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03「世界の模写」

 僕は相変わらず眠ったり起きたりしているだけの、怠惰なる生活ぶりを続けていた。

 赤ちゃん特権よ、ありがとう。

 と思ってたらお母さんがやって来た。

「いい子にしてたわね」

 と言って頭上に手をかざす。

 魔法陣が現れてくるくるっと回った。魔力を補充しているのだ。

「キャッキャッ、キャ」

 僕というより、赤ん坊の僕の体が反応する。サービス反応だ。

 この世界には魔法がある。さすが異世界。

 魔方陣は僕の体調やご機嫌やらを見守り、何かあれば母さんに知らせているようだ。

 睡魔が襲ってきた。これも魔法の効果か?

 とにかく、夫婦仲良く頼みますわ。家庭環境は、僕の将来にかかわるしね。


 お昼寝が終わり、しばらくしてメイドさんが二人やって来た。車輪付きのベビーベッドに載せられ廊下に出る。

 まさか。僕を拉致してどこかに連れて行くのか? それともこのまま命を狙うのか? ラノベの冒頭で事件が起きるってやつか! 魔方陣は無反応。

 まずいぞっ!

 と思ったらそのまますぐ隣の部屋へ入れられる。

 すぐにお母さんがやって来た。

「しばらくこの部屋ですごしてね。お父さんがヘンなことを言い出してねえ……」

 と言いつつベビーベッドを窓際に移動させた。

 首を動かして窓の景色を見る。いつも眺めているのとそう変わりはなかった。隣の部屋だし当然か。

 よく手入れされた庭の木々に彫刻の数々。こんな庭園があるなんて、やっぱりここは大金持ちの屋敷だ。メイドさんも多いし執事もいる。

「まっ。隣だしね。景色は代わり映えしないけど」

「うーうーっ。キャーッ」 しゃーないです。でも立派な庭ですなあ。

 この世界は実に平和だ。いや、僕の周りだけか。

 僕が今までいた部屋と同じで、この部屋もかなり豪華である。

 ズバリこの家は金持ちで、お父さんお母さんともに育ちが良くて品がある。

 文明は外国の中世みたいで、つまり貴族なのだ。すごい!

 ファンタジー設定ならばわりと普通だけど。

「終わったら、すぐに元の部屋にお引っ越しよ」

「……」

 お父さんの思いつき、ヘンなこととはいったい?


  ◆


 僕はしばらくこの部屋で暮らした。

 周囲の会話に聞き耳をたてつつ、現状把握に努める。そしてぼんやりだけど分かってきた。やっぱりここは、中世ファンタジーの世界観だ。

 そしてまたお引っ越し。

「終わったわ。さあ、戻りましょうね」

 お迎えに来たお母さんと元いた部屋に戻ると、そこにはお父さんがいた。

「来たか。なかなか良いできだぞ。そう思わないか?」

「すばらしいと思うわ。だけどこの絵で本当に良かったのかしら?」

「大丈夫だよ。問題はない」

 真っ白い天井いっぱいに、絵が描かれていた。

「キャッ。ウッ、ヒャーっ!だーっ!」 これはすごい。お父さん良い仕事したね。

 と言いつつ手足をばたつかせる。体中を使い喜びを表現してみた。

 ちょっと悪役の叫びみたいになっちゃったけど。

「おおっ! すごいはしゃぎようだ。喜んでるぞ!」

「悪魔の大軍勢。相対するのは冒険者パーティーたち」

「うん。三百年前の聖戦だよ」

 お父さんとお母さんは天井を見上げながら話をする。

「二つの冒険者パーティーが共に戦ったのは、後にも先にもこの時だけだしね」

「伝説の戦いさ。だからこれを今に結びつけて、あれこれ考える者などいないはずだ」

「それはそうだけど……」

 右側には黒い人型の、おそらく魔人たち。そして四つ足や、様々な動物に似ている漆黒の獣。これは魔獣だ。

 そして左側には人間たち。先頭の二つが冒険者パーティー。後方には鎧を着た騎士たちや、神官ふうの人たちもいる。

 この世界の歴史では聖戦と呼ばれる位置づけなのだ。

「息子も、いつかは私たちのように勇者たちを助けてこの世界を守ってほしいものだ」

「まだ気が早過ぎるわ。本人がどう思うか」

「我々の息子だよ。間違いない。同じ道を選ぶはずだ」

 うすうす想像はしていたが、やっぱりとんでもない世界に来てしまったと思う。楽しみ――。いや、えらいこっちゃ。

「期待過剰はほどほどにね」

「そうだな。でも親としては、やはり期待してしまうなあ……」

 それを親バカって言うんだよなあ。子供にはプレッシャーだね。

 前世の僕は、争いなど無縁で育った子だ。戦いなどとんでもない。

 現代には受験戦争やテストの順番、つまらないことでマウントを取り合うくらいの争いしかなかったんだ。

 剣や魔法を使ってなんとかしろ! だなんて。とにかく、あまり子供に期待しないでください。

 貴族の本分? ならば仕方ないさ。

 その時は観念して、僕が勇者となって立ち上がります。助けて戦うじゃなくて僕が勇者、主役ですよ。

 両親が僕を楽しませようと、天井にこんな絵を描いてくれたのが嬉しい。でも僕の思考はすぐに切り替わった。

 同級生の皆は、一体どうなったのかな?

 やはりこの世界に来ているのだろうか?


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