ミカエル・コサキの名が泣きますな……」

 編集長は挑発するように首を左右に振る。そうはいくか。

「そもそも聖人の名前とは、どのような意味があるのだ?」

「そこは人形縫製会社が考えました。我々はそれを追認しただけですよ」

「ふむ……」

 知らないふりかよ。まあ、今夜はこれぐらいにしておくか。僕は長く喋るとボロを出すタイプだし。

 席を立つ。

「また来るぞ」


 ふう……。

 どうにも中途半端な突撃だったけど、収穫はあったな。

 帰路も魔獣の気配に注意しながら飛ぶ。

『成果はあったのであるか?』

 まあね。悪意がなかったから良しとするよ。他人の評価ばかり気にしていたら、何もできないしね。

『信じる道を見つけて、そこに向かって進むが良いである』

 それは大袈裟。楽しさもプラスしたいね。

 同級生、他の皆は何を考えて生きているのだろうか?

 一年。そんなに前から、ユルクマはいたのか。アバター(化身具現)の主は同級生じゃないのか?

 いや違う。同級といっても、歳の差は最大十二ヵ月近く開くはずだ。その差でこの世界に転生したのならば、十分にあり得る話だ。

 王都ウイークリー。

 編集長は一筋縄ではいかない相手だった。僕の住んでた世界のマスコミは、命がけで真相報道するような人たちばかりだった。捏造報道なんてとんでもないし、世の中を良くしようと使命感を持って仕事をしていた。この世界はやはり後進国みたいだな。

 でも……。

 異世界ってなかなか面白いじゃないか。退屈しないね。

『転生者とは面白いであるな。それで満足するであるか』

 半分満足で十分さ。

『矛盾した言葉であるな』


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